見出し画像

海を見ていた午後

*この作品は松任谷由実(荒井由実)さんの名曲「海を見ていた午後」をイメージしたオリジナルショートストーリーです。歌詞とは一切関係ありません。

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

side A

外国人墓地を横目に住宅街を不動坂目指して、レストラン「ドルフィン」までの道のりをのんびり歩くのが好き。

あの頃、恋に追いつけない私がいた。
泣かないことの陰にあるあのときの気持ち、あなたにわかって欲しかった。
恋を難しくしてしまうのは口にできずに溢れ返った言葉たちの反乱なのか…。

緩やかな坂を上りドルフィンが見えてくる。額に薄っすらとかいた汗を拭ったハンカチを眺め、私は紙ナプキンに書いた "忘れないで" のインクが滲んだ文字を思い出した。
さぁ、ノスタルジアをソーダ水に溶かして味わおう。
私は扉をゆっくりと開けた。

♢♢♢♢♢

side B

久しぶりに訪れた坂上のレストラン。
ここから見る風景が好きだった。
あれから街並みもだいぶ変わってしまったことに僕はあらためて時の流れを感じた。

いつも2人は一緒だった。
小さな喧嘩はしょっちゅうだったのに、あの時、泣かない彼女を強がりの裏返しだと気づけないほど僕もまた未熟だった。
今なら受け止めることができるんだろうか。
紙ナプキンに滲みながら君が “忘れないで“ と、やっと書く前に「大丈夫」と優しく言ってあげられるだろうか。
僕はドルフィン・ソーダを飲みながら彼女を思い出していた。

ふと何気なく振り返った扉がゆっくりと開いた。

貨物船眺めるふりでほんとうはあなたを見てたドルフィンの午後


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?