運命②

新しい会社では事務に配属され、電話対応が主な仕事だった。
しかし、若干16歳の少女に社会人としての応対ノウハウは全く無いうえ、家には電話がなかったため、仕事で初めて電話を使うというレベルだった。
案の定、上手い対応が出来るはずもない。電話が鳴るといつも少女の頭の中では受話器を取るか取らないかの戦いが繰り広げられていた。
それほど電話に出るのが嫌だったのだろう。

ある時は、取引先から社長宛の連絡に対して
「社長さんは、今いらっしゃらないので、、、」
と自身の会社の者に敬語を使ってしまい、上司からお叱りを受けたりもした。

当時その会社には、先輩からの仕事の引き継ぎや研修のようなものは無く、実践しながら覚えていくしかなかった。
まさに習うより慣れよ、だ。

入社してから約1年がたった。少女はすっかり電話対応に慣れ、他の事務作業も行えるようになっていたが、もう1つ自主的に行っている仕事があった。

それは、掃除だ。

始業の30分前に出社し、毎日社内を綺麗にして社員を迎えた。
それまでは、湯飲みに茶渋がこびりつき、便所は使うことを敬遠する社員がいるほど汚れていた。
前任の事務係には清潔に気を遣う人がいなかったのだろう。

少女の行いは社長の行動に変化をもたらした。
ある日、社長は彼女の前にステテコ姿で現れこう言ったそうだ。
「あなたのお陰でこの会社で便所が使えるようになったよ、ありがとう」

少女は社長の姿に驚きながらも、心の中は達成感で満たされていた。
それ以降も、少女は社内を清潔に保ち続けた。

そして入社から年月を経て18歳のある日、
会社に母親から電話がかかってきた。

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