見出し画像

あいのひと(2022/3/12 ukka 茜空 生誕ソロライブ「19 -生々流転-」)

(※以下の文中、敬称略で失礼します)

愛の人

茜空は「愛の人」だ。
2020年10月、LGBTQをテーマに取り上げて、showroom配信を行ったときだった。
ひとつひとつ言葉を慎重に選びながら、自分が学んで感じてきたことをどう伝えるのか、そして聞いているほうに思い込みや誤解を生じさせるようなことはないか、たっぷり2時間、笑顔で、ときに涙ながらに語りかける姿。
それは、このことを考えるきっかけになった”身近な人”の思いに寄り添おうと、そして同時に、”いまここにいる誰も”を置いてけぼりにしないようにと必死な姿にも見えた。
ちょうど、茜空が高校生活最後の秋をむかえたタイミングだった。

ukkaのメンバーが、誕生日を迎えるたびに、自身が企画・演出の中心となってソロライブを行う。
そのことが発表になったのは、ukkaが4人体制の集大成を走り続けていた2021年9月だった。
まず、村星りじゅと川瀬あやめが、それぞれのコンセプトでソロライブをやり、O-WESTのステージとフロアを弾けさせたのは、翌10月。
11月を迎え、ukkaが2人の新メンバーとともに再スタートを切った舞浜を経ても、もちろん、とめどなく流れる時間は止まってはくれない。
年が明けて1月、そして2月。茜空、芹澤もあのソロライブも、演出や構成のプランニングが大詰めに近づいている中で、茜空は、やはり「誰も置いてけぼりにしない」様子で、配信を通じてファンに語りかけた。
どういう演出がいいと思うか? もし観客参加型にするなら、どこまでの協力をあおいだらよいのだろう? あまり知られていないかもしれない曲はセットリストに含めていいんだろうか? そんなひとつひとつを、ファンに委ねるべきところは委ね、決めるところは自分で決めていく。
それは、大学1年生として、単位フル取得を目指し、課題に追われながらだった。

2022年3月12日、土曜日。
誰よりも茜空自身が待ち望んでいた、であろう、初めての生誕ソロライブ。
折からのコロナ渦の影響で、もともと予定されていた2月27日から、2週間延期での開催となった。
ただそれは、偶然ながら、このライブが、茜空18歳最後の夜に行われることを意味していた。

3月に入ってから、日のあたる場所に出ると少しだけ汗ばむような、暖かい日が続いていた。そして、ライブ前日にはさらに温度が上がり、日陰でも十分に春の陽気を感じられた。
当日は、もしかしたら長袖一枚でも過ごせるんじゃないか。金曜日夜のウキウキした気分を助長させてくれていた。

神田スクエアホール、オフィスエリアも併設された真新しいビルに入り、高い吹き抜けを斜めに長く突っ切るエスカレーターを上がると、開場を待つ観客の数は、おおよそ200人くらい。
早くも、生誕グッズのロングTシャツを着込んでいる人たちの胸には、刺繍されたトイプードル「リブレ」が、吠えるでもなく甘えるでもなく、なんともいえないアンニュイな表情でこちらを見ている。

整理番号順、新しいビルに似つかわしい足取りで、その場の200人余りが、そろりそろりとホールに一列に並んで入っていく。ライブハウスだと、我先にと入場を急ぐのに、都会のオフィスビルに囲まれた場所だからか、なぜだろう、どこかしら優雅に会場内に吸い込まれていく観客たち。

会場に入ると、目につくのは、ステージ上に据え付けられた数々の茜空の日常たち、教室だろうか?
正面には、大きなホワイトボード。
「2022年3月12日 日直 芹澤」という縦書きの文字が、ちょっと窮屈そうに右脇に追いやられるように、真ん中に名前がまだ入っていない大きな相合傘の落書きが、暗がりの中でもよく見える。
それを少し距離のおいたところから見つめるように、MacBookや筆記用具やいろんな小物が置かれた長机が下手の手前に、譜面台と楽譜が上手の手前に配置されている。

ふと自分の座る席に目をやると、さっきアンニュイな表情を浮かべていた「リブレ」が、椅子に一枚だけ置かれた名刺サイズのカードの中から、同じ顔でこっちを見ている。
手に取ると、裏面には手書きのメッセージが書かれていた。後になってから知るのだが、それらは、すべての座席で違うメッセージを、それぞれ茜空が手書きで書いたものとのことだった。

ホールのスピーカーから流れてくるSEは、いつかどこかで茜空が「好きだ」と言っていたような、いや言ってないかもしれないな、な軽快な5曲。

 pink lemonade - twice
 小生意気ガール - カントリーガールズ
 東京少女 - Fullfull☆Pocket
 ナイスポーズ - RYUTist
 雀ノ欠伸 - saucy dog

開演3分前、いつものukkaのライブと同じように、場内ナレーションで諸注意が流れる。
もしかしてその影ナレは茜空ゆかりの人が!かもしれない、と耳をすませたその声…には聞き覚えがない…普通のナレーション。
あくまで事務的に、あくまで日常からの延長のように。

ほどなく暗転。
真正面にオープニングVTRが映し出される。
ファンの間では、自宅配信の際にお馴染みになった、秒針が大きめに響く音に、少しだけ緊張感を高める。画面には6時半をしめす目覚まし時計が映し出される。
アラームとともに、カメラが引いて映し出された茜空の部屋。
起き上がって、おもむろに出かける準備をはじめる茜空。
軽くリップを塗り、外出する服装に着替え、JANSPORTのバックパックに乱雑に荷物を放り込み、玄関であわただしくローファーを履いて、出ていく制服姿…ん?制服?

あかね いろ

01. 前髪 - アイドルネッサンス
02. 神さまの言うとおり - フリンデルガール
03. 恋の呪縛 - Berryz工房

映像が消え、ステージの照明とともに、会場の空気をふわっと撫でるように、やさしく「前髪」のイントロが流れる。
さっき玄関を出て行った茜空が、ステージに制服姿で現れる。
かつて、桜エビ~ずが、2018年10月のワンマンライブでカバーした名曲は、揺らいだまま決まらない前髪に自分を重ねながら、でも、とどまらず前を向いて走っていこうという歌詞がつづられている。
15歳の茜空が「決まらない前髪が」と歌った日の思いと、18歳の今日の思いとでは、いかばかり同じで、そして違うのだろう?
明暗と入れ替わって、次々に移ろいゆくスクリーンの空模様は、最後に”あかねいろ”に染まり、曲がゆっくりと止まる。
この色と情景”茜空”を、自分を示す名前と決めてから、10代のほとんどの時間を走り抜けてきた。そんな10代も、明日からラストイヤーがはじまる。

2年ちょっと前、2020年1月。
新型コロナウイルスで、全てがストップする直前、茜空はブログで「みんなは将来の夢ありますか? 私は将来の夢ある。叶わないと思うけど」と語りかけた。

♪ 文集に載せた将来の夢は
♪ 急いで作ったおもちゃみたい
♪ でも透き通っている
前髪 - アイドルネッサンス

茜色に照らされたステージの照明はゆっくりと消えて、続く2曲めは『神さまの言うとおり』。
2013年発表だから、もう10年近くも前の私立恵比寿中学のユニット曲。何度かライブやイベントで披露されているが、決してエビ中でもメジャーな曲というわけではない。
2000年頃のタンポポ(ハロプロのユニット)を彷彿とさせる、スタンドマイクの前に、瑞季・星名美怜・鈴木裕乃の3人で立つ『静』のシルエットは、おそらく茜空自身は実際に見てはいない。
そんな曲を、茜空は、ステージ所狭しと縦横無尽に駆け回って歌って見せた。

♪ 月曜日の3時間目は
♪ そわそわしちゃう 授業よりも
♪ だってだって次の理科室は
♪ 3年生の廊下を通るんだもん
神さまの言うとおり - フリンデルガール

歌詞に合わせて、大胆に教科書を投げ捨ててみたり、ジャケットを脱ぎ散らかしてみたり、相合傘に名前を書き込んでみたり、三次方程式のグラフの横に「1+1=3」と殴り書きしてみたり。
動きの中で、緊張の表情が少しずつ解けていく。

教室を縦横無尽に駆け巡りながら、3曲めは「恋の呪縛」。
歌い手は、曲の最後に、夕陽さす教室で、思いを寄せた相手から逃げ場のない告白を受ける。
アイドルという道を選ばなかったら、あるいは茜空が経験したかもしれない世界の背中には、澄み切った青い照明が光っていた。
まだ3月なのに、夏が始まった合図がした。

04. 帰り道は遠回りをしたくなる - 乃木坂46
(転換VTR / ねぇローファー。 - 桜エビ〜ず)
05. Poppin' love!!! - ukka

『帰り道は遠回りをしたくなる』
2018年12月、西野七瀬が、乃木坂46を去る最後の紅白で歌った卒業ソング。
「 好きだったこの場所」
ひとりでハイトーンのキーを全編歌いきり、教室と一年前までの日常のセットから、静かに袖に去っていく茜空。

ほどなく、正面にふたたびVTRが流される。
左からローファーを履いた女性の足はこび、右から横切る白い靴を履いた女性の足はこび。互いにすれ違う。
ゆっくりと『ねぇローファー。』のイントロが流れ、画面にはレッスン場・学校・自宅、さまざまな場面での茜空の日常が流れ出す。
コロナ禍での生活になってほぼ2年、いつしか高校卒業も間近に迫っていた。

画面には、友人とのLINEでの何気ないやりとりが映し出される。

「ライブ終わった」
「まだアイドルやってるんだ」
「そう、楽しいよ」

中学・高校を卒業して、周りの同級生にしたがって、短大・大学・専門学校に進学すれば、何かしら社会人の入口を見つけることができては、それなりに安定した収入・生活を得られる…という生き方は、ひと昔の価値観になったのだろう。
自分は「キャリア」と言う言葉なんて、10代の頃に意識したことなんてなかったな。
教室で机を向かい合わせにして、先生を前に、空欄のままの進路計画シートの質問から、容赦なく「高校卒業後のキャリア」という文字が突きつけられる。

♪ 去年より顔つきが少し大人になったの?
ねぇ、ローファー。- 桜エビ〜ず

急に曲が止まり、ステージの照明が暗転する。
暗転の中、ボールペンを走らせる音がする。

沈黙の中、明転とともに浮かび上がってきた文字は「大学とアイドル」

曲が戻り、ふたたび映像の中でも時間が流れ始める。
フラッシュバックのように、レッスンの様子と高校生活、そしてレッスンの合間合間に受験勉強する様子と。
そして、スマホのスクロールとともにあらわれる「合格通知証」の文字。

♪ 行かないで その駆け音が廊下に響く前に
♪ 君への一歩踏めること この子は知ってる
♪ ねえ、ローファー。
ねぇ、ローファー。- 桜エビ〜ず

ローファーから少し高めのヒールに履き替えて、つま先に重心を乗せかえて、しずしずとした足はこびでステージに戻ってくる茜空。
暗がりの中でも、それがこの日のステージのためにあつらえられた衣装だということはわかる。

静かに流れる「Poppin' love!!!」のイントロから、ステージ上の時間もまた秒針を刻み出す。
今日歌うのは、1番だけ。

♪ 可愛いだけの女の子は もう卒業よ
Poppin' love!!! - ukka

アイドルとして

06. 初恋模様 - 桜エビ〜ず
07. 恋をしてるのきっと - Dorothy little happy

「大学とアイドル」の文字が画面に浮かび上がったタイミングあたりから、インスタライブでの中継が始まっていた。

https://www.instagram.com/tv/Ca_--ATFcUD/?utm_medium=copy_link

『Poppin' love!!!』の照明が解け、ゆっくりと正面に向き直ったまま、今回の衣装について。
「いえーい、こんばんはー、みんな見えてる?」
「今回、私らしくないピンクの服なんか着ちゃって」
「どう?らしくないっしょ」
そういいながら反復横跳びを繰り返す様子、そして自撮り棒を持ってニコニコニヤニヤニタニタしながら、インスタライブ画面に向かう姿は、このライブで一番、”アイドルを演じていないのにアイドルらしい”茜空だったかもしれない。

MC中に、セットは一気にファンシーなものに入れ替えられて、撮影可タイム。
ヘリウムの風船が数多くステージ上をいろどる。
「一度ピンクのフリフリの衣装を着てみたかった」というのは、何よりも「自分のファンに見てほしい」という強い思いなのかもしれない。
ステージの上手と下手を何度も行き来しながら、数百人の視線を独り占めにする茜空。

最後列から、『初恋模様』のまだ幼い歌声に合わせて3列ずつが立って撮影をしていく。この配慮が嬉しい。
あっという間に1曲が過ぎ去る。ずっと動き続ける姿を捉えようと、無数のシャッター音が会場に鳴り響く。
確かに、茜空は百面相だ。

撮影可の時間は終わり、続いての曲は『恋をしてるのきっと』
ドロシーの2013年の曲を、きっとリアルタイムで聴いたわけではないのだろう。
折に触れて、茜空は「もともとアイドルになりたいわけではなかった、なんなら最初はアイドル的なものを毛嫌いしていた」と言う。
はじめてライブパフォーマンスを見たエビ中であり、プロとしてのあり方を学ぼうとしたハロプロであり、そしてドロシーやリリスクであり、10代を通じて、数多くの楽曲やライブを目の当たりにして、アイドルとしての多様性や、形にとらわれない表現の面白さを見つけ出したのだろう。

♪ ハートがワクワクして止まらない
恋をしてるのきっと - Dorothy little happy

手を懸命に伸ばし、折り曲げて、心臓を揺らす振付。
かつて活躍したグループに敬意を持って、自分なりにトレーニングを重ねて、歌い、そして振付をまねることで、魂が受け継がれることは、確かにある。


会いたくて 会いたくて 君の名前呼んだよ

08. 桃色片想い - 松浦亜弥
09. リフレインがずっと - 私立恵比寿中学
10. スターダストライト - 私立恵比寿中学

「続いてのブロックは、良かったらペンライトを振ってください」
ライブ前、何度か配信でファンと確認した、ペンラの色。
曲の表情に合わせて、一曲ずつ色を変えてほしい、と言ったそばからの『桃色片想い』
今日のこの衣装は、この曲を歌うために選んだんじゃないか、というくらいピンクの衣装が映えて跳ねる。

曲調が一転して、スローテンポなイントロとともに『リフレインがずっと』。
2018年12月、幕張のクリスマス大学芸会で披露された、これもエビ中のユニット曲だ。
エビ中初の3日間連続のクリスマス公演。
6人で迎えた初日のあと襲ったアクシデントで、2日目3日目は急きょ5人でパフォーマンスしたエビ中を、その公演のOPアクトを担当した桜エビ〜ずメンバーはずっと見ていた。
もちろん、このユニット曲を歌う様子も。
急きょ真山りかがひとりで歌わざるをえなかった2日目、そして柏木ひなた安本彩花が手をつなぎながら極上のデュエットを披露した3日目。

茜空ひとりで歌い出した声が、やがて2声に分かれる。上手からおずおずと、仲の良い先輩が、自身のソロライブよりも格段に緊張した様子で歌いながら現れる。
「2曲目は、じゃあ赤とかオレンジとかそういう色で」
柏木ひなただ!

かつて、自宅からは遠い高校へ越境通学に悩んだときに相談したのは、同じような立場で高校に通い続けた柏木ひなただったと言う。
「この2人が仲良いって意外っしょ?」得意げにでへへと笑いながら紹介する茜空。
そして、そんな”人たらし”の笑顔を受けて、柏木ひなたが、エビ中のステージではあまり見せたことのないようなデレ顔を浮かべる。

ふたりで歌う『スターダストライト』の大団円感。
好きな曲のハモりに挑戦してみたい、という茜空のリクエストに、柏木ひなたが二つ返事で答えたとのこと。
ライブ全般を通して、ただただ幸せな瞬間をあげるとしたら、ステージ上でふたりがかわすハイタッチと見せかけた握手と、それともう一つ、ふたりともに歌詞を間違えて、お互いに「すまん」と笑いあう姿だったかもしれない。

ソロライブツアー告知をしながら、ゲストで出演することになった経緯や、歌う曲をどう決めたかという話が繰り広げられる。

茜空   「ひなちゃん、いま生誕ソロツアー絶賛開催中でして…」
柏木ひなた「告知してくれるんだ」
茜空   「福岡、名古屋、そして横浜!え〜私も行きたいな」
柏木ひなた「来なよ」
茜空   「最前行けます?お客さんいれず、客席は私だけ。ほかのみんなは…配信で!」
柏木ひなた「それはもうリハ見るってことなのよね」
茜空   「ソロライブの諸々を先輩に相談してまして、特にこのタイトル『生々流転』がどうかなあ、とか」
柏木ひなた「そうだね、よく連絡くれてたね」
茜空   「で、タイトル決まりまして、報告とお礼を兼ねて、ひなちゃんにLINEしたんです、そのときノリで『え?出ます?』と言ったら」
柏木ひなた「うん、いいよって、ノリで。そしたら、いつの間にかマネジャーさんから、いついつだったら空いてる?とか、いいですよ、みたいに」
茜空   「いつの間にか決まってて」
柏木ひなた「そりゃあ、いつでも私はレンタル可だから、呼んでください。あ、みんなにはレンタルできないよ(笑)」
茜空   「ひなちゃん来てくれるんだったら、ひなちゃんのソロ曲『Fantastic Baby Love』歌わせてもらおうかな、と初めは…で、練習し始めたんだけど、あの歌(キーが)たっけえの!」
柏木ひなた「うん、空の声でも無理なんだから、私もたっけえから無理なのよ。待望されているのは知っているんだけど、もう何年も歌ってない」
茜空   「で、ボイトレの先生に『諦めたら?』と言われたので、あっさりやめましたあ」
柏木ひなた「連絡もらって『あ、やめたんだ』と思ったよ」

等身大の茜空と柏木ひなた、いつまでも聞いていられる会話が耳に心地よい。
来年の今頃は、ふたりで日本酒を飲み交わしながら、となると、きっと終わらない話になるんだろうことは、想像に難くない。

I - myself

11. 帰れない!- 桜エビ〜ず
En.1 ボクエール/桜エビ〜ず

「サプライズゲストのひなちゃん、びっくりしたっしょ!びっくりした?」とイタズラっぽい表情を浮かべながら、本編もいよいよラスト。
「それでは聞いてください、『帰れない!』」と言う曲紹介から、すでにイントロを待ちきれずに、ぴょんぴょん飛び跳ねる茜空。

♪ 前途洋々、こんな時期はみんなそりゃいいこと言うけれど
帰れない!

冒頭の独特のブレスづかいと、ヤマモトショウの詞ならではの譜割りを、ひょひょいと軽やかに歌い切る。

♪ 青春延長戦 ていうか 永遠にOK
帰れない!

いつまでもそこにとどまっていたいという思いと、残酷に時間が過ぎるうちに変わっていかなきゃという思いも経験してきた痛み。
青春の残像をステージに残し、アイドル衣装を着て袖に引きさがるときに、頭の中をよぎったのはどちらだろう。

アンコールへの繋ぎとして、ふたたび映像がさしこまれる。
ライブが終わり、自宅に帰宅した茜空。
片付けもそこそこに、ベッドに飛び込んで、天井へ向いてスマホを正面から見据えて、画面をスクロールする。
ブログのコメントは様々だけれど、そこにファン一人一人の顔を思い浮かべながら、今日のブログを書き始める。

明転し、拍手にこたえて生誕グッズのTシャツを着て登場した茜空。
胸に刺繍された「リブレ」は、表情こそ変わらずとも、心なしか飼い主の動きに合わせて飛び跳ねているようにも見えて、ライブをここまで一緒に楽しんだ様子だ。

いくつかの報告がこの場でされる。
横浜の結婚式場で、モデルの個人仕事が決まったこと。
TikTokの個人チャネルを開設したこと。
早速に今日のお客さんとTikTokを撮って、それを1つめの投稿にするという。どこまでもファン本位、いつも何かを与えてくれる人だ。

ライブタイトルの「生々流転」は「変化」という意味合いに惹かれたからとも明かす。
外部環境の変化に合わせ、自分自身が変わっていくことへの怖れ、変わらないと進化しないということの焦り。
でも、18歳のこの1年は、思うに任せないことも多く、自分を責めてしまったこともあって、正直つらい一年だったとも涙ながらに語る。
得るものと失うものの足し引きで、大事ないくつかのものを失ったこと、それに向き合って変わらなきゃいけないこと、それが必ずしも自分がしたいことなのかどうかはわからないこと。

でも、VTRの通り、ライブに行けばファンの楽しそうな顔を見られたから、そして、いつもかわいいと言ってくれるファンがいるから、なんとかやってこれた、と。

だから大丈夫だよ、と、アンコール1曲めは『ボクエール』。

一番星みつけた こんな近くにあったよ
ボクエール

あたかも、自分が見つけたんだよ、と言うかのように、嬉しそうに客席を振り向いて、真っ直ぐに客席正面を指差す茜空。
でも、夕方に西の方角を見ると、一番星が光り始めるのは、いつも茜色の空の中だということ、本人は知っているかな?

「あいう…」に、いつかの「…わをん」を思う。

En.2 夢日和 - tipToe.

ソロライブの締めくくり、「大好きな曲です」と笑顔とともに始まった『夢日和』
tipToe.は、メンバーのグループ所属期間を最長3年までという制限を設けているグループだ。
茜空は、2016年から活動を開始した第1期メンバーと、その活動最終盤の2019年12月に対バンライブで出会っている。そのイベントで、グループ同士で交換したのが『茜』と言う曲だった。
冒頭のソロ、声を上ずらせながら大事に歌ったその日から1ヶ月が過ぎ、2020年1月、茜空は、第1期のラストライブにも訪れた。

このラストライブ、まだライブハウスでも声が出せる環境の中、ダブルアンコールで会場中が熱唱し、コールを力いっぱい叫んだのが『夢日和』だった。
いつだったか、tipToe.のファンが「誰もが幸せになれる曲だよ」と紹介してくれた曲を、ファンに対する今日最後のメッセージとして、力いっぱい、茜空は届けてくれた。

変化を続けていく先にあるもの、それはおそらく、いずれアイドルに終止符を打つということも含まれているだろう。
そのいつかの「…わをん」までたどり着いたとき、待っているものはなんだろう? そのときに初めて気づくことはなんだろう?

この歌のバックに映し出される映像は、エンドロールだった。
1番ではこの舞台を支えたすべてのスタッフが、曲に合わせてひとりひとり踊りながら、2番では事前に募集したファンの名前が流れ続けた。

「終わりがあるから美しい」

いつものライブよりも何秒何十秒も長く、深々とおじぎをした茜空が頭を上げたとき、その顔は、ぐしゃぐしゃに涙に濡れていた。
あえて無粋に勝手にそれを言葉にするなら、このライブをやり切った幸せと、緊張から解き放たれた安堵、そしてそれが終わってしまう寂しさ、だったんだろうか?
目の前に、数百人の観客やスタッフが、いや、今日ここにいない関わってくれた人までもが、ステージから風景がどこまでも広がっていたのかもしれない。
だから、それは幸福な涙に違いない。

でも何日か経って、ふと脳裏をよぎったのは、Zepp Tokyoで何かを終わらせることを決意したように見えたときの涙に濡れる姿だった。
過去はいつだって苦くて甘美だけれど、未来を見つめることは、何かを得て何かを終わらせていくこと。
変化をライブタイトル『生々流転』にこめた茜空は、この瞬間、別な何かが見えていたのかもしれない。

冒頭にあげた2020年10月、showroom配信の終盤。自らの涙を隠さず、まっすぐにカメラに向かって、剥き出しの自分をさらけ出すのは実は怖かったのだと茜空は言った。
アイドルとして、表現者として、そこにはいろいろな外野の声が投げ込まれるのだろう。優しい言葉の中、ときに刃となって襲いかかる言葉もあるのかもしれない。
昨年、高校卒業時のブログで、高校生活のことを、茜空はこう書いている。

あんまり高校の話はしてなかったけど楽しく過ごしてました!!!
高校に行っている時は芸能の仕事から少し離れて少しだけみんな同じ高校生を過ごせている気がして嬉しかったな
ukkaオフィシャルブログ「高校卒業、そして」2021年3月8日

アイドルの自分とはまた別に、大事にしていた学生生活の自分。
今日この場所で、あえて高校生としての自分自身をステージに出演させたことは、これまでは多くを語らなかった部分を出してみよう、という試みだったのかもしれない。

今日、この場にこうして立ってくれたことに、そして、精一杯のギフトを贈ってくれたことに最大限の感謝を。

あかねそら の いま

2022年3月13日、日曜日。
真っ青に澄み切った空と、昨日から引き継いだ陽気の中、渋谷O-EASTのステージで、茜空は飛び跳ねていた。
「昨年も誕生日の日に、ukkaはライブをさせてもらったんですけど…」
まだところどころに雪が残っていた氷点下の札幌から始まって、激動のまま過ぎ去って行った昨年の3月4月。まぶたを閉じると、「いま」の彼女には、あのときの風景に真っ先に何が浮かぶのだろうか?

冬来りなば、春遠からじ。
茜空はまた先を行く。

素敵な19歳の1年間を。

ありがとう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?