見出し画像

丸山 宗利『[カラー版] 昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』/『昆虫 新版 (学研の図鑑LIVE(ライブ)』

☆mediopos2884  2022.10.10

学習図鑑の「三家」といえば
小学館の「NEO」
講談社の「MOVE」
学研の「LIVE」
だそうだが

そのなかでも
『小学館の図鑑NEO〔新版〕昆虫』が絶対王者で
(個人的にもその図鑑を手元においている)
トンボ図鑑などの個別種の図鑑はいろいろあるものの
日本で昆虫を総合的に参照できる図鑑といえば
やはり小学館の「NEO」であると思っていた・・・が

今回それに戦いを挑んだのが
学研の「LIVE」である

監修は昆虫学者の丸山宗利氏
学研の編集者は牧野嘉文氏
画像編集担当は長島聖大氏

2020年の秋に図鑑を作ることが決まり
2021年の春から本格的な作業が始まり
制作期間は2022年春までの1年
その間に総勢50名の研究者が集結して
図鑑制作の冒険が繰り広げられることになる

昆虫の写真はすべて生きたままの白バック撮影
撮影はプロではなく全国の昆虫愛好家
日本全国7000種の生体を撮影し
結果的に学習図鑑史上最多となる2800種が掲載される
「奇跡の図鑑」が完成することになる
(ちなみに小学館の「NEO」は約1400種掲載)

丸山宗利氏の図鑑制作の理想像は二つあり
ひとつめは「昆虫の多様性と進化がわかる」こと
ふたつめは「すべての昆虫を生きた姿の写真で掲載する」こと
そのふたつともがほぼ1年の制作期間で実現されることになる
まさに「奇跡」である

しかしこの図鑑ができあがったことも「奇跡」だが
虫好きたちが無謀にしか思えないような挑戦に
燃え続けた1年間という冒険そのものが
「奇跡」だったといえる

丸山宗利氏曰く
「まさにおじさんの青春でした」

その青春の物語が本書では綴られている
現代のような閉塞した時代でもこんな冒険がある!
虫好き・図鑑好き必読の冒険物語がここに

■丸山 宗利
 『[カラー版] 昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』
 (幻冬舎新書 幻冬舎 2022/9)
■丸山 宗利・長島 聖大・中峰 空 (監修)
 『昆虫 新版 (学研の図鑑LIVE(ライブ)』
 (学研プラス 2022/6)

(丸山 宗利『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』〜「はじめに」より」

「『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』として、完全に新しい図鑑を作ることになったのは、2020年の秋のことだった。そして、2021年の春から本格的な作業が始まった。制作期間は2022年春までの1年しかない。
 この1年は、図鑑作りのためにとにかく突っ走った。途中で息切れしかかったこともあるが、とにかく走り切った。50歳近くになり、この年齢になると、1年というのはすごく身近く感じるものであるが、私にとってこの1年は、数年分を凝縮したような、濃密で長く感じられる時間だった。」

「この本ではその図鑑制作の顛末を包み隠さずご紹介したい。多くの人が子供の時になにかしらの図鑑を見ていると思う。しかしそれらがどのようにできたのかを知る人はほとんどいないはずだ。今回の図鑑は、これまでにない種数(2800種以上)が生きたまま掲載されるという前代未聞の内容で、しかも多くの研究社が関わり、中身も素晴らしく充実したものになっている。そして、急ごしらえで、ほとんどが撮影初心者の虫好きを集めて撮影隊を汲み、図鑑の命ともいえる写真を準備したというのも特筆すべき点である。」

(丸山 宗利『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』〜「第1章 一切妥協なしの図鑑を作ろう」より」

「私が考えていた理想像は二つあり、いずれも実に単純なものである。
 まず、昆虫の何よりの特徴は多様性だ。世界で100万種以上の昆虫が知られており、実際には500万種いるとも、1000万種いるとも言われている。日本だけでも3万数千種が知られているが、まだまだ名前のついていない種が多く、本当は6万種から10万周はいるのではないかと言われている。
 その生活様式や姿かたちも含め、昆虫はあらゆる生物のなかでも抜きん出いた多様性を持つと言える。そのような昆虫の多様性と、どのようにして多様になったのか、その進化の道筋をわかるようにしたいというのが、まず一つの理想像である。一言で言ってしまえば、「昆虫の多様性と進化がわかる」という内容である。
(・・・)
 もうひとつの理想像は、「すべての昆虫を生きた姿の写真で掲載する」ということだ。これまでの図鑑の多くは、魂チュの絵や、標本の写真を並べたものである。もちろん、それらの図鑑にも良い点はあるし、私もたくさんの刺激を受けた。しかし、図鑑を手にした人、とくに子供がつかまえた虫の名前を調べる時、わざわざ標本にしてから調べるということはめったにないはずだ。(・・・)そう考えると、生きた姿の写真に勝るものはないと考えた。何より昆虫は生きた姿がいちばん美しい。」

(丸山 宗利『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』〜「第6章 一もう二つの図鑑」より」

「学習図鑑には現在「御三家」と言われる大手3社の出版物がある。小学館の「NEO」、講談社の「MOVE」、そして学研の「LIVE」という各シリーズだ。この3社で大部分のシェアを占め、そこにポプラ社の「WONDA」などが戦いを挑んでいる。」

(丸山 宗利『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』〜コラム 長島聖大「画像編集担当の制作日誌」より」

「2020年9月のある日、丸山さんからメールが来ました。「学研の昆虫図鑑を作るので協力してください」。考える間もなく、「是非やらせてください。25年くらい誰にも負けない図鑑にしましょう!」とお返事しました。
 当時の昆虫図鑑では、『小学館の図鑑NEO〔新版〕昆虫』(小学館)が絶対王者で、私は職務上も助けられているこの図鑑にあこがれていました。(・・・)新しい図鑑を作るとなると、これに勝つことは最低条件です。さらに、25年は王座に君臨する一冊を作りたい、という野心に燃えました。
 それからの日々は、まさにおじさんの青春でした。昆虫採集・画像編集・制作陣とのオンラインでのやりとり・・・・・・無我夢中でした。特に、私が担当した「白バック写真の画像編集」については一から技術を磨き直しました。30人を超える撮影チームがそれぞれの機材で撮影した、それも生きた状態の虫のRAWを現像するというのは、おそらくほかの図鑑でも前代未聞です。」

(丸山 宗利『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』〜コラム 牧野嘉文「編集担当の制作日誌」より」

「この図鑑制作は何から何まで異例づくめ。すべての原因は「白バック撮影」にありました。
 これまで学研では、『沖縄の昆虫』という。生体厄00種を槐真史さんお一人の手で白バック撮影したポケット図鑑を刊行していました。槐さんによると、断続的に沖縄を訪れて撮影に約8年かかったといいます。ならば、LIVE旧版の掲載種数と同じ2100種を約1年で撮影するには、単純計算で24人いれば可能なはず・・・・・・。2020年8月、丸山先生の「全種を生体白バック撮影で」とのご提案を、昆虫素人の私は都合よい計算とともに了解したのでした。
 また、どんな障壁があるとしいぇも「前代未聞の図鑑」を制作することは、編集者冥利につきるものです。かつて業界で初めて『危険生物』を制作した身としても、他社にない魅力をもったこの規格に迷うことなく飛びついてしまいました。
 デジタルが主流となった昨今、図鑑の未来はどうなるのか、という質問をとく受けます。
 (・・・)
 『学研の図鑑』が目指す本作りの肝は常に、伝統と革新にあり、紙としての図鑑の最高傑作を目指さなければなりません・・・・・・。」

「私たちが身の回りの環境の変化や季節の移り変わりを知るうえで、「昆虫」の図鑑は最も役に立つ教科書です。ですから、図鑑の掲載数は多いほどよいはず。その点、2800種以上という数は、全ジャンルの学習図鑑誌上で最大です。すごい図鑑ができました。
 昆虫を採集したら。図鑑の誌面の上に置いて、生きた虫を撮った写真と比べてみてください。昆虫の名前を知ることで、あなたの世界観は一変することでしょう。」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?