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《エッセイ》鏡に映るもの

小学生の頃、母親の使う鏡が汚れていたので、洗うことがあった。

私はその鏡を見ながら歯磨きをするのだ。
小学生だった私は、歯ブラシで前歯の裏をシャカシャカするたびに鏡に飛び散って汚くなっていた。

台所に立ち、鏡に洗剤をつけて洗っていた。
私が洗っている姿を見た母が言った。

「鏡洗っても、映るものは一緒だよ?」

「鏡は綺麗になっても、映るものまで綺麗にならないよ?」

小学生ながらショックで、いまだに憶えている。

その頃から、自分を鏡で見るのが苦手になった。

歯磨きしていて鏡を見ていると、やってきた母がジイーッと見てきて、その様子を眺めていたら「やだ、目が合っちゃった」と笑うのだ。

そんなこと言われて良い気持ちになる人はいないだろう。

あの頃、母は何を考えていたんだろう。

「お母さんって昔、あんなこと言ったよね。未だに根に持ってるんだから」と母に言っても、
「え!? 私、そんな酷いこと言ってたの!? うそ!?」なんて言ってまるで憶えていないのだ。


今、4歳になった娘には「かわいい」「素敵」と言うように心がけている。
お風呂に入ると、娘は鏡越しにハートマークやプリンセスの真似をして見せる。そのたびに、私は母の言葉を思い出す。そしてすぐにシャワーで鏡にかけるのだ。


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