【読書記録①】 「死んだ山田と教室」


  たまたま地元の書店に著者サイン本が陳列されており、興味を惹かれたので読んでみることにした「死んだ山田と教室」(金子玲介 著)。

山田役は菅生新樹さん。


面白すぎて一瞬で読み切ってしまったので、感想を書いておきます。

  この物語は、クラス1の人気者であった「山田」が交通事故により亡くなってしまったのに、どうしてか在籍していたクラスのスピーカーに転生。山田とその同級生たちは声や音だけでコミュニケーションをとることに……というあらすじ。テレビの中とか飼っている生き物とかでなく、スピーカーというところがいいですよね。表情や身振りが全く分からない、本当に声や音だけでしかコミュニケーションが取れないという不便な中でも全力で青春を謳歌するというのが面白いな……と思いました。スピ山(スピーカーになった山田)とクラスメイトのやりとりは本当に男子高校生らしいというか、 下らなくて笑えるというか……過去に友人から聞いた男子校生活よりかは多少上品な気もしますが、男子ってそういうとこあるよね〜と笑いながら読み進められました。この辺の男子高校生ノリは公式サイトのPVを見た方がよりリアルに補完できそうです。

  そして物語が進むに連れ、登場人物は高校3年生、大学生、社会人へと成長してゆくのですが……その間にクラスメイトたちそれぞれの「山田」への捉え方、考え方の違いや変化が見えてきます。このクラスメイトたちの心情を書き分けているところもすごい。高校生らしい(にしては少し大人びている気もしますが……偏差値の高い学校だからね、これくらいは考えつくかな)考え方とかよくこんな思いつくな……という感じ。作者の想像力に脱帽です。
  ただ、あまり深くこの辺りについて話すとネタバレになってしまいそうなので、物語を読んだ上で感じたことについて少し自分語りをします。
  私はこの物語を読みながら過去に好きだった人のことを思い出していました。好きだった当時は四六時中その人のことを考えていて、少しでも喋れたら舞い上がっちゃって、2人で出かけることになった時にはおニューの服を全身揃えるほど気合いを入れていました。そして定期的に2人で出かけるくらいには仲良くなったのですが、残念ながらお付き合いをすることはなく、私が忙しくしているうちに疎遠になっていました。しかし、それからしばらく経ってしまった今、彼のことは本当にどうでもいい。どうでもいいんです。滅多に思い出すこともないし、思い出したとて当時のような胸の高鳴りもないし。向こうはたまにSNSの投稿にいいねをしてくれる時がありますが、こちらがいいねを返すことは全くない。向こうが今どこで何をしているとか1ミリも興味がない。そんなことより今付き合っている彼氏が今何をしているかの方が気になってしまいます。
  人間というのはそれぞれ興味関心が違う(し、移り変わってしまう)ので、自分のことを想っていたり、いつかは大切だったりした人やものがどうでもよくなってしまう時がある。でも、もしかすると今の自分がどうでもいいと思っている相手は、自分のことをどうでもいいとは思ってないのかもしれない。相手と自分の愛(や興味)の大きさが違うことで、もしかすると自分もどこかで他人を傷つけてしまっているのかもしれないと感じました。でも、だからといって自分や相手の興味関心や自分らしさを無理矢理曲げるのは違うだろうし、本当にこのあたりの人間関係ってややこしいんだな〜という気持ち。 その辺りは人間同士傷つけ合い、癒し合いながら生きてゆくしかないのでしょうね。

  かなり話が逸れましたが、ラストに描かれる山田の本心やスピーカーに取り憑いていた謎、かつて山田に救われたあるクラスメイトの諸々など……読み終わるまで目の離せない展開、とてもよかったです。最後のシーンはもう涙なしでは読めない!
  そして、途中途中に伏線があり「あー!この時の!」と思ったところも多いので、2周以上するのがオススメです。

読み終わってから公式サイトのコンテンツを楽しむのもオススメです。デザインも隠しページも凝ってて本当にすごい。より深く「死んだ山田と教室」の世界を味わうことができます。

  ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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