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小林一夫『折紙の文化史』・布施知子『多面体おりがみ』・川村みゆき『多面体の折紙』

☆mediopos-2515  2021.10.5

折紙(ORIGAMI)は
世界の共通語らしい

五〇歳以上のひとに
「次世代に残したい懐かしい遊びは?」
と問うと第一位が「折紙」なのだそうだ
鶴や風船・兜などを折ったことのない人は
あまりいないかもしれない

小林一夫『折紙の文化史』は
和紙の独自の歴史からはじまり
折紙の歴史を紙の伝来から
現代の医療から
CG・航空工学・アパレルまでを辿った
初めての文化史だという

紙は7世紀初め頃に
紙の「溜め漉き」という技法が
高麗から伝えられたそうだが
8世紀から9世紀ころには
薄くて強靱な紙をつくる
「流し漉き」という技術が編み出され
神社の紙垂・宝来・流し雛・形代など
宗教・祭事・儀礼において使われはじめる

本書ではそうした折紙の歴史を辿りながら
古代・平安時代から
鎌倉・室町・安土桃山時代
江戸時代
明治・大正・昭和(戦前)時代
昭和20年(戦後)から現代へ
そして折紙に関するテーマが
さまざまに紹介されていて興味深い
(引用部分の目次参照)

三〇年ほど前のことになるが
布施知子という折り紙作家の影響で
それまでの折紙のイメージではなく
「ユニット折り紙」といわれる折紙に興味をひかれ
いろんな折紙を折って遊んでいたことがある

その後折紙を折ってみる機会はあまりなくなったが
同じく「ユニット折り紙」の作家で
物理学を専攻されていた川村みゆきという方の書著を知り
「多面体の折紙」という幾何学的な視点を中心とした
折紙のさらなる展開にも目をひらかれるようになった

一枚の紙をさまざまに折るとさまざまな多面体となり
さらに紙と紙を重ね折りなしていくにつれ
世界の幾何学的な姿がそこにあらわれてくる

それはまるで
1という数・円というひとつの根源が
その内に多様性を生成していきながら
世界を生成していく姿のようにも見えてくる

紙の伝来したはじめに
特殊な断ち方をして折った紙を使って
神社の紙垂(注連縄飾り)として使うようになったのも
神的な生成や祈りが
紙を折ることで現れてくる世界の幾何学構造と
どこかで深く関係しているからなのかもしれない

■小林一夫『折り、願い、遊ぶー折紙の文化史』
 (里文出版 2021/4)
■布施知子『みんなで楽しむおりがみつき 多面体おりがみ』
 (日本ヴォーグ社 2018/9)
■川村みゆき『多面体の折紙―正多面体・準正多面体およびその双対』
 (日本評論社 1995/11)

(小林一夫『折紙の文化史』〜「第1章 古代から平安時代」より)

「日本最古の歴史書『古事記』と勅撰正史『日本書紀』によると、610年(推古18)年に高麗より渡ってきた僧・曇徴が「溜め漉き」技法という紙の製法を日本に伝えたとされる。これにより情報の伝達の紙が使用されるようになると、各地の寺院で行われた写経の広がりもこれを後押しして、紙の普及の一大転換となった。」
「大陸より伝わった「溜め漉き」技法は、やがて製紙技術や加工技術が飛躍的に向上し、確かな記録はないが、「流し漉き」という薄くて強靱な抄造技法が延暦年間(782〜806)頃には編み出された。」
「宗教、祭事、儀礼と紙との関わりは深く、神社の紙垂(しで/注連縄飾り)、高野山で弘法大師(空海、774〜835)が注連縄の代わりに用いた縁起尽くしの切り紙「宝来」、厄払いを込めた流し雛、形代(人形)、儀礼のための扇子などへとつながっていく。」

「『源氏物語』に登場する紙人形や切り紙細工じゃ、神楽舞や山車の飾りに見ることができる「折紙の原点」である。今も行われている行事としては、穢れを払うために形代を水に流す禊の儀式や、紙人形供養などがある。」

(小林一夫『折紙の文化史』〜「第2章 鎌倉・室町・安土桃山時代」より)

「公家社会では、「平包み」という絹などの布帛で物を包む方式が広がり、その包みが解けない工夫と装飾を兼ねた絹などの「組紐」が作られた。
 一方、武家社会では、白い紙を撚って糊を引く「水引」によって中身の「モノ」が象徴される「包みの折り形」が考案された。いわゆる布帛文化と和紙文化の違いで、ともに中身の物品を暗示する簡潔な形態と美的センスは、相手を尊敬し思いやる「礼の心」として、世界に類のない日本独自の文化をつくり出した。
 太刀を振るときの「太刀紙」や、紙を贈るときの「要脚折紙」などが出現した。これは太刀や絵画の鑑定書を兼ねており、現代でも由緒正しいという意味で「折紙付」という言葉が残っている。」

「日本では古来、新鮮な鮑を人に贈る習わしがあった。それが乾燥鮑になり、帯状に伸ばした「のし鮑」になり、鮑をもじったパラピン紙(黄色に手染めした紙)に代わり、後に略して〈のし〉という文字になるという過程を経て、絵で描かれた熨斗に変化した。」

(小林一夫『折紙の文化史』〜「第10章 未来につなぐ」より)

「平面から立体を作り出す「折紙」は、日本人に古くから図面を理解する能力が自然に培われてきたから生まれたといえよう。例えば、日本にはそれぞれの家に固有の家紋がある。衣服や生活道具に描かれている家紋の図形は、微分積分の比率計算と熟練した職人技からできている。それは、円周率や曲線図形の面積(2次元)、立体の体積(3次元)などを求めるのに独自な発達をした江戸時代の「和算」があったからといえる。」

■小林一夫『折紙の文化史』目次

《第一章》古代から平安時代 ・紙の起源 ・和紙と神事 ・穢れを払う流し雛 ・雛から姉様人形に
《第二章》鎌倉・室町・安土桃山時代 ・折形が礼法に ・のしと水引
《第三章》江戸時代 ・飛脚の伝える文 ・富山の薬売りと紙風船 ・浮世絵の中の折紙ほか
《第四章》明治・大正・昭和(戦前)時代 ・万国博覧会 ・学校教育 ・赤紙を染める
《第五章》昭和20年(戦後)から現代 ・日本初のカルチャーセンター ・世界に拡散 ほか
《第六章》折紙発展の功績者たち ・おりがみ会館 (当時のお茶の水界隈) ほか
《第七章》トピックス ・日本折紙協会発足 ・山折り ・谷折り ・和紙で人間国宝 ほか
《第八章》創作折紙と著作権 ・ トラブルのケース 「羽ばたく鶴」「寿鶴」「唇」 など ・折る工程と時間で判断 ・浮世絵と木版千代紙との違い
《第九章》世界とのかかわり ・古代紙の発見 ・各国の折紙 ・フランス、 スペイン 、中国ほか ・各国での折紙展開催 ・折紙のある光景 ・ナプキンの折り方
《第十章》未来につなぐ ・数学と折り紙 ・紙幣を折る ・リサイクル ・折り鶴の祈り

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