人類を苦しめ悩ませ続けるもの

いにしえより今に至るまで人類を苦しみ悩ませ続けてきたもの

憂い「私の言葉は耳に聞こえなくても、胸の内には響くはずです。
   姿を色々と変えて、恐ろしい力を揮うのが私です。
   野の小道でも、波の上でも、心を不安にする永遠の道連れで
   来いと言われる事のない代わりにはいつでもくっついているのです」
         
憂い「誰でも私に捕まると、その人には全世界が無益なものになります。
   永遠の闇が被さってきて、
   太陽は昇りもしなければ沈みもしない。
   耳目になんの障りもないのに、心の中には闇が巣食うのです。
   どんな宝も、我がものとする事ができません。
   幸も不幸も共に悩みの種になり、豊でいながら飢えるのです。
   楽しみであれ、苦しみであれ、翌日へ延ばそうとし、
   ただ未来に恃むばかりで、物が出来上がると言う事がないのです」
        
憂い「往こうか、戻ろうか、決心がつかないのです。
   大きな坦々たる道の真中で、足元がよろよろするのです。
   段々方角がわからなくなって、見当が全く狂ってきて、
   自他の厄介者になり、息をしながら行き苦しい想いで
   窒息はしないまでも生きた心地がしない。
   絶望はしないが、釈然とはせず、絶えず右往左往して、
   諦めるには辛く、無理にやるのも厭で、
   開放されたかと思うと束縛され、眠りも浅く、心から休まれず、
   だからその場で立ち往生で、とどの詰まりは地獄行きなのです」

ファウスト
  「たわけ者めが!
   貴様はその手で人類を幾たび苦しませ悩ましてきた事だろう。
   貴様らは平凡な日々をさえ混乱した苦悩に満ちた物にしてしまうのだ
   悪霊を振り切る事は難しい。
   だが憂いよ
   忍び寄る貴様の大きな力を己は絶対に認めてはやらぬぞ」

    「ファウスト 第二部」ゲーテ  憂いとの対話

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?