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4/10 墨と角

今日は母と上野で待ち合わせをした。特に目的があるわけでもなかったが、たんぽぽハウスと呼ばれる古着屋さんに一度行ってみたいと思ったことをきっかけに久々に上野へ降りた。
天気はいいけれど桜はほとんど枯れていた。上野広小路近くの店舗を訪れたけれど、今日は買いたい服に巡り会えず昼ごはんを食べることになった。
母と私は好きなものもそんなに相違がなく、昼から生ビールが飲めるなら基本的にはどんな場所でもいい母と私は上野のアメ横をフラフラと彷徨った。街には訪日外国人と思われる人がたくさんいて、結構な賑わいを見せていた。行きながらに見た海鮮を売る魚屋さんで「エビが30匹で1500円」という破格の値段で売られているのを見て、帰りに絶対買って帰ろうと話しながら、私の好きなもんじゃ焼き屋に入った。
大正時代から魚の卸問屋として商売をしていたというその店では言わずもがな海鮮がとても美味しい。
「もんじゃ焼き好き?」と聞かれた母は屈託なく「あまり食べたことがないかも」と答えた。神奈川県で生まれて東京で結婚したにも関わらず、もんじゃ焼きに触れずにどうやって今まで生きてきたのだろう?と不思議に思った。ならばなおさら美味しいもんじゃを食べさせなければという半ば使命感のような気持ちに駆られ、迷わずに「イカ墨もんじゃ」を注文した。
墨袋も食べられるイカは新鮮そのものに違いないし、汁には生クリームと出汁がふんだんに使われていてとても美味しいのだ。はじめてこの店に来てから、ずっと頼んでいる。もんじゃ焼き屋で明太子餅チーズ以外を推すのはここが初めてだった。とろりとした汁を最後に残して、店員さんがてきぱきと焼き上げてくれる。イカは今とても高騰していて日常的にさらっと買えるような代物ではなくなっているらしい。そんな話をしながら昼から飲む瓶ビールは爽快だった。

帰り道、行きすがらみた海老の山を買って帰ろうという話になった。方向音痴な親子がアメ横をとぼとぼ歩いていると、先程見た魚屋らしき看板が見つかった。しかし海老の価格が違う。「15匹で1500円」とさっきから二倍の価格になっているではないか。普通閉店時間が近づいたら価格を下げるものだと思っていたが、それは私たち庶民の思い込みの商売だったらしい。これじゃあ買うのもなんかね、と言いながら、別の店頭で叩き売りされている中トロと大トロを見つけて買った。海老ってうちだと弟以外食べないんだよね、と言いながら、じゃあなんで買おうとしてるんだろうと思う。お母さんって子供がいると、ずっと母親としての感覚を失わないでいられるものなんだろうか。刺身の一番上等な部分をあげたり、ケーキを一番最初に選ばせてあげたりできるのだろうか。
瓶ビールを手酌している母を見ながら思った。

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