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ロックダウン後の活動の再開

(2020年)5月も半ばになり、米国では州によっては緊急事態宣言の外出禁止・自粛が緩和されてきました。私の住んでいるイリノイ州でも5月に入ってから条件付きでゴルフ場などは再開され、これからどのように職場に人を戻すか、などが課題になってきています。

トランプ大統領が発表した経済活動の再開の指針では、個人に対しては、「手を洗いましょう。ハンドサニタイザーを使いましょう。顔を触らないようにしましょう。触る頻度が高いもの(ドアノブなど)は表面を消毒しましょう。マスクをしましょう。具合が悪い時には仕事や学校を休みましょう」となっています。

雇用者に対しては、「従業員や訪問者にマスクを用意しましょう。職場にサニタイザーを置きましょう。職場のテーブルなどに、感染予防のための仕切りやガードを設けましょう。従業員の体温を測定しましょう」など提唱しています。

経済活動の再開については、3段階のステップを踏むよう求めています。
「第1段階では、不可欠ではない移動を避け、集団で集まらないようにするなど、現行のロックダウンの内容の多くが含まれる。レストラン、礼拝所、スポーツ施設などの大規模施設については、人と人の距離を開ける厳格な対策の下で営業できる。
新型ウイルスの流行再発の根拠がない場合、第2段階にうつる。不可欠ではない移動が許可され、学校も再開できる。バーは人数を制限すれば営業できる。
第3段階では、感染症状や感染者数が減少傾向にある州の場合、物理的に人同士の距離を保つことを条件に「公共の場での交流」が認められる。職場での人員制限も行わない。介護施設や病院への訪問も再開され、バーも入店人数を増やせる。」
 
参考文献:“Guideline - Opening up America Again” https://www.whitehouse.gov/openingamerica/
参考文献:「トランプ氏、経済再開への指針発表 3段階で州知事が判断」https://www.bbc.com/japanese/52319896

一般企業の場合は以上のステップを踏めば良いのでしょうけれど、ここで一番困っているのがアメリカの4年制大学のようです。

そもそも、アメリカでは、高校を卒業して進学するのに、最初から4年制大学に行く人ばかりではありません。4年制大学は一般的に学費が高いので、費用の節約のために別の方法を取る学生はたくさんいます。

その他の方法としては、以下のようなものがあります。

近くの学費の安い2年制のコミュニティーカレッジに行き、短大卒業資格を得た上で4年制大学の3年に編入する。

軍隊に入隊して、フルタイムで軍隊に従軍して、除隊してから軍隊の奨学金を得て大学に行く。

軍隊に従軍して、大学にフルタイムで通いながら夏休みなどに軍隊でトレーニングを受けて大学卒業後および有事の時に従軍する。
参考文献:“ROTC Program” https://www.todaysmilitary.com/education-training/rotc-programs

軍隊でなくても、働きながらパートタイムの学生として、数年計画で大学の学士号を取得する方法もあります。

近年多くなってきたましたが、オンラインで授業を受けて単位を取り、大学の学士号を得ることもできます。

4年制の大学の学費はどれくらい高いのでしょうか。U.S. News Best Collegesによると、2019年度の一年間の学費と費用は、私立のハーバード大学では、授業料:$51,925、寮・食費などの生活費:$17,682、公立のカリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)では、授業料:$42,218(カリフォルニア州非居住者)・$13,226(カリフォルニア州居住者)、寮・食費などの生活費:$15,902、となっています。公立大学に州居住者料金で行っても年間3万ドル以上学費・生活費がかかるということです。
参考文献:“U.S. News Best Colleges” https://www.usnews.com/best-colleges

因みに、私の住んでいる地域にあるコミュニティーカレッジの2019年度一年間の授業料は地域の居住者で$3,774、地域の非居住者で$9,942です。コミュニティーカレッジは基本的には自宅から通学するため、学生寮の費用は発生しません。
参考文献:”Paying for William Rainey Harper College,”
https://www.collegetuitioncompare.com/edu/149842/william-rainey-harper-college/tuition/

4年制大学が今一番頭を悩ませているのは、大学の授業だけでなくどのように寮と学生食堂を再開するか、ということです。というのも、授業料が高い4年制大学に行く最大の意味は「学生生活」にあると言えるからです。4年制大学の多くは、都心から離れたところにあり、大学の校舎や研究所や図書館などの他に大学の中に主に1-2年生が暮らす学生寮、学生食堂はもちろん、スポーツジム、フットボールなどの競技場、プール、スケートリンク、コンサートホールなどがあり、これ自体が一つの街となっており、キャンパスタウンと呼ばれています。大学生はキャンパスタウンで勉強だけではなく、キャンパスライフ(学生生活)も楽しんでいます。

今年のコロナウィルスの大流行で春休み前後に突然学生生活を奪われてしまった学生たちは、寮から追い出され、両親の家に戻り、実家からオンラインで授業を受けている人がほとんどです。留学生の中には、出身国に戻り、アメリカと時差があるため、毎日夜中にオンラインで授業を受けている学生もいます。

キャンパスライフがないため、学生から「授業料の一部を返還しろ」という要求は当然おきていますし、今年の秋から4年制大学に入学予定だった学生が、「オンラインの授業であれば、4年制の大学に行く意味がない」という理由で近所のコミュニティーカレッジに進路を変更する、ということも当然起きてきます。
参考文献:”Online classes aren’t cutting it,” p. 3, Business, Business, Chicago Tribune, May 10, 2020
https://www.pressreader.com/usa/daily-press/20200509/281913070287047
参考文献:“On decision day, seniors face a key deciding factor,” p. 1 and p. 7, Education, Chicago Tribune, May 1, 2020 http://digitaledition.chicagotribune.com/tribune/article_popover.aspx?guid=0899babb-4f77-4657-ac76-2dc9b794a9c1

大学も経営する必要がありますので、学生が減少するということは、収入減が減る、ということです。現に、今年の秋に入学する学生は、「アメリカの学生は15%の減少、留学生においては25%の減少」という試算もあります。留学生をたくさん受け入れて、留学生からの授業料収入を当てにしていた大学にとって大打撃です。アメリカでは、学生の4人に1人が留学生、という大学も珍しくはないのですから。

先ほども申し上げた通り、4年制大学の特に1,2年生は大学のキャンパスにある学生寮に住んで、食事は学生食堂で取っているのが大多数です。学生寮は2人から4人が一部屋を共有し、トイレ、シャワーなどは共同です。いくら大学の授業中に「マスク着用、学生同士が距離を取って着席」というルールを設けたところで、学生寮は密閉、密集、密接の3密が起こります。また、学生食堂も学生に好きなだけ自分で食べ物を取らせるバフェでのカフェテリア方式を取っているところが多く、集団感染が起こる可能性は大きいと思います。

大学によっては、学生寮の人数を減らして、近くのアパートに学生を移らせる、学生食堂はバフェ形式ではなくいわゆる定食だけにする、など対策を協議しているようですが、根本は一人一人の学生に集団感染のリスクを理解させ、手洗いの徹底、マスク着用、ドアノブなどの消毒などをさせるしかないと思います。
参考文献:”Will colleges reopen their campuses in fall?,” Chicago Tribune, April 28, 2020
https://www.chicagotribune.com/coronavirus/ct-coronavirus-illinois-colleges-fall-classes-20200428-dtapuwutgzg3pa2cniaxszcgme-story.html

いづれにせよ、活動が再開された後には、元の世界に戻るのではなく、より良い世界になると良いですね。

The Stellar Journal 2020年5月掲載
https://www.stellarrisk.com/ja/reopeningafterthelockdown/?fbclid=IwY2xjawEoXpxleHRuA2FlbQIxMAABHQYlf4fgxTW9rotF9XXeROMGMQyt_pnu_LKKAgnGZlrkf0THOiFozQUgdQ_aem_HIXZ1NJfmu1FbioyteeXBA

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