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中田兼介『もえる! いきもののりくつ』

☆mediopos2807  2022.7.25

「どんなに奇妙に見えていても」
「そこには生きる「りくつ」が通っている」
ということで
世界の動物行動学者たちの最新研究をもとに
その「りくつ」についての話が
81編にわたって楽しめる一冊

しかもそれぞれの「りくつ」の話のあとに
QRコードがついていて
その「りくつ」の典拠となっている論文に
リンクされているので
興味をひかれたテーマについて
さらに深い内容を知ることができるという親切さ

著者の中田兼介氏は
動物(主にクモ)の行動学や生態学が専門で
三年ほどまえになるがおなじミシマ社から出ている
『クモのイト』をこのmedioposで紹介したことがある

本書の81編は以下の11のテーマに分けられていて
それぞれに数編がコンパクトに収められていてどれも面白い

「食うか、食われるか」
「スメスってなんだろう? 」
「これも一つのプロポーズ」
「それでもみんなと暮らしたい」
「相手や道具を利用する」
「からだのつくりには意味がある」
「実は、いろいろ考えてます」
「ケンカに勝つ! 」
「人新世のいきものたち」
「時に交尾は命がけ」
「奇想天外ないきものたち 」

上記の11のテーマそれぞれのなかから
ひとつずつ選んでそのさわりのぶぶんを
以下の引用で11とりあげているが
ほんとうは81全部をご紹介してみたい話ばかり

さて本書の「まえがき」で
「私たちもいきものの一種です。
ですから、いきもののりくつがわかれば、
私たちといきものがどのくらい地続きでどこが違うのか、
そして私たちがどんないきものか、
手がかりが得られると思うのです」とあるが

たしかにそのとおりで
いろんな生き物の奇妙な生態を知ると
人間のほうがずいぶん奇妙な生きものであることがわかる
そしてその「りくつ」はとくにひどく不条理そのものである

ある意味でいろんな生きものの奇妙さなんて
人間のなかにぜんぶあるように思えてくる
そしてさらにそれを超えて人間はとても奇妙だ
愛すべき奇妙さもあるけれど
破壊的なまでに倒錯した奇妙さもあったりする
いままさに世界中で進行中のさまざまも
いきものの奇妙さの比ではないように思えてくる

■中田兼介
 『もえる! いきもののりくつ』
 (ミシマ社 2022/7)

(「はじめに」より)

「当たり前ですが、いきものは人間とは違っています。そんな彼ら彼女らの中には、私たちが奇妙に感じたりギョッとするようなことをするものがいます。
 たとえば、イソギンチャクを武器にケンカをするカニや、オスが出産する魚。鳥の中には子育てを別の種類の鳥に強要するものがいますし、交尾するカタツムリは、からだから矢のようなものを伸ばして相手をブスブス突き刺します。ひえー。
 そんないきものたちに気を配るって、どうしたらよいのでしょう?
 そこで出てくるのがこの本のテーマの「りくつ」。
 どんなに奇妙に見えていても、調べてみれば、そこには生きる「りくつ」が通っているものです。つまり、いきものたちは皆、自分なりのやり方で合理的なのです。このことを押さえれば、私たちは、上から目線でなく、同じ地球をシェアする同輩としていきものと接することができるはず。気配りの基本です。
 そして、私たちもいきものの一種です。ですから、いきもののりくつがわかれば、私たちといきものがどのくらい地続きでどこが違うのか、そして私たちがどんないきものか、手がかりが得られると思うのです。
 この本は、そんな思いでできていて、いきものたちについて紹介した八一編のお話を、一冊にまとめています。登場する主ないきものは、ほ乳類はもちろん、他にも鳥やカメ・ヘビの仲間に、クラゲの仲間やエビ・カニ、軟体動物に魚といった水の中のいきもの、そして虫たちがいます。動物がほとんどなのは、私が動物の生態や行動を専ら研究しているからです。中でも専門はクモなので、クモの出てくる話は四編と少し多めです。贔屓が入っていることを打ち明けておきます。」

(「りくつ・その1:食うか、食われるか 」〜「オタマジャクシの、頭よ大きくなーれ」より)

「エゾサンショウウオと一緒に育ったオタマジャクシは、普通より頭が大きく膨れた形に育ちます。サンショウウオはオタマジャクシを頭から丸のみにするので、迫る口よりも頭を大きくすれば安心なのです。これで逃げ隠れの必要はなくなります。」

(「りくつ・その2:オスメスってなんだろう? 」〜「妻を亡くしたクマノミ、母になる」より)

「一夫一妻で暮らすクマノミは、メスが死ぬと、残されたオスのからだの中身がつくり変わり、精子をつくるのをやめ、卵をつくるようになります。つまり、メスに性転換します。」

(「りくつ・その3:これも一つのプロポーズ 」〜「視覚の魔術師、オオニワシドリ」より)

「(オオニワシドリ)のオスは、求愛のため木の枝を地面にたくさん突き立て、並行に並んだ二列の壁をつくります。壁の間は通路のようになっていて、メスはそこに誘い込まれます。左右を壁に遮られたその場所で、メスは視野が開けた通路の向こう側を見ることになりますが、オスはその舞台で求愛のダンスを踊るのです。
 ここでトリックが使われます。オスは舞台に、石、動物の骨、貝殻などを敷き詰めていますが、このとき、メスから見て近い場所には小さなもの、遠い場所には大きなものを並べます。シンデレラ城とは逆のパターンです。これは舞台を小さく錯覚させる働きがあるはずで、その上で踊るオスは、実物より大きくメスの目に映っているのかもしれません。(・・・)
 並べるものの大きさをより規則的に変えられるオスのほうが、メスにモテることがわかっています。」

(「りくつ・その4:それでもみんなと暮らしたい」〜「アリの感染症対策」より)

「アリ、ハチ、シロアリは、たくさんの個体が集まって暮らしている社会性昆虫です。この社会は基本的に家族からできていて、菌やバクテリアが繁殖すると皆にとって一大事です。とくに危険なのが、湿度の高い土の中で巣をつくる種類のアリ。そこでアリは自ら抗生物質を分泌し、自分や巣仲間のからだに塗りたくって身を守ります。」

(「りくつ・その5:相手や道具を利用する 」〜「トビは放火犯?」より)

「火災は生態系を維持する役割を果たすなど自然の一部になっており、火を利用する動物もいます。
 その一つが、トビ、チャイロハヤブサなどの「ファイヤーフォーク」と呼ばれる猛禽類です。この鳥たちは、炎が広がりつつある場所の近くを飛び回ります。火や煙から逃れようとする小動物をエサとして狙うのです。
 それだけではありません。トビたちは、燃えているものを道具に使って、まだ燃えていない場所に火を広げもするらしいのです。」

(「りくつ・その6:からだのつくりには意味がある 」〜「ウニの目はどこにある?」より)

「ウニはからだ全体で物を見ている、いわば全身が一つの目の動物なのです。」

(「りくつ・その7:実は、いろいろ考えてます 」〜「ゼロがわかるミツバチ」より)

「ミツバチですが、すでに一から四までの数を区別できることがわかっています。」
「ハチは、一、二、三といった数の順番がわかるだけでなく、何もない、という状態を、それらより小さい数、として扱っているわけです。つまりゼロです。」

(「りくつ・その8:ケンカに勝つ! 」〜「遊ぶ子ブタの声聞けば」より)

「生まれてから数週間の間、子ブタたちは鼻をつきあわせて押しあうようなケンカのまねごとをして遊びます。」
「戦いゴッコでたくさん遊んだメスの子ブタは、大きくなって誰が強いか決めるための本当のケンカをしたときに、勝者になることが多いのです。」
「一方、オスの場合はメスとは逆で、子ブタ時代によく遊ぶと、大人になってケンカに負けるのです。」

(「りくつ・その9:人新世のいきものたち」〜「虫の惑星の危機」より)

「オランダ、ラドバウド大学のキャスパー・ホールマンさんによるお、空を飛ぶ昆虫を全部合わせた重さが、一九八九年から二〇一六年の間に四分の一に減少したとのこと。衝撃的なのは、この調査がドイツの自然保護区で行われたことです。」
「地球は虫の惑星です。虫は動物の中で種類も一番多く、数が減ると、生態系がうまく働かなくなり、私たち自身が困ります。」

(「りくつ・その10:時に交尾は命がけ」〜「メスを独り占めしたいクモ」より)

「交尾に成功したオスは、あろうことか、突起をねじり切って交尾器を破壊し、さっさとメスのもとを立ち去ります。残されたメスにはもう手がかりとなる突起がないので、他のオスが言い寄ってきても、そこから先に進めません。つまり、メスは二度と交尾できなくなり、後に産卵するときも、すべて最初のオスの子を産むことになります。これはオスから見れば、完璧な独り占めです。」

(「りくつ・その11:奇想天外ないきものたち 」〜「クジラは立ち泳ぎで夢の中」より)

「ほ乳類で眠っているのが見た目でわかりにくいのがイルカやクジラ。泳ぎながら眠ることで有名で、脳の半分ずつを休ませて目覚めている残り半分を使って泳いでいます。このことは脳波を測ってわかります。私が妻の脳波を測ってみたいとときどき思っているのは内緒です。」

【目次】

りくつ・その1:食うか、食われるか
りくつ・その2:オスメスってなんだろう?
りくつ・その3:これも一つのプロポーズ
りくつ・その4:それでもみんなと暮らしたい
りくつ・その5:相手や道具を利用する
りくつ・その6:からだのつくりには意味がある
りくつ・その7:実は、いろいろ考えてます
りくつ・その8:ケンカに勝つ!
りくつ・その9:人新世のいきものたち
りくつ・その10:時に交尾は命がけ
りくつ・その11:奇想天外ないきものたち

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