Letter: Anytime菅井流（33金型）三間飛車

2024年8月5日 18:53

背景

　菅井流三間飛車と呼ばれる作戦には，5筋の歩を突いたゴキゲン中飛車の出だしから三間飛車にする形（別名，うっかり三間飛車: 図1左）と，初手から▲26歩△34歩▲25歩△33角▲同角成△同金▲48銀に△32飛とするもの（別名，阪田流三間飛車: 図1右）の2つがある[1-4]が，本記事では後者を菅井流と称する．菅井流の初出は2017年の王位戦7番勝負第5局羽生-菅井戦で，金を4筋まで押し上げてから左桂を跳ねて居飛車の飛車先の歩を奪う（図2）攻めを軸とする戦法であり，居飛車の右桂の働きを奪いながら振り飛車の左桂が活用できるという意味で有力な作戦である[5-6]．

**図1（左）**菅井流三間飛車: うっかり三間飛車，**（右）**菅井流三間飛車: 33金型三間飛車．本稿ではこれを菅井流とする．

図2　菅井流三間飛車の進行例．△25桂と居飛車の飛車先の歩を掠め取り，1歩得を主張する．以下，△24金～△37桂成～△36歩のような攻め筋もある．

　一方で菅井流は居飛車が初手から▲25歩▲24歩と連続で飛車先を突き，△33角と飛車先を受けた手に▲同角成と角交換をされた時にしか実現できないという課題があった．これに対する解決策として，4手目△42飛（図3左）の出だしから角を交換せず△42金～△33金とする構想（図3中）が2019年の藤井聡-菅井戦で現れた[7]が，4手目△42飛には先手が角を交換してから▲65角と両成りに打つ激しい変化がある（図3右）．そこで本記事では，4手目△42飛と激しい展開にせず菅井流を目指す駒組の実現可能性について考察したい．

図3　4手目△32飛**（左）**から菅井流**（中）**へ合流した進行例．左図から▲22角成△同飛▲65角**（右）**という激しい進行もある．

先手番Anytime菅井流

　先手番で▲77金型を実現するために，初手から▲76歩△84歩▲78金△85歩▲77金（図4左）としてから△34歩▲78飛（図4右）と回る順が考えられる．

　これに替えて▲76歩△84歩▲78飛は（図5左）は△85歩に▲77角と受けるほかなくなる（図5中）．▲76歩△34歩は▲75歩（図5右）から升田式石田流に合流できる．

図5　3手目▲78飛**（左）**の進行**（中）**，2手目△34歩は▲75歩で良い**（右）**

　以下，△62銀▲75歩（図6左）と位を取る．この手を省いた場合，居飛車に△74歩と突かれ図2で示した菅井流の狙い筋が実現できない上，△73桂～△65桂と右桂を活用される順があり，△65桂が金当たりかつ57地点になる手の含みがあって居飛車指しやすい（「居飛車の対策」で後述）．
　ここからは▲48玉～▲38銀～▲39玉と片美濃囲いを作ってから▲76金と位を確保する（図6中）．▲77金で角道が止まっているため，▲38銀と指したときに△28角と打ち込まれる隙がない．三間飛車から角を交換して，従来の菅井流三間飛車に合流する．居飛車から角交換された場合は，▲88銀と銀で取り返し（図6右），▲77銀～▲66銀または▲68銀と活用する．この先の進行は3三金型三間飛車の書籍（安用寺，2019[5]）を参照されたい．
　本作戦を将棋ウォーズで20局程度指した結果，指し分け以上の成績で，最大では達成率50%の4段に勝利し，これが中段帯までは通用することを確認した．

図6　先手番Anytime菅井流の進行．最速で7筋の位を取り**（左）**，片美濃囲いにしてから▲76金と位を確保し**（中）**次に角交換をする．左図の直後に▲76金は△88角成▲同銀の角交換から△45角と打たれ振り飛車本意ではない展開．中図の直後に△88角成の角交換は▲88同銀**（右）**が最善で，▲88同飛は菅井流とは別の展開だが有力．
．

後手番での応用

　先述の先手菅井流は，後手番でも応用できる．先手の初手が▲76歩の場合，△34歩▲26歩△32金▲25歩△33金（図7）とし，一手遅れながら先手番での変化に合流できる．ただし一手遅れているため，先手に▲36歩の有望な対策を指されやすい（後述）．

居飛車の対策

　居飛車は振り飛車が三間飛車を明示した瞬間に先手三間には△74歩，後手三間には▲36歩（図8左）と右桂の活用を見せつつ3筋の位取りを許さない指し方が最も有力である．元々の菅井流三間飛車では先に角を交換しているため△55角と飛車取りに打たれる筋（図8中）が気になるが，角を交換する前に金を上がる菅井流に対してはお互いに持ち角がないため，角の打ち込みや両取りを気にしなくてよいのが強みである．
　居飛車△74歩には▲66歩として居飛車の右桂を活用させずじっくり駒組をする（図8右）くらいだが，左金を捌くのが大変で居飛車指しやすく，今後の課題といえる．

　また，先手三間に居飛車が△94歩（図9左，後手三間に対しては▲16歩）として右桂を端に跳ねる余地を残し，振り飛車▲85桂に対策する手段もある．振り飛車は端を突き返して端桂に対し桂頭を歩で狙う手を目指すのが有力（図9右）だが，▲96角の筋がなくなるためやや指し手が狭まる．

まとめ

　本稿では成立条件の厳しい菅井流（33金型）三間飛車を先手番後手番問わずいつでも実現できる指し方について考察した．居飛車が先手三間に対し△75歩（後手三間に対して▲34歩）と指す対策が有力であるが，それ以外の手には通常の菅井流三間飛車で現れる指し手が応用できる．他に居飛車の有力な対策や三間飛車の有力な指し方が見つかった際は追って報告する．

参考文献

[1]…Fireworks，「角交換三間飛車の基礎知識　菅井流三間飛車とは」，三間飛車のひとくちメモ，2019:

[2]…あらきっぺ，「読者からのご質問にお答えします！ Part1　～菅井流三間飛車について～」，あらきっぺの将棋ブログ，2018:

[3]…Fireworks，「角交換三間飛車の基礎知識　うっかり三間飛車とは」，三間飛車のひとくちメモ，2018:

[4]…将棋ウォーズ，菅井流三間飛車獲得段位ランキング

[5]…安用寺孝功，「△３三金型振り飛車徹底ガイド」，マイナビ出版，2019．

[6]…片上大輔，「令和新手白書【角交換振り飛車・相振り飛車編】」，マイナビ出版，2021．

[7]…Fireworks，「菅井七段、藤井聡太七段戦で新たな△３三金型三間飛車を初披露竜王戦」，三間飛車のひとくちメモ，2019:

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