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増田 隆一『うんち学入門/生き物にとって「排泄物」とは何か』

☆mediopos-2533  2021.10.23

「うんちのうんちく」満載の
うんち学入門の本が
なんとブルーバックスから出ている

旅人のミエルダが「うんち君」に
「うんち」について教える旅のストーリーとなっている

うんちについての知恵をもったミエルダが
「臭い、汚い!」って笑われて落ち込んでいた
新米のうんち君にじぶんの存在意味について
教えながら旅をするという設定

ちなみにミエルダというのは
スペイン語で「うんち」の意味
(それが話の最後に明かされる※ネタバレ)

ほとんどの動物には口があり
口から入った食べ物は
からだを貫く1本の管である消化管を通って
肛門とよばれる開口部から「うんち」として排泄される

栄養摂取という見方からすれば
動物は入口と出口のある一本の管にほかならないが
排泄されるうんちにはさまざまな働きや大切な役割がある

『うんち』の役割はおもに4つあるという

まず『うんち』をすることは
生きていることの証であり
生き物が進化してきたことの証である

生きているからこそうんちをする

つぎにその落とし主の個体情報を周囲に発信し
個体と個体の間や集団のなかでの
コミュニケーションの手段として使われている
においというのもその大切な要素である
(ヒトはそれを臭いとして嫌がるけれど)

うんちはからだの言葉である

さらにうんちは落とし主が属している
生物種としての情報も発信していて
『生き残り』をかけた異種間の情報戦略にも用いられる

うんちは生きていくための情報である

そしてうんちは生態系のなかで
物質を循環させる仲介をしている

うんちは地球をめぐりつないでいる

そんな「うんち」を現代人は
衛生的な観点から下水処理場へ運び
生態系のサイクルから外してしまっている

うんちだけではなく
現代人は「消臭」ということで
「いやな臭い」を遠ざけ
生物としての感覚を失い続けているといえる
快適さの代償がこれからどうなっていくのか
そうしたことを考えるためにも
「うんちのうんちく」は気づきの宝庫でもある

マタイ福音書にイエスのこんな言葉がある

「口にはいってくるものは、みな腹の中にはいり、
そして、外に出て行くことを知らないのか」
「口から出て行くものは、心の中から出てくるのであって、
それが人を汚すのである」

ひとは口から入るもののことは
ずいぶん気にするけれど
(美味しい・不味い等々)
出て行くもののことからは目を逸らそうとする
口から出ていくもののこと(ことば)
そして排泄されていくもののこと(うんち)を
どれだけ気にかけるかは魂にも深く関わってくるはずだ

■増田 隆一
『うんち学入門 生き物にとって「排泄物」とは何か』
 (ブルーバックス 講談社 2021/10)

(「はじめに」より)

「日々の生活を考えるまでもなく、私たち生物にとって、「食べる」ことには多くの時間が費やされてきました。
 生物の進化を考えても、からだの機能の変化にともなった食べ物の種類(食性)に多様性が見られます。草食性、肉食性、雑食性の動物がいますし、植物や単細胞生物の最近でさえも、さまざまな食べ物(栄養素)を取り込んでいます。
 「食べ物」は、生き物の生命活動(=いのち)を維持するためのエネルギー源として接種されます。
 では、生き物から排泄される「うんち」は、どのようにつくられ、何をしているのでしょうか? 言い換えれば、私たち生物にとって、「うんち」とはなんなのでしょうか?
 結論から言えば、「うんち」もまた、生き物の多様性とともに進化してきました。そして「うんち」は、現在の生き物の「いのち」と「いのち」をつなぐ架け橋となっています。
 「うんち」はさらに、「生き物」とそれを取り巻く「生態系」とをつなぐ架け橋ともなっています。「うんち」を知ることはすなわち、生き物のふしぎを知ることでもあります。」

(本文より)

「僕は汚いうんちなんだ。さっきも通りがかりの子どもたちに「臭い、汚い!」って笑われたばかりなんだ……。どうせ、野原でのたれ死にするだけだよ」
 旅人(ミエルダ)は、ふてくされているうんち君をしばらく見つめていましたが、やがてゆっくりしゃがみながら、励ますようにこう言いました。
 「そうか。じゃあ、君がこの世の中でどれだけ役に立っているか、一緒に見にいく旅に出てみないか。君は、君をこの世に生み出してくれた「落とし主」にとっても、その落とし主が属する社会にとっても、----それどころか、この地球という惑星の環境全体にとっても、とても大切な役割を果たしているんだ。君はどの「体臭」を気にしているようだけど、においだってきちんと意味があるんだよ。信じられないって? とにかくついてきてごらん」
 「こんな僕に、いったいどんな役割はあるっていうんだ……?」
 うんち君は、いまだ半信半疑ながらも、旅人の言葉にしたがい、自身の謎を尋ねる旅に出ることにしました。」

「「これまでの旅を通して、生き物が排泄する「うんち」には、さまざまな機能や重要な役割があることがよくわかりました」
 ミエルダがうんち君に訊ねます。
 「では、うんち君。ここまでに学んだことをまとめると、どうなるかな?」
 「はい。まず一つめは、生き物にとっても地球環境にとってもきわめて大切な存在である『うんち』は、生き物のみから排泄されるものだということです。つまり、『うんち』をすることは生きていることの証。そして、生き物が進化してきたことの証です。」
 ミエルダは満足げに何度もうなずいています。
 「そのとおり。『うんち』は、生き物が食べた食物が彼らの消化管の中を通り、さまざまな反応の結果として、つくられたものだ。『うんち』は生き物にしかつくることができない」
「二つめに、『うんち』の大切な役割として、その落とし主の個体情報を周囲に発信し、個体間や集団内のコミュニケーションの手段、つまり、『落とし主の分身』として使われている」
 ミエルダはうなずきました。
 「その際、においが重要なはたらきをもっていた。『臭いからこそのうんち』だったね」
 「はい。そして、三つめに、『うんち』は落とし主が属している生物種としての情報も発信していて、『生き残り』をかけた異種間の情報戦略にも用いられていました。つまり、『種の存続』にとっても、重要な役割を果たしています。」
 「そのとおりだ。同じ種内の生き物のあいだだけでなく、異なる種のあいだでも有効に活用されている」
 ミエルダは相槌を打って、うんち君に先を促しました。
 
「そして、最後の四つめとして、『うんち』は生態系における物質循環の仲介をしている。つまり、『うんち』は生き物と地球をつなぐ役割を果たしています」
 ミエルダは大きくうなずきました。
 「正解だ。食べ物が『いのち』を生み出し、『うんち』はその『いのち』と地球をつなぐ重要な橋渡しをしている。わかりやすくよくまとめたね。以上の4点を、『うんち』の役割4カ条とよぶことにしよう!」

「最後にあらためて、ヒトの現代社会において『うんち』がどのように扱われているかを考えておこうか。(…)現代のヒトはみな、『うんち』を臭くて汚い物として扱っていて、排泄後はすぐに水洗トイレで流してしまうことを見てきたね。野生動物の『うんち』は生態系の中で物質循環という重要な役割を担っていて、どの動物たちも決して、『うんち』を汚いものとは見ていない。しかし、残念ながら、ヒトの『うんち』は下水処理場へ運ばれ、生態系のサイクルに入ることがほとんどなくなりつつある」
 以前のうんち君なら思わずしょんぼりしてしまいそうな話題も、今はそうではありません。「うんち」であることへの自信をのぞかせながら、うんち君はこう言いました。
 「『うんち』は生き物と地球を結ぶ仲介者なのに、人間は自らの『うんち』をその流れから除外してしまったということだよね。下水処理された『うんち』は、人間社会に還元されることなく、さらに、自然生態系においても利用されることはないんですね」
「文明が発展する以前、狩猟・遊牧生活やそれに続く農耕・定住生活の初期段階においては、野生動物の排泄物と同様、ヒトの『うんち』もまた、生態系における食物連鎖や物質循環のなかで重要な役割を演じていたことだろう。けれど、人間社会が複雑化し、人口が都市部に集中してくると、『うんち』を介してヒトに悪影響を及ぼす病原体が伝播する可能性も高まったため、日常の暮らしから『うんち』をなるべく遠ざけるようになった。これ自体は公衆衛生上、大きな意味があることとおもわれる・
 しかし、うんち君がまとめてくれた『うんち』の役割4カ条をあらためて考えると、ヒトが『うんち』を一方的に遠ざけることは、本来の生態系における物質循環からは大いに外れることになる」
(…)
 「ヒトを含めて、すべての動物は必ず『うんち』を排泄する。においのない『うんち』なんてありえない----。ヒトにとって『うんち』とは何なのか、さまざまな世代のヒトたちが、さまざまな場面で考え、語り続けることが必要です。『うんち』の起源と現代のありさま、そしてこれからの行く末について考えることは、自然環境の保全を含めた、今後の人間社会の進化と発展につながるはずだと思うんです」」

「「『ミエルダ』という名前には何か意味があるの?」
「「じつは--------、ミエルダというのは『うんち』という意味なんだよ」」
「そうなのです。「ミエルダ」は、スペイン語で「うんち」という意味の言葉なのです。ともに旅をしてきた二人の名前は、じつは同じ意味をもっていたのでした。」

〈もくじ〉
第1章 生物にとって「うんち」とは何か
第2章 個体にとっての「うんち」──なぜ「する」のか
第3章 集団にとっての「うんち」──果たして「役に立つ」のか
第4章 他の生物にとっての「うんち」──「うんち」を使った巧みな「生き残り」&「情報」戦略
第5章 環境にとっての「うんち」──地球規模で活躍する「うんち」

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