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ずっと過去回想—切り裂き魔ゴーレム―

概要

監督
フアン・カルロス・メディナ
製作
スティーブン・ウーリー

 エリザベス・カールセン

 ジョアンナ・ローリー(1)

あらすじ

 19世紀のビクトリア朝ロンドンで起きた連続猟奇殺人事件を題材に、史実と虚構を織り交ぜながら描いたピーター・アクロイドのミステリー小説を映画化。ロンドンで連続殺人事件が発生し、容疑者として4人の名前が挙がった。その中には日記に殺人の美学をつづっていた脚本家クリーもいたが、彼は既に別の事件で死亡しており、女優である妻がクリーを毒殺したとして逮捕されていた。連続殺人事件を追う刑事キルデアは、クリーの妻の裁判の行方を見守るうちに彼女の無実を確信。彼女に言い渡された絞首刑が執行されるまでのわずかな時間で、夫殺しの真犯人と連続殺人事件の真相を追う。(2)


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はじめに

 この作品を手に取った理由はゴシックロマンの香りがしたからだ。そして見始めると最初の刑事コンビの掴みや世界観の広がりに心が惹かれたが中盤はだれて、最後はどんでん返し。ゴシックロマンを求めていた私には不服であった。


特徴

ヴィクトリアミステリー

 ヴィクトリア朝のイギリスを舞台としているミステリーというと多くの人はシャーロック・ホームズと切り裂きジャックを思いつくだろう。この映画はその切り裂きジャックをモデルに置いているだろうが完全別の話となっている。

作中に出てくる著名人

 作中にはカール・マルクスやジョージ・ギッシングのなどの著名な人物が登場しこの物語が過去にあった出来事かの様に史実的な演出を出しており、物語に本館的に関わってくるダン・リーノという人物にも同様に言えるだろう。

中心となるテーマ

 こちらの映画は捜査にあまり重きを置かずにミステリーの要素をふんだんに盛り込んだドラマティック映画という側面が大きく、最後のどんでん返しもある女性の生涯を比喩しており、その女性の生き様や主張を強く観客に与えるための一つで最大の要素である。



良い点

美術

  この作品はヴィクトリア朝のイギリスを舞台としており、登場人物が身に着けている衣装やスラムなどもその世界に合わせてデザインされている。裁判のシーン男性しか入れない裁判所、そこで槌を振る白い鬘をかぶる裁判官に謙虚にその特徴を見ることが出来る。


ダン・リーノという人物

 前述のとおりこの作品はある女性の悲劇を表現している作品でミステリーはそれの添えもの感が否めないしたが、この女性はどちらか言うと魅力が薄い。反対に首つり死体が舞台上にあり、観客が目の当たりにしても彼女に捧げる舞台を続けるダン・リーノという人物の方が魅力的に映る。


演出

 演出面では度肝う抜かれるものがある。この作品は正体が分からない切り裂き魔ゴーレムの正体を探るものとなっているがその正体だと推理する場面がその時に取り調べを受けている人物が犯人になっていたり、最後のどんでん返しのリジーの過去回想の滑らかさから刑が執行されるまでも違和感なくのめりこむことが出来る。



悪い点

ぞんざいな推理

  推理について思うことはたくさんある。序盤に名刑事とされているキルデアの推理パートが素早く、リズミカルに行われていたがその前半のテンポの良さが直ぐに失われ、リジーの語りが大幅に行われる中捜査パートが短くぞんざいな印象を受ける。そして最後のどんでん返しもお粗末な捜査描写の性でキルデアの間抜けさが強調されている。


捜索より目立つリジーの過去語り

 しかしその為にこの作品のミステリー要素が陳腐になっている。体感この作品の4/5がリジーの語りでその1/5が捜査になっている。その為にこの作品を手に取ろうと考えている多くがミステリーやサスペンスファンには見応えがないだろう。

 もしこのリジーの過去語りのシーンが面白ければ良いのだが、おおよそ最後のどんでん返しのシーン以外は見どころがない。彼女が女優として成功するまでの幼少期の売春の過去も初舞台が成功し女優として生き続けるために同様な行いをしたこともその時代の女性の成功としては予想されるものである。

 彼女の暴力的な衝動と自己の名誉の為に殺人を起こす思考もここまでの彼女の生涯の過程を流されれば男により身を売りながら夢へと追い続け、立ちはだかる者を殺す彼女の生き方にある種の感情移入を行えるがその為の描写が長すぎる。彼女が切り裂き魔ゴレームとして人殺しを行う以前の殺しは三人も殺す必要はない。


登場人物

 切り裂き魔ゴーレムの容疑者となっているのは著名な人物が出てくるがこれが出てくるだけで物語の本筋に関わってくることもなく名前のあるモブでしかない。この容疑者の枠がその人物である必要はないし、他の人物であっても構わないのである。これをもう少しこの題名に関わる「ゴレーム」や女性活動に関わる人物を配置すれば良かったのではないか。

 そしてこの作品の中の登場人物の設定も本当に必要かと思うものもある。例えばキルデアがゲイ疑惑があり、それのせいで昇進できなくなるやこの作品の探偵となるキルデアの相棒となる刑事もそもそも出す必要があったのかという程影が薄い。

 キルデアやダン・リーノがあまり女性に興味なく描写し、それによりリジーに寄り添うことが出来ると描写したいのかもしれないがそれは極端ではないか。女性が恋愛対象の人物でも友情が芽生え、苦難を取り除きたい、救いたいと考えるものがいても可笑しくない。そういう意味では女性として名を上げる事の苦悩を男女間の絆(それこそ恋愛対象である性でではなく、同性感のような強調し絆の描き方ではなく)もあって良いだろう。


おわりに

ミステリーやサスペンス、リジーの一生よりも

 もし私がこの映画のキャッチコピーを付けるのならある女性の悲劇とするだろう。彼女が切り裂き魔ゴーレムである為ミステリー要素を絡めたいのは分かるがあまりにも主軸がずれすぎている。邦画でやっている様な「貴方は最後の五分間に騙される」とキャッチコピーを付けたくなる。それしか見どころがなくリジーのドラマも感動的では無く、共感も出来るものではなく、ミステリーやサスペンス要素も期待外れのものである。本当にどんでん返しを見たいと思うものは見ればよいかと思う。そのどんでん返しも叙述トリックのよくあるパターンであるのでミステリー好きやどんでん返しものが好きな人は何となく察しが付くものであるが。


題名

 題名の「切り裂き魔ゴーレム」も何もかかっていない様に見える。別のサイト(4)では「ゴーレム」と無形のものとあり犯人もそれを悪く思っていないとされるがそれが話の本筋とは上手く噛み合っていない。ただ犯人が気に入っただけではなくもう少し別の意味も付随して欲しかった。リジーのこの時の女優として成功しておらず名を残すためには切り裂き魔とし手しかなかったことを象徴したいのかもしれないが彼女の感情面が優先しそれを目の当たりにしたキルデアがそう回想したとかを付けた方が良いと感じた。



(註)

(1)、(2)、(3)、ヘッダー画像以下から引用、転載

(4)




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