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『時間軸で探る日本の鳥 - 復元生態学の礎』

☆mediopos-2417  2021.6.29

鳥類は現在世界中で一万種ほどいて
日本にはそのうちの六〇〇種ほどが
確認されているというが

昔の日本列島に棲んでいた鳥たちと
現在棲んでいる鳥たちとでは
その顔ぶれはずいぶん変化している

環境が変わると
生態系も変わっていくからだ

過去にいた鳥たちについて知るためには
DNAなどによる分子生物学的手法や
化石を使った生物学的方法などがある

一億年ほど前の前期白亜紀には
日本列島がまだ存在していなかったが
日本列島の形成とともに
鳥類の棲息も確認されるようになり
一万二千年程前の更新世には
鳥類化石も数多く見つかるようになる

そして日本列島が形成され
そこに人が移り住むようになると
鳥たちとの関係も生まれてくるようになる

日本で動植物についての記述があらわれるのは
八世紀の『風土記』で
行政府が諸国の官吏に命じて
各地の産物について記載させていて
鳥類の記載も数多くあるが
中世には動植物についての記述はあまり多くないようだ

博物学的知識が飛躍的に進展したのは江戸時代である
一六〇八年に中国で本草綱目が完成して輸入されると
それを礎にして現代の博物学に通じる研究が興りはじめ
鳥類について「いつ」「どこで」「何が」が
明確に記録されている史料が数多くつくられるようになる

さて現代では日本の鳥の国勢調査である
「全国鳥類分布調査」(サイトあり)が
1970年代と1990年代に環境省によって行われ
全国的な鳥の分布とその変化を明らかにすることで
日本の生物多様性の評価や
レッドリストの改訂に使われている
さらにその後の3回目の調査を踏まえ
2020年度末には完成されているという

いうまでもないことだが
過去の歴史的な変化と比べると
近代以降はとくに
生息地の破壊や過剰な捕獲などによって
鳥類相は大きく変化してしまうようになった

たとえ捕獲されない場合でも
たとえば葦原がなくなったり
河口が埋め立て立てられたり
森の樹が刈られてしまったりすると
そこに棲んでいる鳥たちや
北方や南方から渡ってきている鳥たちは
棲むところがなくなってしまう

親たちの世代の話を聞くと
鳥を飼っているのが普通だったりもし
身近にいる鳥たちのことをよく知っていたりもするが
現代ではほとんどそういうこともなくなりつつある

個人的にいっても
すでに鳥たちについて日常的に知っていることは
かなり限られたものとなっていて
ある程度じぶんなりに関心をもちはじめ
鳥類のまとまった図鑑を
はじめて購入したのが二十数年前のこと
それ以降少しずつ比較的に身近な鳥たちを
観察するようになってきているが
当時の図鑑の記載にある鳥たちでさえ
稀少になったり見られなくなっているものも多くある

生息地の破壊などによる生態系の破壊で
ここ数十年のあいだにも
鳥類相は急激に変化してきているようだ

重要なのはまず
鳥たちに関心をもつこと
そしてその現状を
「時間軸」の視点も使いながら知り
「損なわれた、あるいは失われた生態系を
積極的に本来の自然の在り方に再生・復元させる」
といったの取り組みに目を向けることだろう

かつてのじぶんもそうだったが
身近にいる鳥たちのことや
少し足を伸ばすだけで観察できる鳥たちのことを
ほとんど知らずにいた
関心をもちはじめると
じぶんの無知がよく見えるようになる
いまでは季節の鳥たちを見るために
野山にカメラをもってでかけることも多く
鳥たちの今も少しながら見えてくるところがある

「いつ」「どこに」「どんな」鳥たちが
「どのくらい」いるのか
そして鳥たちはそこで何をしているのか
関心をもちはじめると
鳥たちの未来のことも含め関心は深まってくる

■黒沢令子/江田真毅【編著】
 『時間軸で探る日本の鳥 - 復元生態学の礎』
 (築地書館 2021.3 )

「二一世紀の現在、日本産の鳥類として六三三種が知られている。日本列島とその周辺で進化し、ここに自然に分布するようになった鳥たちだ。本書は、時間軸で探る日本の鳥』というタイトルが示すように、そうした鳥たちについて、いつ、どこに、何がどのくらいいる(いた)のか?という基礎的な四つの疑問を追求することと、その鳥たちはどのような進化過程を経て、どのような事情で分布域を変化させ、人とどのように関わってきたのか?という点を時間を追って探ることを目的とした。」
「本書で答えようとする、いつ、どこに、何が、どのくらいいたのか?という四つの疑問は、不幸にして今後実践的な役割をもつ可能性がある。現代では、生物のすむ環境自体が損なわれたり、失われたりして、種の絶滅率がかつてないほど高まっている。人の手によって損なわれつつある生態系は、人の責任において守る必要があるというのが保全生態学のスタンスであり、日本ではそうした活動と研究は生態系管理や順応性管理と呼ばれる。一方、損なわれた、あるいは失われた生態系を積極的に本来の自然の在り方に再生・復元させるというアイデアが、欧米で始まっている復元生態学の分野である。一度危機に陥った生態系を復元するためには、本来の健全だった状態を知ること、人に喩えれば処置が必要な高熱があるかを判断するために平熱を知っておくことが不可欠である。本書では新進気鋭の研究者たちが、過去の鳥のバードウォッチングを試みることで、この際の有力な手掛かりとなる手法と分野についての情報を提供しており、復元生態学のような新しい分野の土台にもなれるだろう。サブタイトルの『復元生態学の礎』にはこのような思いを込めた。」

(第1部「骨や遺伝子から探る日本の鳥」より)

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「昔の日本列島にはどんな鳥類がすんでいたのだろうか。日本はアジア大陸の北東辺縁にある列島で、かつてはほとんど海洋だったが、陸生鳥類の化石も発見されており、さらに人間の登場以降はその遺跡からも鳥の化石が出土している。
骨やDNAを利用した古生物学、考古鳥類学、および系統地理学で、前期白亜紀からの鳥類の歩みを解き明かす。」

第1章 化石が語る、かつての日本の鳥類相──太古のバードウォッチング(田中公教)
1 「骨のかたち」から探る!
2 中生代の日本の鳥類相
2 ─ 1 日本に鳥がやってきた──前期白亜紀(1億4500万~1億年前)
2 ─ 2 海をめざした鳥たち──後期白亜紀(1億~6600万年前)
2 ─ 3 滅びたものと生き残ったもの──白亜紀末の大量絶滅(約6600万年前)
3 新生代の日本の鳥類相
3 ─ 1 かつて日本を支配した巨大な海鳥──古第三紀・漸新世(3400万~2300万年前)
3 ─ 2 多様化する鳥類と開かれた日本海──新第三紀・中新世(2300万~530万年前)
3 ─ 3 つながった二本の〝日本列島〟──新第三紀・鮮新世(530万~260万年前)
3 ─ 4 氷河時代のおとずれと日本人の出現──第四紀・更新世(260万~1万2000年前)
4 おわりに

第2章 遺伝情報から俯瞰する日本産鳥類の歴史(青木大輔)
1 遺伝解析から生物のルーツを探る系統地理学
1 ─ 1 遺伝情報から過去を遡る
1 ─ 2 系統地理学の考え方
2 日本列島における系統地理学
3 日本列島における鳥類の系統地理学
3 ─ 1 哺乳類と類似した分岐年代を持つ鳥類
3 ─ 2 哺乳類と類似しない日本列島・大陸間の分岐年代を持つ鳥類
3 ─ 3 近縁な系統がユーラシア大陸に分布していない鳥類
4 おわりに──日本産鳥類のルーツ探しの課題と展望
コラム1 古人骨の遺伝解析から俯瞰する日本列島人のルーツ(青木大輔)

第3章 考古遺物から探る完新世の日本の鳥類(江田真毅)
1 遺跡から出土した鳥骨の肉眼同定
2 ニワトリ──その日本列島への導入を考古遺物から探る
2 ─ 1 いつニワトリは日本に持ち込まれたのか?
2 ─ 2 なぜニワトリは日本に持ち込まれたのか?
3 アホウドリ──その過去の分布と分類を考古遺物から探る
3 ─ 1 日本海から消えたアホウドリ科の鳥はなにか?
3 ─ 2 アホウドリは日本海やオホーツク海で繁殖していたのか?
3 ─ 3 アホウドリは一種ではない?
4 おわりに
コラム2 古代美術の鳥

(第2部「文化資料から探る日本の鳥」より)

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「江戸時代には動植物についての博物学的知識が飛躍的に進展した。現代人が認める鳥類の顔ぶれを、江戸時代の人はどのくらい認識していたのだろうか。
四〇〇種以上を描いた鳥類図鑑から現代との相違を読み解き、さらに高雅で上流階級に好まれたツル類をテーマに、同定方法から過去の分布までを探る。」

第4章 絵画資料からみる江戸時代の鳥類──堀田正敦『観文禽譜』を例にして(山本晶絵・許開軒)
1  『観文禽譜』に描かれた鳥の同定
1 ─ 1 様々な『観文禽譜』
1 ─ 2 描かれた鳥の同定を行った研究
1 ─ 3 同定結果の一致率
2  『観文禽譜』における鳥類名称の現和名との異同
2 ─ 1 現和名との一致率
2 ─ 2 江戸時代の鳥類名称
3  『観文禽譜』に描かれた鳥
3 ─ 1 在来種と非在来種
3 ─ 2  『観文禽譜』とレッドリスト
4 おわりに
コラム3 江戸時代の食文化と鳥類(久井貴世)

第5章 文献史料から鳥類の歴史を調べる──ツルの同定と分布の事例(久井貴世)
1 江戸時代の博物誌史料から「鶴」を同定する
1 ─ 1 文字情報から「鶴」の姿を探る──『本草綱目啓蒙』の事例
1 ─ 2 複数の史料を用いた総合的な検討──謎のツル「丹鳥」をめぐる推理
2 文献史料から江戸時代のツルの分布を調べる
2 ─ 1 文献史料に「生息」するツルを探す
2 ─ 2 文献史料から復元する江戸時代のツルの分布──宇和島藩の事例
3 おわりに
コラム4 文献資料からみた鳥の名の初出時代(黒沢令子)

(第3部「人と鳥類の共存に向けて」より)
 
「西洋科学に基づく野外研究は、種の顔ぶれだけでなく個体数や分布域の推定まで可能にした。
その手法の一つとして、二〇年ごとに行われてきた全国調査がある。第3部ではその最新の結果から、日本の鳥の二〇〜二一世紀の動向を紹介し、また、日本列島における鳥類の今後について、人間社会の経済活動による影響も踏めて探る。」

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第6章 全国的な野外調査でみる日本の鳥類の今(植田睦之)
1 必要なアマチュアの観察者の手による広域調査
2 1970年代から行われている分布調査
3 日本の優占種
4 分布や個体数の増減している鳥
5 増減種の共通点から見える日本の自然の変化
5 ─ 1 増加した鳥の共通点
5 ─ 2 減少した鳥の共通点
6 気候変動の影響
7 調査の課題

第7章 人類活動が鳥類に及ぼす間接的影響から今後の鳥類相を考える(佐藤重穂)
1 外来生物の影響
1 ─ 1 外来鳥類が在来生態系へ与える影響
1 ─ 2 外来捕食者による鳥類への影響
2  生息環境の変化の影響
2 ─ 1 森林利用の変化
2 ─ 2 シカの増加による森林植生の変化
2 ─ 3 ナラ枯れ
3 保全生態学の立場ではどのように対応するか
3 ─ 1 ヤンバルクイナの個体群管理
3 ─ 2 高山帯生息種ライチョウの危機
4 おわりに
コラム5 再生可能エネルギーの利用拡大に伴う問題(佐藤重穂)

◎全国鳥類分布調査
https://bird-atlas.jp/index.html


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