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雇用主が給料差し押さえ命令を受け取ったら?

私が一般企業の人事部で働いていた頃、裁判所から従業員の給料の一部差し押さえ命令(Wage Garnishment)を何度か受け取りました。支払いが滞った車や家具のローン、クレジットカード、学生ローンの場合もありましたが、一番多かったのは離婚などによる子供の養育費の差し押さえ命令でした。というのも、アメリカでは1988年より離婚などによる子供の養育費は、支払いが滞っていなくても、最初から直接給料から差し引くという法律ができたため、養育費を支払う場合にはすべて雇用主に通知が来るのです。

給料の一部差し押さえには上限があり、州によって異なる規定がある場合もありますが、連邦法では、通常のものは給料の総額の25%まで、という制限があります。学生ローンの場合は15%、子供の養育費は、現在、配偶者や別の子供を養っている場合には給料の50%まで、だれも養っていない場合にはなんと60%まで差し押さえることができます。(2024年8月現在)
(参考文献:“How much of my wage can be garnished?“ by Cara O’Neill, All Law https://www.alllaw.com/articles/nolo/bankruptcy/wage-garnishment-amount.html#:~:text=If%20a%20judgment%20creditor%20is,minimum%20wage%2C%20whichever%20is%20less. )

アメリカでは、近年は初婚で離婚する率は40%以上、2回以上結婚したのカップルを入れると約半数が離婚すると言われています。離婚が多くなればそれだけ子供と別れて暮らす親が増え、もう片方の親に養育費を支払う必要がでてくるという訳です。(参考文献:”Divorce Statistics: Over 115 studies, Facts and Rates for 2020”: https://www.wf-lawyers.com/divorce-statistics-and-facts/ )

もともと結婚してないカップルも含めた片親家庭は、実はアメリカでは全世帯の4分の1にも上り、世界で最多です。(参考文献: “U.S. has the world highest rate of children living in single- parent household” by Stephanie of Kramer Pew Research Center: https://www.pewresearch.org/fact-tank/2019/12/12/u-s-children-more-likely-than-children-in-other-countries-to-live-with-just-one-parent/ )

離婚の為にしろ、もともと結婚していなかったカップルにしろ、未成年の子供とその子供を直接世話している大人は、養育費を受け取る権利がありますが、養育費を支払う側には子供と会う権利(Visiting Right)があります。子供を共同親権にして、父と母の家に半分ずつ生活させる、という方法もありますが、例え親権は持っていなくても、子供を虐待したなど一部の例外を除き、親が子供と会う権利は保障されています。そのため、裁判所や福祉事務所が養育費の取り立てをするため、離婚をしても裁判所の権限の届く同じ州の同じ群に住み続ける必要がある、などいろいろな制約がでてきます。もう片方の親の許可を取ってからでなくては、引っ越しも難しい場合もあるのです。

余談ですが、アメリカで子供の連れ去り・誘拐の加害者で一番多いのは、離婚または別居した親によるものです。(参考文献:Children Abducted by Family Members: National Estimates and Characteristics Heather Hammer, David Finkelhor, and Andrea J. Sedlak US Department of Justice: https://www.ojp.gov/pdffiles1/ojjdp/196466.pdf )

では、給料の一部差し押さえ命令通知を受け取ったら、雇用主はどうすれば良いのでしょうか?

まずは従業員に給料の一部差し押さえ命令が届いたことを通知しましょう。その上で、給与計算の担当者または下請け会社に直ちに連絡しましょう。雇用主は通知を受け取ってから2週間以内に差し押さえをし始め、そのお金を裁判所や福祉事務所など指定されたところに送る必要があります。もし複数の給料の一部差し押さえがあり、総額が給料差し押さえの上限を超えてしまった場合には速やかにその旨を報告し、差し押さえ金額を計算し直す必要があります。差し押さえは終了命令が来るまで続ける必要があります。もしその従業員が退職した場合には、速やかに裁判所・福祉事務所などに届け出ましょう。差し押さえを行わないと、雇用者がその金額を支払う義務が生じる場合もあるので、すぐに行動しましょう。特に、コロナで郵便配達に時間がかかっている現在は注意しましょう。

なお、給料一部差し押さえ命令の対処は迅速に行う必要もありますし、事務手続きも面倒なので、雇用主としては避けたい、というのもわかります。しかし、給料一部差し押さえ命令がある人の雇用を差し控える、或いは解雇する、ということは避けなくてはなりません。「人種差別」で訴えられる可能性があります。では、なぜ人種差別なのでしょうか?いわゆるマイノリティーは白人に比べて給料一部差し押さえ命令を受けている割合が多いからです。これを理由に採用を控えたり解雇したりするのは、つまるところマイノリティーを避けるための理由であり、人種差別であるとみなされる可能性があるのです。
 
The Stellar Journal 2021年2月掲載
https://www.stellarrisk.com/ja/wagegarnishment/?fbclid=IwY2xjawEgbklleHRuA2FlbQIxMAABHWthI-5oGf2rAYhZoztyxr4nEhytB5YHkAU2vHipDa_0DHFYe2-Kqm1j0w_aem_W8gKbyhJrsaL_rs2xKAL-g

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