4年で将棋ウォーズ3段になった私の「勝ちやすい作戦5選」
作戦選択は大事
私事ですが2020年11月に3級で将棋ウォーズを始めて,先日(2024年7月)3段になりました.
4年間弱で指した棋譜は6000局.その中で矢倉から振り飛車までほぼ全ての作戦を試してきました.
将棋には数多くの作戦があります.「どんな作戦を選んでも結局は終盤で決まる」という意見も聞きますが,序盤・中盤で駒得をするなど有利を取れれば,終盤も有利に進めることが出来るのはほぼ間違いありません.作戦によっては序盤の別れが勝敗に直結するものもあり,作戦選択の重要さは侮れない.
本記事では私が昇段やレート上昇の原動力とした,勝ちやすい作戦5つをダイジェスト的に紹介します.具体的な盤面図と最も参考にした書籍も付しています.
1. 角換わり45桂, 腰掛け銀, 右玉
研究量は裏切らない
角換わりはコンピュータが最も評価する作戦のひとつで,プロ間で現在かなり流行している形.盤面の再現性が高い(同じ盤面が良く表れる)ため,その盤面での良い手を知っているだけで有利を取れます.特にいきなり45桂と跳ねる形(図1左-中)は成立する条件やその後の分岐がとても細かいですが,一気に勝負が決まる形.「この形は先手勝ち」も珍しくありません.
最近は45桂の強さが周知されたため,成立する条件にならないことも多いですが,腰掛け銀や右玉(図1右)にして充分.攻めが好きな人は腰掛け銀,受け棋風なら右玉と使い分けると良いかもしれません.
腰掛け銀や右玉でも攻めとカウンターが成立する条件,しない条件と具体的な攻め筋だけ知っていれば,棋力に関係なく有利が取りやすい.コンピュータでの解析がしやすい分野でもあり,研究をすればするだけ勝てると思います.特に将棋ウォーズでは横歩取り回避で先手番一手損角換わりをする人も多いため,後手番で実質角換わり先手が持てることもしばしば.角換わりを研究する価値は高いでしょう.
参考書籍: 北島忠雄, 進化する角換わり▲4五桂, マイナビ出版, 2021. https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/id=123043
2. 横歩取り青野流
研究量は裏切らない(迫真)
横歩取り青野流はプロの勝率が6割を超えると言われるほど有力な作戦(図2左,中).両方の桂馬で相手の中央を攻める構想は分かりやすく,後手からすると大変受けづらい.角換わり同様に「再現性が高く」「知っていれば勝てる」作戦です.後手の△45角戦法の対策が大変なところですが,これも対策を知ってさえいれば勝ちやすい.変化球の指し方も都度コンピュータで解析すれば,次は返り討ちにできるでしょう.
後手番では青野流を受けるのが大変なため,相横歩取りや44角戦法,33桂戦法(図2右)など,マイナーな指し方で対抗するのも有力.後手での作戦を決めておいて研究し,自分の土俵に持ち込んで五分以上に勝てれば十分だと思います.どうしても後手横歩が嫌な場合は,ダイレクト向かい飛車など研究班分,自力半分の力戦系に持ち込むのも有力です.
参考書籍: 中原誠, 将棋戦型別名局集6 横歩取り名局集, マイナビ出版, 2017. https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/id=73063
3. 対振り棒銀
振り飛車党の対策が回ってない分野
「振り飛車には穴熊」を克服した藤井システムを,銀冠穴熊が迎え撃とうとしている時代.振り飛車の棋書も銀冠穴熊対策の章が増えてきました.穴熊を巡る攻防はまだまだ続きそうですが…
そんなノーマル四間飛車・三間飛車に良く刺さるのが,一世代前の棒銀作戦(図3左, 中).玉が薄い難点がしばしば言及されますが,先攻できる利点はあまりにも大きい.最近はへなちょこ急戦など対振り急戦が見直されており,その対策も進んでいますが,それゆえに棒銀対策まで手が回っていない振り飛車党が多い印象を受けます.
所詮棒銀と思われがちですが,振り飛車は受け間違えると簡単に悪くなってしまいます.中盤で銀角交換の駒得になることもしばしば.船囲いも59や69地点に歩,香,桂を埋めておけば寄せ合いに強く,攻め合っても充分です.振り飛車43銀型と32銀型どちらにも効き,先手後手どちらでも使えるオールマイティさも良い点.
振り飛車が玉頭銀から玉頭戦にしてきた時に棒銀が立ち遅れる難点こそありますが,その場合には銀を出ず72飛亜急戦に切り替えるのが有効(図3右).私は54歩型には棒銀,53歩型には72飛と使い分けています.
参考書籍: 渡辺明, 四間飛車破り【急戦編】, 浅川書房, 2005. https://www.asakawashobo.co.jp/products/detail.php?product_id=15
4. 旧型ミレニアム
角交換振り飛車に「角交換させない」
将棋ウォーズでよく見る作戦が角交換振り飛車.対策も多々ありますが,どうしても経験負けしがちなところがあります.何より逆棒銀の対処が大変.
そこでお勧めなのが,序盤で▲66歩と角道を止めてしまう指し方.以下,77角57銀67金型で穴熊を見せてから,相手が藤井システム調の速攻を見せてきた場合には▲51角~▲26角(図4左)が藤井システム黎明期に居飛車側の対策として表れた手順です.そのあとは▲77桂~▲89玉~▲78金で囲いが完成.ミレニアム囲いと呼ばれる構えです(余談ですが,将棋ウォーズのミレニアム囲いエフェクトを発生させる駒組みは元々「トーチカ」というものです).
右桂を活用し飛車を6筋に回る(図4中)駒組みは私の構想.以下,▲46歩から右図まで一気の攻めが決まります.振り飛車を持って受けるのも容易ではなく,あまり見ない構えというのも相まって,初見殺ししやすい作戦だと思います.
参考書籍: 高橋道雄,固めてドカン!対四間飛車ミレニアム&トーチカ戦法, マイナビ出版, 2020. https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/id=116893
5. 53銀型三間飛車穴熊
固い,攻めてる,切れない,勝ち.
居飛車相手ならいつでもどこでも使える作戦が三間飛車穴熊.四間飛車は左銀が78~67にしか活用できませんが,三間飛車なら▲68銀~▲57銀と中央に活用できます(図5左).これを活かして飛車を袖に振りなおし,▲46銀から棒銀を見せる筋は分かりやすく,力強い(図5中).固い,攻めてる,切れない,勝ち.という将棋の黄金パターンを実現しやすい利点があります.この筋は中飛車や向かい飛車の穴熊でも応用可能です.
相穴熊の展開でも袖飛車棒銀は有力.穴熊は横には強いですが縦には比較的弱く,上部から殺到すれば受けきるのは至難の業.図5右は拠点に駒を打ち込み続ける攻めや▲24銀と出る攻めがあり,振り飛車が手に困りません.
攻めが切れさえしなければ自玉を見なくて良いのも大きい.穴熊は技術向上の妨げになるという見方もありますが,この攻め筋を通して上がる攻めの技術もあると思います.
参考書籍: 小倉久史,下町流三間飛車 居飛穴攻略の新研究,マイナビ出版,2019(初版2006).https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/?id=101452&pageID=5
まとめ
主導権を制すものが将棋を制す(かもしれない)
以上5つ,おすすめの作戦を紹介しました.どれも私の昇段に関して原動力となったものです.角換わりと横歩取りは研究量で上回り,棒銀・ミレニアム・三間飛車穴熊は先攻して勝つ作戦.総じて主導権をこちらに引き寄せる作戦といえると思います.
主導権を握っていれば,少なくとも初段まではずいぶん勝ちやすいと思います.特に今回の5作戦は理論の裏付けか作戦のわかりやすさがあり,級位者が段位者に自分のペースで勝てる作戦.ソースは私ですが,割と多くの人に通じると思います.
もちろん将棋の答えは人それぞれ,自分の肌に合う作戦もその人次第ですが,何かの参考になれば幸いです.
それでは良き将棋ライフを.
補足: 他によく見る戦法の対策
ゴキゲン中飛車
丸山ワクチンが分かりやすく有利を取れるのでお勧めです.超速は有力ですが研究量が多くなり,ゴキゲン下火の現在では使う機会も少なくややコストパフォーマンスが低下気味です.
向かい飛車
左美濃が有力とされています.「渡辺明の居飛車対振り飛車Ⅰ」に総まとめがあります.
先手中飛車
丸山ワクチンが効かないので,仕方なく後手超速してます…難敵です.自信がなければ捨ててもいいかも?
アヒル戦法
こちらもアヒルにしてミラーゲームにしましょう.目には目を,アヒルにはアヒルです.
嬉野流
三間飛車穴熊で応用が利きます.囲いの固さが大きい.
筋違い角
相手の特性戦法に「筋違い角」とあれば飛車先を突いていきましょう(笑).角道を開けなければ怖いことはありません.他の自信がある作戦で勝ち星を集めるなら筋違い角対策は捨てても充分.
雁木・矢倉
有力な作戦.右四間飛車左美濃が刺さりやすいけど意外と難しい.
右四間飛車
角道を閉じなければ争点が出来ないので,そこまで怖くはありません.三間飛車穴熊vs右四間は捌き負けても囲いの固さで振り飛車に分があります.
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