自由恋愛主義とは?海外で生まれた経緯や特徴、日本での歴史を紹介
法律や従来の倫理観に縛られた恋愛ではなく、より「自由」な性の関係を示す言葉として「自由恋愛」があります。一対一の恋愛だけでなく、複数者間の恋愛やより性に正直にあろうする姿勢を示していますが、実は思想や長い歴史を持っており、思想に基づいた活動として「自由恋愛主義」と呼ばれます。様々な価値観が認められる現在、ますます重要になってくる「自由恋愛主義」について説明します。
自由恋愛主義とは?
日本で「自由恋愛」というと、明治や大正時代に、親と決めた相手(許嫁)ではなく、自分の意思で相手を決めることを意味します。
一方で世界では自由恋愛は「リベルタン(Libertin)」や「フリーラブ(Free Love)」といった用語で知られるように、一種の社会運動として受け止められています。結婚や避妊、不倫といった性的な問題に関して、国家やキリスト教といった宗教的価値観から切り離し、全ての愛を受け止める活動です。このため、「自由恋愛主義」や「自由恋愛運動」と呼ばれることがあります。
特に近年では、自由恋愛主義は1960〜70年代のアメリカのヒッピームーブメントとともに有名になりました。
NBCニュースによると、「自由恋愛主義(フリーラブ)」は、19世紀のイギリスのロマン派詩人パーシー・ビッシュ・シェリーに遡り、1900年代初頭の婦人参政権運動やアメリカのジャズ時代を経て生まれた概念として知られています。ただし、さらに遡ると、フランスの啓蒙思想(キリスト教的世界観から脱却し、人間性を重視した思想)と結びついています。
こうした従来の価値観から脱却することを目的として、男性、女性に限らずに既存の制約から自由に性的快楽を得る権利や行動のこととして、認識されています。
ただし、不倫や浮気といった行為とは異なります。不貞行為を働くのではなく、あくまで従来の性愛からの脱却としての意味があることに注意しましょう。
リベルタン(libertin)とは
自由恋愛主義に関連する用語として、「リベルタン(Libertin)があります。18世紀の啓蒙の時代に登場し、従来の道徳的原則や性的抑制から解放され、肉体的な快楽を求める人物のことを指します。こうしたリベルタンの価値観をリベルティナージュやリバティナージュと呼びます。
リベルタンは、古代ローマで「解放奴隷」を表すラテン語(libertinus)に由来していることがフランス語の多くの辞書に記されています。もともと17世紀にはlibertinというフランス語は不信仰者と放蕩者を同時に意味していましたが、その後次第にもっぱら特定の傾向の思想を抱いた者たちを指すようになり、かならずしも放蕩者でない思想家も指すようになりました。
18 世紀になると「リベルタン」は、日常生活の乱れや性生活の放埓ぶりを表す意味が際立ってきます。
その中で、現代では自由恋愛としての側面が、夫婦であっても男性も女性も自由に恋愛を楽しもうという思想を刺す際に使われるようになっています。
現代における自由恋愛主義の特徴・課題
前述したように、自由恋愛は時代とともにその意味するところは変化しています。
特にフリーラブといった観点からは、1960年や1970年のヒッピーカルチャーとの関連から、不特定多数との性交渉の印象が持たれることがありますが、意味するところは、法律で規制された婚姻関係からの脱却や、関連して当事者たちの合意によって交際の開始や終了が決めることができるという主張が自由恋愛主義の特徴です。
男女間の性的な格差を排除するという意識もあったことでしょう。
日本においても、過去には夫のある女性が夫以外の男性と性交することによって、その女性と相手の男の罪を追求する姦通罪がありましたが、この法律は女性に告訴する権利がなく、男女差が問題視され、現在は廃止されています。
最近では、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性別越境者)、クイア(性的マイノリティや既存の性カテゴリに当てはまらない人々の総称)、さらにはこうしたカテゴリに当てはまらない多様なセクシャル・マイノリティを全て包含する「LGBTQ+」という言葉も定着しました。海外では同性婚を認める国や地域も増えています。
2024年6月には、タイが東南アジアで初めて同性婚法案を可決しました。2024年8月時点で、アジアで他に同性婚を認めているのは台湾とネパールのみですが、多様な価値観が認められる社会を目指す中で、今後も同性婚が認められる国が増えてくることでしょう。そうした時により性に寛容であろうとする「自由恋愛」は重要な概念になってくるはずです。
しかし一方で、一対一の恋愛や結婚が一般的な現在では、自由恋愛は社会的な理解もまだ得られにくく、「ふしだら」「不純」と思われてしまうことも否めません。
自由恋愛は複数人と恋愛する「ポリアモリー」とも近い価値観です。こうした人々を排斥するようでは、多様な人々が住む現代では自由に生きることへの障害となってしまうかもしれません。
日本の自由恋愛の歴史
前述してきたように、自由恋愛といっても、国や時代によって、受け止められ方は様々です。ここでは日本の自由恋愛に関する歴史を紹介しましょう。
日本での自由恋愛明治末期から
日本では、そもそも「恋愛」という言葉が生まれたのは明治時代からとされています。当時、文明開花とともに西欧の文化が流れ込み、「ラブ」に対する翻訳の言葉として登場しました。江戸時代には「恋」という言葉は存在していましたが、今日の「恋愛」に近い意味で使われることは稀で、肉欲的な意味合いが強く、さらに「情」や「色」という言葉が使われることが多かったとされています。しかしこれは欧米での「ラブ」とは違うという認識から「恋愛」という言葉が当てられたようです。
欧米のラブはキリスト教的価値観と結びついてこともあり、日本においては肉欲ではなく、精神的な「崇高な」ものと解釈されました。ただ、実際には肉欲的な側面もありましたが、当時の「文化的に欧米に遅れている」という意識からそのような解釈になったのかもしれません。
一方で、日本は長らく、男性が家庭内で絶対的な権力を持つ「家父長制」としての時代が長く続いていました。
そうした中で、明治時代末期から「自由恋愛」が始まり、大正時代に議論が深まり広がりをみせ始めます。それまでは「許嫁」のように親の決めた相手と結婚することが一般的でしたが、当時は恋愛論がブームとなったこともあり、個人の恋愛によって決める「自由恋愛結婚」が生まれました。
その後、戦争によって若者が減少した影響で集団お見合いが実施され、これが許嫁とは異なる自由恋愛の意識を醸成させます。さらに1960年代には日本でもヒッピームーブメントが注目され、より性の解放と結びついた自由恋愛の意識にも広がっていきました。
現代では、日本で自由恋愛という用語が用いられることは日常生活ではあまり聞きません。しかし、様々なセクシャリティを認める世の中で、恋愛や婚姻関係についてもポリアモリーやオープン・マリッジなどが知られ始めています。
浮気や不倫とは違うもの?
自由恋愛はあらゆる形の愛を受け止める社会活動ですが、複数の相手と付き合ったり、セックスをしたりするため、浮気や不倫ともとられがちです。しかし、自由恋愛主義自体は、伝統的な規範に対して女性の性的自由を求めたものであり、複数の人との性行為を前提としていたものではありませんでした。
最近では、複数人と恋愛関係を持つポリアモリーやオープン・マリッジという言葉が生まれています。
しかし、ポリアモリーは「特定複数」との恋愛関係や交際し、さらには当事者が合意しているという点が浮気や不倫とは異なります。浮気や不倫は相手に隠れて行う行為であり、ポリアモリーではありません。
同様に自由恋愛も個人の主張としてあるものであり、隠すものではないことが浮気や不倫とは異なるでしょう。
オープン・マリッジも、当事者が合意した上で配偶者以外と交際することを言います。これも合意があるという点で浮気や不倫と異なります。
ただし、現在の日本では婚姻関係後に配偶者とは異なる人と肉体関係があった場合に不貞行為とされる可能性があります。
性に奔放?
自由恋愛を公言していたとしても「性に奔放」かどうかというのも一概には当てはまりません。
「わたし、恋人が2人います。 複数愛という生き方」という著書で知られるポリアモリーの「きのコ」さんは、ポリアモリーがビッチであることは同じではないと言います。
ポリアモリーに関して100人以上を取材して上梓された荻上チキさんが執筆した「もう一人、誰かを好きになった時 ポリアモリーのリアル」の中では、きのコさんへの取材を通じて、ポリアモリーはあくまで「特定複数との関係」であり、誰とでもセックスを行うこととは異なるとしています。
複数人と関係を持つ言葉には、スワッピングやフリーセックス、カジュアルセックスなど様々なものがあります。「自由恋愛」がどの行為までが指し示すのかは明確な定義がない状態ではありますが、それぞれをごちゃ混ぜにせず、しっかりと議論していくことが重要でしょう。
合意に基づく複数者間の恋愛
自由恋愛主義とは、法的・倫理的な規制から解放された性の関係を追求する思想や運動を指します。リベルタン(Libertin)やフリーラブ(Free Love)として知られるこの概念は、歴史的には啓蒙思想や19世紀の婦人参政権運動、20世紀のヒッピームーブメントなどと結びつき、社会の変革とともに進化してきました。
日本における自由恋愛は、明治末期から大正時代にかけての恋愛論のブームを背景に、親が決める許嫁制度からの解放を求める形で始まりました。戦後の社会変動を経て、個人の恋愛に基づく結婚が一般化し、1960年代には性の解放をテーマとするヒッピームーブメントの影響も受けました。
現代において自由恋愛主義は、ポリアモリーやオープン・マリッジといった形で多様なセクシュアリティや恋愛のあり方を尊重する価値観として再認識されています。しかし、一方で社会的な理解や受け入れはまだ十分ではなく、「ふしだら」や「不純」といった偏見も存在します。
自由恋愛主義は浮気や不倫とは異なり、当事者間の合意を基盤とした関係性を重視します。この点で、自由恋愛主義は倫理的であり、個々人の性的自由と尊厳を守るものです。
今後、ますます多様な価値観が認められる社会に向けて、自由恋愛主義の理解と受容が広がることが期待されます。性に関する議論を深め、異なる価値観を尊重することで、より自由で包摂的な社会を築いていくことが求められています。