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山田 孝之『朗読CD付き詩集 心に憧れた頭の男』

☆mediopos-2561  2021.11.20

役者の山田孝之は
どこか得体の知れないところがあるが
声の山田孝之には
逆にむしろ近しさと懐かしさを感じる

演技者としての山田孝之の
変幻自在でときに屈折し複雑極まる感情表現が
朗読する山田孝之には表面的には感じられないが
だからこそその声はどこか
それらの深みから響いてくるように感じられる

優れた役者から学べるのは
人間の感情というやっかいなものが
どのように表現され得るかということだ
山田孝之という役者に惹かれるのもそのためだ

そんな山田孝之の詩集『心に憧れた頭の男』を見つけた
2008年から月刊誌『+act.(プラスアクト)』で
13年にわたり綴られてきた全79篇を朗読したCDが付いている
山田孝之はどんな声で
みずからを演じているのだろうという好奇心から
偶然のように本書を手にとった

役者である山田孝之を売りにするところなどまるでなく
表紙を見ればわかるように
黒がベースの文字のみのモノトーンな詩集である
右に白地に黒または
左に黒地に白の鏡文字になっていたり
上下を白黒に割ったり
大きな感じ2文字と2〜3行だけの作品もあったりと
詩集そのものが陰影をもった静かなひとり芝居のようでもある

タイトルの『心に憧れた頭の男』にひかれ
声の山田孝之にふれてみたいと思ったが
想像した以上にその声の淡々とした響きに魅せられる

「心に憧れた頭」とは
「感情が出たあとに頭で考える弱さ」を
あらわしているようだ
その「弱さ」がどこか愛おしい

最後に置かれている詩の最後のことば
「ずっと眠っていたいんだ
 ほんとうはね」
にどこか深いところで共感してしまう

永久保存版の朗読詩集になりそうだ

■山田 孝之『朗読CD付き詩集 心に憧れた頭の男』
 (ワニブックス 2021/10)

※はじめに置かれている詩

 『無に全て』

 この道を目で観ても何も見えない
 この道には記憶がある
 その記憶は彼の全て

 彼はその道に一つの花を見つけた
 目で見える花
 その花は彼の全てになった

 彼はその花を捨て記憶を求めて道にきた
 記憶が消えそこにあるのは彼だけ
 彼が彼の全てになった

 彼は彼を捨てず記憶を求めた
 彼は彼を捨てず花を求めた
 彼は彼を捨てず花と記憶を見つけた

 彼は記憶が全てではなく
 彼は花が全てではなく
 彼は彼が全てではない

 彼は全てを捨てた

※「あなたが」からはじまる詩より

 あなたが私の正面に立った時、私はあなたに正面の顔を見せる
 あなたが私の背後に立った時、私はあなたに背後の顔を見せる
 私はあなたに全てを見せるが、その全てが真実とは限らない
 私だけが知る真実を、あなたは疑うことで満たされる
 あなただけが持つ虚構を、私は真実とすることを許す
 真実が虚構になり、私とあなたは満たされる
 私だけが知る虚構を、あなたは信じることで満たされる
 あなただけが持つ真実を、私は虚構とすることを許さない
 虚構が真実になり、私とあなたは満たされる
 あなたは私を疑う、だから私はあなたを信じる
 あなたは私を信じる、だから私はあなたを騙す
 私とあなたの間には、常に真実と虚構が存在し、その全てが真実であり、
 その全てが虚構でもある

 あなたが私にそうするように

※最後に置かれている詩の最後のところから(題はなし)

 目が覚めたら眠る前
 美しさが憎たらしい
 確実に何かが産まれては死んでいる
 でも、僕は、
 なんだか眠たい
 ずっと眠っていたいんだ
 ほんとうはね

(自身による「解説」〜【作品考察】より)

「対義語や肯定後の否定、自分を笑うことの多さ等、特色も見受けられる。最終作まで「可愛いと思う醜さ」と綴り、素直には終わっていない。上乗せしたりひっくり返したり、発信したり返ってきたり、感情が出たあとに頭で考える弱さ。最後まで「心に憧れた頭の男」である。自分を笑うのも無理ない。」

(自身による「解説」〜【50/50】より)

「幸福と不幸、喜びと悲しみ、嬉しさと辛さ、私はそうしたものがベースとして50/50なのだと思う。表現する仕事も楽しいが、それと同じくらい苦しみもある。生きたい気持ちと同じくらい死にたいと思う。死に関しては、捉え方が他の人たちと違う自覚がある。「眠りたい」に近いのだ。寝に就く時、このまま目覚めなければ幸せだなと思う時がある。極端に言えば、50/50のバランスが基本なので、生にもしがみついていないし、死も恐れてはいない。どっちにも向かっていない感覚なのだ。だから、ずっと「死」は受け入れている。来ないでほしい気持ち半分、そして、もう半分では待っている。
 13年間綴ってきた言葉を見ると、この時はこっちのバランスが勝っていたのだなと、バロメーターで感じたりもする。50/50の思考回路が随所に見え隠れしている。」

◎山田孝之 - 変幻自在の芝居がスゴい | Netflix Japan
何者/シーサイドモーテル/やれたかも委員会/勇者ヨシヒコシリーズ/鴨川ホルモー/荒川アンダーザブリッジ/全裸監督 シーズン2


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