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脳神経外科のドレーン管理 13‐2



開放式ドレナージ回路と4つのクランプ

 開放式ドレナージは、脳脊髄液を含む空間(脳室、脳槽、くも膜下腔)にドレーンを留置するドレナージです。留置する場所により、脳室ドレナージ、脳槽ドレナージ、スパイナルドレナージ(腰椎ドレナージ)と呼ばれます。ドレナージの目的は、脳脊髄液を排液することによる頭蓋内圧のコントロールや、脳脊髄液の中に含まれる血液や細菌の排除のほかに、頭蓋内圧のモニタリングです。また、薬物の髄内投与や髄液漏時の硬膜の修復などがあります。

 一般的に使用されている開放式ドレナージシステムは、ドレナージチューブ(頭蓋内に留置される部分と頭蓋外の部分)、ドレナージ圧を設定するドレナージ回路(サイフォン)、流出した髄液を溜めて計測するドレナージバッグで構成されます。

閉鎖式ドレナージシステム

 開放式ドレナージには、5種類(6カ所)のクランプがあります。安全にドレナージするために、ドレナージ中はクランプを適切に開放します。また、移送時や排液バッグ交換時などは設定圧が変化するため、クランプが必要になります。ただし、定量計下クランプは、正確な排液量を測定するため、常時クランプしておく必要があります。

1.  患者側ロールクランプ

 髄液の流出を止め、圧設定(サイフォンの高さ)が変わることによるオーバードレナージを防ぎます。また、逆流を防ぎます。

2.  バッグ側ロールクランプ

 バッグ内に貯留した髄液の逆流を防ぎます。髄液は無菌ですが、ドリップチャンバー内は大気に開放されているため、無菌ではなくなります。そのため、バッグ内の髄液がドリップチャンバー内に逆流し滴下筒を塞ぐと逆行性感染を起こします。また、ドリップチャンバー上部のエアフィルター汚染につながります。

3.  ドリップチャンバー上部のエアフィルタークランプ

 ドリップチャンバー内を大気圧にするため、外気と交通させる管がついています。髄液は無菌であり、外気と交通することによる感染を防ぐため、フィルターがついています。エアフィルター汚染防止のために、クランプがついています。

4.  排液バッグ側エアフィルタークランプ

 バッグ内を大気圧にするため、外気と交通させる管がついています。髄液は無菌であり、外気と交通することによる感染を防ぐためフィルターがついています。エアフィルター汚染防止のために、クランプがついています。

開放式ドレナージ回路の原理

 脳室・脳槽・腰椎ドレナージは、それぞれの部位に挿入したドレーンと、髄液の滴下と圧の設定を行う回路に接続されています。頭蓋内圧が設定圧を超えたときのみ髄液が排出されます。

 外耳孔(モンロー孔の位置)をゼロ点として、外耳孔をゼロ点とし、チャンバ内の円板部の高さの差でドレナージする圧を設定しています。チャンバ内の円板部の高さをゼロ点からDrの指示の高さ(cm)で設定することにより、頭蓋内圧が設定圧を超えたときだけ、髄液が排出されるような仕組みになっています。(図)刺入部からサイフォン部までのチューブ内で液面移動している高さが、現在の頭蓋内圧を示しています。

 滴下部から落ちた脳脊髄液は排液バッグ内に溜められ、排出量を測定します。

設定圧

開放式ドレナージにおけるインシデント

クランプの閉鎖忘れのインシデント

患者側ロールクランプ ➜ 患者移動時に設定圧が変わりオーバーまたはアンダードレナージ

バッグ側ロールクランプ ➜ 逆行性感染

ドリップチャンバー上部エアフィルタークランプ ➜ フィルター汚染

排液バッグ側エアフィルタークランプ ➜ フィルター汚染

定量計下クランプ ➜ 正確な排液測定不可:排液量確認・定量計からドレナージバックへの排液後のクランプ忘れ、手術室でのクランプ忘れに注意する

クランプの開放忘れのインシデント

患者側ロールクランプ、排液バッグ側エアフィルタークランプ、バッグ側ロールクランプ ➜ ドレナージ不良

ドリップチャンバー上部エアフィルタークランプ ➜ サイフォンの原理によるオーバードレナージ

ドレナージ回路はクランプの閉め忘れ、開け忘れによって患者の状態が悪化します。開放・閉鎖する順番を守り、声出し、指差しで確認をします。また、クランプ時間はできるだけ短くし、クランプ中は頭蓋内圧亢進症状に注意します。開放時は、液面移動の有無を確認します。

ドレーンチューブのねじれ

 移送などでドレナージ回路をスタンドから外したときや、スパイナルドレナージ中で姿勢を直したときに、ドレーンチューブが捻じれてしまい、閉塞することがあります。移送終了後や体位変換後はドレナージの刺入部から回路まで捻れがないか、目視で確認します。

サイフォンの原理が発生するとオーバードレナージを招く

 サイフォンの原理とは、高低差により生じる自然の圧力差を利用して、液体を高いところに上げてから低いところに移動させる原理です。(図)ドレナージは、ドレナージシステムの管の両端の圧力差を利用して液体を移動させています。排液バッグはドレーン挿入部または外耳孔より低いところに留置します。この高低差が大きいほど排液する力が大きくなります。

 サイフォンの原理による液体の移動は、ドレナージシステムの管の両端の圧力が等しくなる場合、もしくは高いところの液体がなくなるまで続きます。ドレナージ回路のフィルターをクランプしたまま、患者側ロールクランプを開放すると、サイフォンの原理が働き、持続的に頭蓋内圧と大気圧が平衡になるまで、脳脊髄液が流出し、オーバードレナージになります。

サイフォンの原理

開放式ドレナージの観察ポイント

1.ドレナージ中の拍動・色調・排液量の確認

 ドレナージ中には、ドレナージの拍動や髄液の色調、排液量を観察し、異常、正常の判断をします。又、医師が治療方針を決定するための大事な情報となりますので、正確な観察が重要になります。

 正常な髄液は無色透明で、血腫が混入すると血性になります。時間の経過とともに黄色に変化し、この色調をキサントクロミーと言います。髄膜炎などの感染を起こすと混濁し、浮遊物が混在します。

 健常成人の1日の髄液の生産量は500mL、くも膜下腔の体積は180mlであるので、脳脊髄液は1日に約3回入れ替わります。髄液の流出量を把握するために、基本的に2時間ごとに排液量を記録します。短時間で急激に流出した場合は、低髄圧や硬膜下血腫、脳ヘルニアが起きるリスクが高くなります。一時的に回路を閉鎖して、髄液の流出を止める場合もあります。

 ドレナージ回路内の髄液面は、呼吸、循環に一致した拍動が見られます。拍動が見られない場合は、ドレナージチューブの閉塞や屈曲、クランプの開放忘れなどの可能性があります。

 流出量が少ない場合は、ドレナージ回路の閉塞・屈曲、ガーゼ内の三方活栓の閉鎖などを疑います。

2.感染に対する観察と対応

 髄液内は無菌状態ですが、ドレーン留置中にはドレーンによって体内と体外が交通するため、医原性に感染を引き起こす可能性があります。感染の原因は大別して、ドレーン刺入部からの感染と、ドレナージ回路内からの感染があります。

1)ドレーン刺入部からの感染

 ドレーン刺入部からの感染を予防するために、まず刺入部の皮膚を清潔に保つ必要があります。刺入部の発赤や髄液漏の有無などの観察が必要です。

2)ドレナージ回路内からの感染

 ドレーン接続部分は定期的に確認し、回路からの髄液採取や排液バッグ交換は清潔操作で施行します。移動時には、かならずドレナージ回路のすべてのクランプ箇所を閉鎖し、サイフォンのチャンバ・排液バッグのエアフィルターの汚染を防止します。

3)感染を予防するための対応

 一般的には、ドレーンを2週間以上留置する必要がある場合は、感染予防の観点から入れ替えを行います。脳室・脳槽ドレナージの場合、スパイナルドレナージに入れ替えます。

3.ドレーンが2本留置されている場合の管理方法

 くも膜下出血術後などに脳室ドレーンと脳槽ドレーンなど、留置部位が異なる2本のドレーンが留置されていることがあります。その場合の管理方法は、ドレナージの目的と解剖生理を考えます。

 くも膜下出血術後のドレナージの目的は、血腫を頭蓋外へ排出する事と頭蓋内圧をコントロールする事です。そのためには、ドレーンから血腫が混じった髄液を排出させる必要があります。では、脳室と脳槽のどちらから排出する様に設定圧を設定したら良いでしょうか?

 脳脊髄液は脳室で作られ、脳槽を含めた様々な経路をたどって、脳表のくも膜顆粒で吸収されます。くも膜下出血の血腫は脳表にありますので、血腫を頭蓋内に排出するためには、髄液の流れの下流に留置されている脳槽ドレーンから排出させる必要があります。脳室には血腫はありますが、脳表や脳槽に比べると少なく、ほとんどが脳脊髄液になります。脳脊髄液を排出する事で頭蓋内圧を下げることができますので、脳室ドレナージは頭蓋内圧コントロールに適していると言えます。ですから、脳室ドレナージは頭蓋内圧をコントロールするために設定圧はやや高めにし、脳槽ドレナージは血腫を排出するために設定圧は脳室ドレナージより低くします。

ドレナージ回路の開放手順、閉鎖手順

 外耳孔の高さで0点を合わせ、髄液滴下部を設定圧に固定したことを確認してから、ドレナ-ジ回路のワンタッチ式クランプやロールクランプを開放させます。クランプ順やデクランプ順は図を参照してください。

回路開閉手順

 ドレナージ回路の開放時に注意することは、エアフィルターを閉鎖したままでクランプを開放してしまいサイフォンの原理で髄液の排出が多くなってしまうことです。(オーバードレナージ)

 ギャッチアップや体位変換時、吸引時には、0点設定が変動するためクランプを閉鎖して行うことが必要です。また移送時には、ドレナージ回路を閉鎖し、エアフィルターが汚染されないように十分注意します。ケア終了後は、ドレナージ回路の開放忘れがないか、指さしで閉鎖箇所を確認します。

 ワンタッチ式クランプにチューブがしっかりと噛んでいないことや、ロールクランプを中途半端に絞めている場合があるので、クランプ後も目視で確認をします。

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