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田中 淳夫『虚構の森』

☆mediopos-2566  2021.11.25

「常識」は「世論」をつくるが
「常識」そのものが間違っているかもしれないことは
意識しておいたほうがいい

じぶんだけの「常識」であれば害は少ないが
それが「世論」とともにあるとき
その「世論」にも少なからずじぶんの責任があるからだ

「常識」の多くには
身近な人達からの影響もあるだろうが
教育やマスメディアやネットによって得た情報が
「常識」になっていることも多い

それらの多くは自分で考え
それを検証して「常識」としているわけではない
ほとんど刷り込み(インプリンティング)である
そしていちどすり込まれた「常識」はなかなか変えられない

教育やマスメディアやネットに
バイアスが少なければいいのだが
むしろそれらこそがバイアスの源となっている
それらの発信源に都合の悪い情報は
最初から情報の外に置かれるか
間違った情報やフェイク情報として位置づけられてしまう

発信源は基本的に多くの場合
政治と経済の利益によって成立しているから
その背景にしっかり目を向けておくことが
刷り込みから自由になるためのリテラシーを育ててくれる

本書は森林ジャーナリスト田中淳夫による
地球環境問題に関する常識や思い込みへの異論集だが
それらの異論・異説がすべて正しいというのではなく
「「森の常識」を元につくられた〝環境問題の世論″」に
「不都合な真実を突きつけ」
「多くの情報の正否を判断し、全体像を描」き
「時間的視野を持ち、「もし〜だったら」と考察する」ことを
繰り返すことで思考を鍛え
リテラシーを磨いていくというのがその意図のようだ

昨今の環境問題や医療の問題などをめぐって
「常識」とされていることの多くは
いろんなお金や力が働いてつくられたものだ
「SDGs」とかいうのも
どこかほんらいの問題意識とは
どこか別のところで動いている経済問題だったりもする

「常識」は部分的には確かに
「正論」を語っているので疑いを持ちにくいが
その「正論」によって隠されていることや
政治や経済においてどんな利益が動くのか
ということに目を向けていけば
その部分性によってスポイルされているものも見えてくる

気を付けなければならないのは
「異論・異説」への過度の傾斜にも注意が必要だということだ
「常識」となっている「正論」のすべてに
アンチをぶつけるだけだと
それが別の強力なバイアスを生んでしまう

重要なのはさまざまな意見を総合したうえで
大きな声に左右されず
また自分に都合のよい情報だけに拠らず
「中」なる見解を持てるよう努めることだ
それが必ずしも正しいとはかぎらないが
そうすることで常にみずからを極論と思い込みから遠ざけ
柔軟な判断のもとに置くことができる

※引用部分に目次を引いておいたが
それぞれのテーマ(章)ごとに
「森の常識」に「?」がつけられているから
じぶんの「常識」にぶつけてみると思いがけない気づきとなる

■田中 淳夫『虚構の森』
 (新泉社 2021/11)

「森があれば洪水を防げ、渇水もなくなり、山は崩れない。森は二酸化炭素を吸収して気候変動を抑えてくれる。また森こそ生物多様性を支える存在であり、もっとも大切な自然である。それらを裏返すと、人の営みは常に環境破壊を引き起こす。さらにプラスチックは環境に悪い影響を与え、農薬や除草剤は生態系を狂わせる悪魔の化学物質。
 森だけではないが、こうしたステロタイプな環境問題における常識は、本当の問題点を覆い隠す。昨今は国連の定めた温室効果ガスの削減目標やSDGs(持続可能な開発目標)さえ推進すれば(実現すれば、ではない)、地球は安泰だと信じてしまう。
 何も「森の常識」を全否定しようというのではない。だが深く考えずに信じてよいのか。何か見落としはないか。常識というバイアス(思い込み)は判断を誤らせないか。
 森の世界に長く関わると、ときに「不都合な真実」に触れてしまうことがある。不都合と言うより、森は千差万別であり。融通無碍であり、常にワンダーな感覚に満ちた存在であることに気づくと言った方がよいか。私自身は、その謎だらけで予想を覆す森に惹かれるのだが、世間は固定された森の姿を描きがちだ。そんな「森の常識」を元に環境問題の世論が形成され、政策がつくられていくのを見ると、不安を超えた危険性を感じる。
 本書では、私の見つけた森に関する異論・異説、意外な現実などを紹介したい。それらは一般に思われている森林とは違った姿だろう。学会で定説(だが、世間ではあまり知られない)の項目もあれば、新説として注目され始めたばかりで、まだ評価が出ていないものもある。とはいえ(…)陰謀論や政治的プロパガンダ、スピリチュアル系、オカルト系のトンデモ学説からは慎重に距離を置いたつもりだ。
 テーマには、地球的課題であり気候変動と生物多様性に関わる森の話題を意識してエランdあ。そのほか外来種の侵入など身近な自然の変容、日本の森林の歴史的変遷、植物が人にもたらす被害としての花粉症、日本文化を支える森の産物、そして環境問題に対する政策や報道そのものも取り上げたい。
 自然の変化を何でも環境破壊だと糾弾するつもりはない。反対もある。環境破壊と騒ぐ中には、まったく別の理由で起きたもの、あるいは自然界の正常な営みを人為のせいだと思い込むケースもある。また人が生きるための自然への働きかけを、どこまで否定できるのか迷う。ある程度の「人間の都合」は受容せざるを得ないだろう。
 また「異説への異論」もあるはずだ。その異説を取り上げた私の浅学さもあれば、早合点もあるだろう。科学の新たな知見が過去の定説を否定する可能性だって残される。本書を読んで「こんなもの、異説でも異論でもなう。すでに常識だ」という人もいれば、「信じられない。意図的にゆがめられた情報じゃないか」と思う人もいるだろう。ここであっさり異論を信じるでも否定するのでもなく、さらに深掘りして、本当に正しいのはどちらかチェックしてくれたらよい。それを含めてのリテラシーだ。」

「現在、世界中の科学者たちが必死に将来の環境を予測しようとしている。そして警告を発している。もちろん外れることもあるが、全体としては想定どおりに危機が進行している。だが信じない人も多い。そして「フェイクニュース」、そして「グリーン・ライ」「グリーン・ウォッシング」が広がってきた。ニセ情報、環境に関する嘘、環境によいと思わせる洗脳、と訳せばよいか、いずれも世間を欺き、現実の環境破壊を隠すものだ。
 なぜなら警告は、自分にとって不都合な事態であり「信じたくない未来」だからだ。それゆえ恣意的に、あるいは無自覚に否定する。ただ、それらのニセ情報は「目先を取り繕う」ためだけであり、本来必要な対策の足を引っ張っているのだ。
 これらに対抗するには、できる限り正確な情報を導き、それを多くの人に届け、足を引っ張るフェイクニュースを否定する必要がある。そこに必要なのは、感情的な予想ではなく、厳格に科学的データに寄り添い、未来に起きるさまざまな可能性を想像することだ。そんな「論理的な想像力」を磨きたい。
 では「論理的な想像力」を磨くにはどうしたらよいか。
 まず情報は多いほうがよい。異論・異説も含めた幅広い情報を仕入れ、ていねいに考察する訓練が欠かせないと思う。情報はバラバラ、正反対のものでもよい。一つ一つ検討して正否を判断していくうちに、全体を包含する新たな「事実」を見つけられるかもしれない。
 「群盲象を撫でる」とか「木を見て森を見ず」と言うが、個の盲人が撫でて取得した情報は間違いではない。目にした一本一本の木の様子も嘘ではない。だから各人の情報を突き合わせていけば、全体の姿を想像できるはずだ。
 ただし、大きな声に左右されないこと。自分に都合のよい情報だけを選ぶ、都合の悪い情報を無私する、といったバイアスに支配されないこと。象の鼻を触った人の意見だけを重んじると、象は長い蛇のような生物に思えてしまう。大木ばかりに注目したら低木や草を見落とす。多くの情報の正否を判断し、全体像を描く。そして時間的視野を持ち、「もし〜だったら」と考察する。それを繰り返すことで思考を鍛えていきたい。」

※各章での「異論」より

第1章 虚構のカーボンニュートラル
「森林は増えている!
 森林は温室効果ガスを出す!
 気候変動で陸地が増えた島国あり!
 木を植えるのは環境破壊!」

第2章 間違いだらけの森と水と土

「森があると水は涸れる!
 森の下の表土は失われる
 森が山崩れを誘発する!
 土からパンデミックが起きる」

第3章 日本の森を巡る幻想

「現代日本の森は非常に豊か
 潜在自然植生は幻の存在!
 進化は自然破壊から始まる!
 生物は森より草原に多い!」

第4章 フェイクに化ける里山の自然

「花が咲いても種はできない!
 日本の原風景を外来種がつくる!
 養蜂が野の自然を守っていた!
 争わない外来種と在来種もある」

第5章 花粉症の不都合な真実

「スギ花粉は縄文の昔も多かった!
 森が荒れると花粉は減る!
 間伐したら花粉は増える!
 花粉に似たマイクロプラスチック」

第6章 SDGsの裏に潜む危うさ

「日本文化を支えるのは外国産!
 自然を破壊する自然エネルギー!
 パーム油は非常に優秀な食用油
 食糧危機はやって来ない!」

◎目次

はじめに ――森を巡る情報の「罠」

第1章 虚構のカーボンニュートラル

1.地球上の森林面積は減少している?
2.アマゾンは酸素を出す「地球の肺」?
3.間伐した森は「吸収源」になる?
4.森林を増やせば気候変動は防げる?
5.老木は生長しないから伐るべき?
6.温暖化によって島国は水没する?
7.砂漠に木を植えて森をつくろう?

第2章 間違いだらけの森と水と土

1.「緑のダム」があると渇水しない?
2.「緑のダム」があると洪水は起きない?
3.木の根のおかげで山は崩れにくい?
4.森は降雨から土壌を守ってくれる?
5.黄砂は昔から親しまれる気象現象?
6.植物もパンデミックに襲われる?

第3章 日本の森を巡る幻想

1.マツタケが採れないのは、森が荒れたから?
2.古墳と神社の森は昔から手つかず?
3.日本の「本物の植生」は照葉樹林?
4.日本の森は開発が進み劣化した?
5.植林を始めたのは江戸時代から?
6.生物多様性は安定した環境で高まる?
7.草原は森より生物多様性は低い?

第4章 フェイクに化ける里山の自然

1.ソメイヨシノにサクランボは実るか?
2.外来草花が日本の自然を浸食する?
3.堤防に咲く花は、遺伝子組み換え植物?
4.街路樹は都会のオアシスになる?
5.ミツバチの価値はハチミツにあり?
6.外来生物は在来種を駆逐する?

第5章 花粉症の不都合な真実

1.造林したからスギ花粉は増えた?
2.枯れる前のスギは花粉を多く飛ばす?
3.スギを減らせば花粉も減る?
4.舗装を剥がせば花粉症は治まる?
5.花粉症はスギがもたらす日本だけの病?
6.マイクロプラスチックは花粉症より危険?

第6章 SDGsの裏に潜む危うさ

1.桜樹は日本人の心だから保護すべし?
2.和紙も漆も自然に優しい伝統工芸?
3.木材を使わない石の紙は環境に優しい?
4.再生可能エネルギーこそ地球を救う?
5.パーム油が熱帯雨林を破壊する?
6.農薬や除草剤は人にも環境にも危険?
7.人口爆発のため食料危機になる?

終わりに――行列の後ろを見るために

主な参考文献(順不同)

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