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「孤独のグルメ」を観る男の魂 ~Season1 第4話 浦安市の静岡おでん~

 こんにちは、伊波です。並未満の画力だと、静岡おでんほど描き分けの難しい料理はないもんですね。や、そもそも料理なんてとても描けませんけども。


あらすじ:五郎さんの後悔

 西海岸のような光景が広がる新浦安にやって来た井之頭五郎(松重豊)。今回の商談は結婚式場だ。場内を見学中、五郎は挙式の段取りをするカップルを見て、かつての恋人・小雪(目黒真希)を思い出す。彼女との思い出はほろ苦いものだった。

五郎さんと新浦安

 冒頭にて「はじめて降りたが、立派な駅だ」と感想を漏らしているように、新浦安へやって来るのは初めての様子。街のつくりをぐるりと見まわして「この雰囲気、何だか西海岸のようだ」と評しています。

所感1:やり手の井之頭と、勇敢じゃない五郎

 結婚式場にて五郎さんは、式場担当女性・篠原(葛西幸菜)から「白金の担当者からよく聞いております。インテリア、雑貨に関して色々とアドバイスをいただいていると。青山、赤坂の方でもお世話になっているようで」と言われています。第1回は滝山の紹介、第2回は古くからの付き合い、第3回は不明というように、五郎さんの仕事について客観的評価を交えて語られるのは今回が初めて。一等地の式場でも評判は上々の様子、今回の商談相手を待つ間のわずかな時間で「調度品も良い物を選んでいる」と館内の品々を見定めるあたり、五郎さんがやり手の男であることを窺わせています。

 一報でこの回のキモである、かつての恋人だった小雪(目黒真希)との回想シーン。なお、こゆき、ではなく、さゆきです。
 “あの時”の回想では「勇敢じゃないしね……」の言葉も。前半の“やり手感”とは正反対の五郎さんが描かれますが、どんな会話が繰り広げられたのかは本編でご確認を。

 それはそうと、小雪をめぐってのエピソードは、原作にも登場します(1巻の第5話)。ただし、原作のほうは何と言うか、言葉数が多い分もっとあけっぴろげに勇敢じゃない五郎さんだったり(失礼)。
 かといってドラマ版の五郎さんは空腹になるとそれ以外の事は眼中から外れてしまう酔狂な性格(失礼)に描かれているので、それはそれでダメっぽさがはっきりしています。比べてみるのも面白いかもしれません。

所感2:梅は咲いたか、桜はまだか

 そんなこんなでいつものように空腹に苛まれ、命からがらの状態(大げさ)でカフェのような外観のお店「ロコディッシュ」を見つけた五郎さん。カウンター席に座り、メニューをパラパラと見たところで“静岡おでん”の文字に意表を突かれてしまいます。ロコディッシュ店長(宮前希依)の出身が静岡ということもあり、ランチプレートで選べるメインメニューに名を連ねているのだそう。
 五郎さんは他のメインメニュー候補には目もくれず静岡おでんをチョイスしますが、惜しくも今回は登場とならなかった残りの2品のメニューも気になります。一つは牛すじトマト煮(ちょっと聞き取りづらい)、そしてもう一つはもつシチュー。どちらもいい塩梅のB級グルメ感がよし。というか、静岡でもつカレーは聞いたことあるけど、もつシチュー……?もつカレー自体も未開の領域なので、それがシチューとなるともっと未知……!
 ちなみにこのSeason1が放映されたのは2012年のこと。そして静岡おでんが所謂ご当地メニューとしてブームになったのは、調べてみると約15年ほど前なのだそうです。なので、東京での話題がちょっと落ち着いた頃にドラマで登場、といった流れが推測できます。

 さて、五郎さんはランチプレートを待つ間に、別席の主婦たちが楽しんでいるのを見て、工芸茶をオーダー。工芸茶は80年代に中国で生まれた再加工茶で、熱湯の中で開く花の様子が見た目にも楽しいお茶です。ガラス製ポットの中をじっと見つめる五郎さんの姿は、オジサマ好きには萌えポイントかもしれません。

 やがてランチプレートが到着。大きななると、そしておでんの上にまんべんなく振りかけられた“だし粉”に、目を奪われます。
 手始めに名物の黒はんぺん。串を手に取り、「いただきます」と軽く会釈のように頭を下げて一口……はい、ここ! 実は五郎さんが食事前にきちんと「いただきます」と言って食事を始めたのはこの回が初めてです。これ、テストに出ますよ!
 さて、黒はんぺんはというと、だし粉が利いた味わいに「これこれ」と納得の様子。「おでんは立派にごはんのおかずになる」と、金言も飛び出します。そして、おでんの中でも別格というたまごも一口食べ、「うん、期待を裏切らない、黒たまごだ!」とご満悦。「ラストにアンコールでもう一個いくか」と、食べきらないうちに“おかわり宣言”も飛び出します。
 と、そこへご近所の女の子(川上莉那)が土鍋を持っておつかいにやって来ます。彼女と店長のやり取りを見ていた五郎さん、牛すじが店の人気メニューであることを知ります。そしてふいに口元を緩ませ「こんなおつかいなら、俺もやりたい」とボソリ。うーん、おじさんのおつかい、爆誕か……。

 女の子が店を出たところで、おかわりオーダー。今しがた情報をキャッチした牛すじと、既に狙いを定めていたたまご、そしてちゃっかりご飯とみそ汁もおかわりするところが五郎さんらしい。この回まで、白飯おかわり率100%!
 やって来た牛すじのとろけ具合に舌鼓を打ち、お新香、白飯、みそ汁、そしてデザート代わりのたまごと、畳みかけるように食べてフィニッシュ。静岡での雪辱を浦安で果たしました。

今回のマニアックポイント

>>今回のズームアウト

 長い回想に耽っていた五郎さん、「小雪……」と俯きかけるや否や、「腹が……減った……!」と顔を上げ、ズームアウト。式場を後にした五郎さん、いつの間にか近くの公園の芝生で体育座りの姿勢で“あの頃”を思い出していたようです。空の白さと、何もない景色とが相まって何とも寒々とした感じが印象的なシーン。ちなみにこの時の表情が、放送4回目にしてきれいな三角口▲していました(個人の感想)。

>>今回の珍客

 ご近所のマンションに住んでいるらしい主婦三人組。昼下がりのカフェで工芸茶を楽しみつつ井戸端会議とは、まさに住宅街のひとかどの光景といったところ。交わされるグチも、「当人にとってはメーワクな話かもしれないけど、他人にとってはどーでもいい話」という絶妙なくだらなさがリアル。

ふらっとQUSUMI

 洒落たカフェの外観と静岡おでんの組み合わせには久住さんもビックリ。黒はんぺん、大根、そして隠れメニューのクジラのコロをチョイス。さらに千葉の地酒「万喜」をチビリ。明るいうちからそんな組み合わせ、うらやましいったらありゃしません。店長さん曰く「静岡おでんは駄菓子屋に置いてあった」そうで、小さい頃から学校帰りなどに食べていたという、まさに“原点”の味。
 五郎さんと同じく、追加で牛すじを2本。深夜に観たら気が狂いそう。

出演者について

 五郎さんのかつての恋人・小雪を演じたのは目黒真希さん。20代のころからファッションモデルとして活躍し、30代を迎えた2002年ごろから女優としての活動も本格化。2010年公開の「君と歩こう」では主演を務めています。また、Wikipediaによれば宮城県出身とのことで、震災以降は関連作品への出演も見られます(『日本零年 フクシマからの風 第二章』、猪苗代湖ズ「I love you & I need you ふくしま」PVなど)。

 ロコディッシュ店長役の宮前希依さんは、なんと実際の店長さんと同じ静岡出身。女優業のほか、絵画や写真など、アーティストとしての活動も行っているそうです。ブログのほか、SNSによる発信も積極的に行っていたようですが、2021年後半あたりでいずれも更新が途切れていました。

 第4話にして初めてクレジットに名前が挙がったオープニングナレーションは柏木厚志さんが担当。実は第1話で常連客役として顔出し出演も果たしています。プロフィールでは俳優と並んで実演販売師という肩書も記されており、そのテクニックを生かして「とくダネ!」でリポーターを務めていました。柏木さんはこの出演から2年後、大腸がんが原因で逝去。45歳でした。

クレジット

脚本:田口 佳宏
監督:宝来 忠昭
音楽:久住 昌之、Pick & Lips、フクムラサトシ、河野 文彦、Shake、栗木 健、戸田高弘
タイトルバック:「JIRO's Title」(作曲:久住 昌之)
松重“五郎”豊のテーマ「STAY ALONE」(作曲:久住昌之、フクムラサトシ)
撮影協力:Loco Dish、Art Grace Wedding Coast、千葉県浦安市、CILEK、浦安市総合公園、OFFICE101

【出演】
井之頭五郎:松重 豊
小雪:目黒 真希
金髪女性ランナー:大塚 友里衣
中年男性ランナー:奥 善光
雑貨店店長:駒田 由香
式場男性係員:瑛光
式場担当女性・篠原:葛西 幸菜
ウェディングドレスの女性:吉永 実夏
彼氏:見城 直樹
チャペル内男性係員:杉山 樹志
チャペル内女性係員:河野 仁美
チャペル内カメラマン:打浪 純
ロコディッシュ店長:宮前 希依
主婦1:森山 琉衣
主婦2:毛受 廣美
主婦3:吉川 恭代
女の子:川上 莉那
オープニングナレーション:柏木 厚志

今回の名言

「えっ」
 今回の商談先である結婚式場に到着後、何だか話が嚙み合わない男性スタッフ(瑛光)と交わした「えっ」。五郎さんオンリーで二度、男性スタッフとのユニゾンで一度。この回は同じ言葉を繰り返す演出が効果的に使われています。
「それより何か甘いものでも食べに行かないか」
 小雪との回想シーン、改めて言い寄られた五郎さんが話題を変えようと切り出した言葉。この言葉が小雪に別れを決意させる“決定的”なカギとなりました。
「それにね、こんな私にも男性ファンいっぱいいるのよ。そんな男たちを敵に回して結婚できるほど、五郎さん勇敢じゃないしね」
 小雪は世界を舞台に活躍する女優。五郎さんとの結婚を願いこそすれど、叶わぬ夢だったということはずっと予感していたのかもしれません。
「小雪……腹が……減った」
 回想に勝つ空腹。
「ま、当たって砕けろだ。失敗したら後悔すればいい。俺は今、腹が減りすぎているんだ」
 さんざん探し回った末に一軒のカフェを見つけた五郎さんが、店に突入する前につぶやいた言葉。失敗したら後悔すればいい、なんてカッコいい言葉なんですけど。食事する店探しというシチュエーションでなければ……。
「静岡おでん?」
 メニューをパラパラと見ていた五郎さんが、その料理名を見つけて思わず飛び出したセリフ。トーンを変えて3回、立て続けに言うわけですが、五郎さんの胸の内を読んでしっかり説明してくれる店長さんったら優しい。
「だっておばさんばっかりなのよ!? 平均年齢が48(フォーティーエイト)だっちゅーの!」
 先客の主婦三人組が交わしていたおしゃべりより。マンションの自治会で交流会的なイベントをやるらしく、その出し物として主婦会でAKB48のダンスを踊ることになったそうな。グチにもユーモアがあってよろしい。
「梅は咲いたか、桜はまだか」
 工芸茶を注文した五郎さんが、ポットの中に沈む花が開くのを待ちわびて発したつぶやき。江戸端唄の代表的な曲「梅は咲いたか」から取ってきたものだと思われます。開花の瞬間を見逃すまいと目を凝らす五郎さんがキュート。
「おでんは立派にごはんのおかずになる」
 たぶんですけど、五郎さんはなんでもごはんのおかずにすると思う。
「おでんのたまごは、おでんの中でも別格だからな」
 これぞ世にいう、たまごびいき。
「こんなおつかいなら、俺もやりたい」
 小学生くらいの女の子が土鍋を持ち、おつかいにやってきた様子を眺めていた五郎さんのつぶやき。私も見てみたい。
「これは溶けウマい」
 静岡おでんの牛すじを食べた感想の一言。“キモカワいい”とかあの辺と同じ発想で生まれた?
「小雪……空腹を忘れるほど後悔する日が、いつか訪れるのかもしれない。でも、それは今日ではない」
 エンドロール途中に挟まれる五郎さんのつぶやき。そんな日は、いつか来るのでしょうか。

本日の五郎さんのお食事

【ロコディッシュ】
・工芸茶(ジャスミン)
「ランチプレート」
・静岡おでん(たまご、大根、はんぺん、なると、厚揚げ):青のりと だし粉で薄化粧 これぞ静岡生まれの真っ黒おでん
・ごはん
・みそ汁(海苔)
・お新香(だいこん)
・静岡おでん(牛すじ(2本)):静岡おでんの影の主役 一口食べればトロリと溶ける
・おかわりの静岡おでん(たまご)、ごはん、みそ汁

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