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治水機能、果たす農地に補償の仕組みを(流域治水④)

河川の増水時、治水機能を発揮するとされる「霞(かすみ)堤」。8月5日の高時川の氾濫で被害を受けた高月町馬上地域には、県が認識する霞堤がありました。同地域で約22ヘクタールの農園を運営する横田圭弘さんは約11ヘクタールが水に浸かりました。

 「人は助け合い、認め合い、尊重し合って生きていくもの。うちの農地が下流の人の命や財産を守る役割を担えたなら良かったし、その役割を追うことは理解できる」と横田さんは言います。一方で、「汗水流して耕作した作物が一瞬でだめになるのを目の当たりにすれば悔しいし、つらい。ただでさえ肥料や燃料高騰で経営は苦しい。浸水して支援がないとなれば農業経営は成り立たない」というのも本音です。

 特に横田さんが頭を抱えるのは、農家が加入する農業保険制度のうち収入保険制度の算定方法です。(詳細は農水省HP)
https://www.maff.go.jp/j/keiei/nogyohoken/syunyuhoken/syousai.html

 過去5年の平均収入を基準にして、被害に遭った年の収入が90%を下回ると下回った額の最大9割が補填(ほてん)される仕組みですが、横田さんは数年前の台風でも大きな被害を受けました。過去5年のうち毎年のように被災した場合は、基準となる平均収入が低くなるため、補填額の算定は厳しくなります。従業員を雇って運営する法人の経営は楽ではありません。

 横田さんは「僕らの農地にもし治水機能が期待されているなら、そもそものリスクが高いことになる。算定方法が他の地域と同じであるのは平等ではないと感じる」と話します。

 県が田畑に治水機能を期待しているなら、その機能を果たした時の補償はないのでしょうか。

 県流域治水政策室は「『霞堤』は県流域治水基本方針には記載があるが、流域治水条例への明記はなく、知見も深まっていない。治水機能を果たす農地があることは認識しているが、それにより下流への影響の検証はできていない」と言います。

 高時川の河川管理者は県です。対策はないのでしょうか。同政策室は「湖北圏域河川整備計画は2016年に策定しており、高時川上流は整備実施区間には位置づけられている。そのなかでも、霞堤の扱いは広域への影響を考慮する必要がある。測量やシミュレーションをしながら、慎重に進めているところ」。

 収入保険制度について、県農政課にも話を聞いてみると、「農業保険制度は全国一律の仕組みで、現状、県独自に別途助成することは困難であると考えている」とのこと。

 落胆していると、担当者が8月19日付の日本農業新聞の記事を見せてくれました。記事によると、農水省が自民党農林合同会議に23年度農林予算概算要求の重点事項を示した際、自民党側から収入保険について、毎年のように被災した場合に基準収入が低く計算され、補填額が減ってしまうとの課題提起がありました。農水省側は問題は認識しているとし、何らかの対応を検討する考えを示唆したとのことです。

県の担当者が見せてくれた記事


 水に浸かりやすい環境にもかかわらず、先祖代々の農地を守り続けている農家の努力が報われる仕組みになることを願っています。
(堀江昌史)
朝日新聞滋賀県版 10月3日掲載

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https://note.com/noubisya/n/n8118eea15520

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