見出し画像

『チ。―地球の運動について―』が面白すぎてどう言えばいいか分からない

「チ。」、読んだ…?

https://twitter.com/uotouoto/status/1314494430506754049?s=19

1~2話が無料公開らしい。3話はKindleで単話購入が可能(“魚豊”で検索かけたら出る)で、4話以降は10月12日時点では週刊ビッグコミックスピリッツ46号を買えば読める。

私は今4話を読んだ。これがもうすごい。1話から1週間に1話のペースでちょくちょく追いながら読むのと、1話から4話までを一気に読める今と、どっちが良いのか分からないけど、これ単行本でまとめて読めたらめちゃめちゃ面白いんだろうなというのは分かる。

なるべくネタバレしたくないが、語るにはネタバレせざるを得ないので、こんなnoteを読む前にチ。を読んできてくれというのが本心だしこんなnote読むなって感じだがもう面白いものを読んだ興奮が止まらんのでチ。の感想文を2話まで書く。

2話まで感想書くから3話と4話買って読んで

1話は冒頭の拷問シーンがえげつないので、本当に苦手な人は10ページ目まで薄目で読もう。私は爪の拷問への耐性が一切無いため、読み返す際はなるべくエグい箇所だけを薄目で読むようにしている。

1話の言及すべき点はまずここだ。

画像1

地動説というあまり普段から聞かない、見ない、読まないものをテーマにしているため、どうしても堅苦しさを感じるが、このコマの

 「もうなんかヤバいので祝福しよう。」

という台詞のおかげで「あ!!教科書に正しく則ってるタイプの漫画じゃない!!!!」となれる。私には学がないが、天動説唱えてる時代の偉い人がこんな適当な語彙で祝福しないことは何となく分かる。
「チ。」は地動説がテーマの漫画だが、天文学にまつわる教科書的な正しい知識を読者のみんなに教えてあげよう‼️というような教育漫画ではないことが明白となり、取っつきやすくなった。

次はここ。

画像2


今作の主人公であるラファウの信条と、その信条を掲げる理由の掘り下げだ。

「合理的な選択をすれば、この世は快適に過ごせる」
「合理的なものは、常に美しいのだ」

ここでの注目すべき点は、『快適に過ごすために合理的な選択をしている』だけで充分ラファウの人物像は伝わるのに、わざわざ『合理的なものは美しい』と彼の美的感覚を魅せているところだ。
快適さだけを求めるのなら“合理的”という概念に美も醜もない。合理的か否か、という判断基準にしかならない。なのに『美しい』と思うなら、間違いなく合理的という概念に惹かれていると言える。ラファウは効率や環境のために合理性を求めてるよりも、美的感覚として合理性が大きな指針となっているのだろう。

それを象徴するようなシーンがここだ。

画像3

「規則正しく決まって動く星に合理的な美しさがあると思ったが…蓋を開ければ複雑な計算とバラバラな星の集まり…」

ラファウは、『規則正しく』『決まって』動くものに合理的な美しさを感じていた。つまり、上手く、器用に生きるために合理的な生き方を選んでいるように見えていた彼だが、実際はその合理性に美しさを感じており、辞めるように言われた天文にさえも惹かれかけていた。

その惹かれかけた段階で、異端者であるフベルトに天文を続けるよう脅される。

画像4

「嘘を吐いて出てきたんだ まぁこれからもバレないようダマし続けるがな」

異端者は一度だけ改心が認められるが、ニ度目はない。即火炙りにされる。相手が子供とはいえ、ラファウに通報でもされれば一発アウトだ。それでも研究意欲を隠すことなく、ラファウの優れた目を研究に利用するため脅迫という手段に出る。

ラファウも彼の滅茶苦茶っぷりには苛立ちを感じており、帰ったら即通報だ!と意気込みながら帰宅する。しかし次ページではのこのこ観測地に赴きキャイキャイ言いながら星を観測している。

そして観測地でフベルトに宇宙が美しいかどうか問われ、一度ははぐらかすも二度目は真っ直ぐに答える。

画像5

この『美しい』という単語を軸にしながらフベルトとラファウの価値観的討論は続く。

画像6

この論理展開が凄まじい。片や研究がバレて逮捕、片や大学進学という名誉的な差はあるが、二人とも学術的に優れた人間である。その二人が『地動説と天動説のどちらが正しいか』ではなく、『どちらが美しいか』を軸にして宇宙の真理を語り合っている。天文に惹かれたこの二人は価値観のすり合わせをせずとも、合理的で規則的なものが美しいことを共通認識として互いに理解している。この漫画の良さを象徴しているシーンだ。

フベルトから地動説の論拠を聞き、一瞬顔が綻ぶがすぐに訂正する。

画像7

合理性に惹かれ、合理性を理由に天文を辞めようとした少年が、新たな合理的な理論を聞いても真っ当に批判する。批判の内容は論への批判と信仰への後ろめたさ、そして地動説を支持することの愚かさの指摘だ。
それらの真っ当な批判を受けてもフベルトは地動説を曲げない。

画像8

「かまわない。不正解は無意味を意味しない。」

滅茶苦茶な屁理屈だ。無意味を意味しないからと言って何がどうなるわけじゃない。でもこの言い分も間違いじゃない。この作者はなにかに夢中になった愚か者を描写するのが本当にうまい。

画像9

(散々惹かれといてこれ言う説得力皆無ラファウと人の話聞かないフベルト好き)


ラファウはフベルトと数日間観測を繰り返し、疑問を投げながら自身のモヤモヤを抱え続ける。そして突然観測の終わりを告げられ、『提案』として天文を続けることを推奨される。脅迫として始まったはずなのに、フベルトが提案をしてきた段階では既に脅しではなくラファウの意思に変化してきている。


そしてここからは普通に超展開なので絶対に本編を読んでない人間の前で語りたくないけど無料公開されてる2話の話なので語ります。

画像10

画像11


これはフベルトがラファウの身代わりになるシーンだ。

脅迫してまで天文学を続ける覚悟、執着がある男と、無理矢理付き合わされたと言い訳を用意しながら通報も逃亡もせず律儀に観測に付き合い理論を考え進めた少年の最後がこれだ、言い表せない感情になった。どう言えばいいんだろう。これ。


フベルトが改心したふりして外に出てきたのは研究を続けるためだ。「たった今やったこと」はラファウにペンダントを預けたことだ。そのペンダントにはフベルトが気に入っている場所が示されており、その場所にはフベルトが学んできた地動説の全てが置いてあった。

画像12


フベルトは地動説を研究するために外に出てきたのか?それとも誰かに任すため?それとも文面通り燃やすため?

ラファウが地動説を真正面から批判した数日後に、天文学を続けるよう提案し、異端扱いされかけたラファウを庇い、代わりに燃やされ、「全て燃やしてくれ」と書いた置き手紙と共に地動説の研究資料をラファウに渡したことだけが事実だ。

もし本気で地動説が証明できないと思うならラファウに天文を続けるよう提案しただろうか。私は地動説に命を懸けたフベルトが本心から地動説を否定してほしくない。と、どうしても思ってしまう。それに、ラファウに自分の全てを託すこともせず、ただ放棄する権利だけを与えたフベルトはズルいとも思う。提案として天文を勧めながら地動説の全てを燃やす権利も与えて、全てラファウに選択を任せている。フベルトはズルい。めちゃめちゃ魅力的だ。どうしてこんな魅力的なキャラクターを2話で燃やしたんですか魚豊先生・・・・・

画像13


一方でラファウはこちらの気持ちなど一切汲まず当たり前の顔をして火をつける。生まれてからずっと合理的な選択をし続けた素晴らしい理屈はこんな時にも曲がらなかった。

ただし、その理屈に『地動説を信じたい』という直感が勝ってしまい、せっかくつけた火を消してしまう。

画像14

クラスメートの前でも宣言してしまうし、

画像15

見下していたはずの非合理的な人間になることをサラッと決めてしまう。

ここで第2話終了。濃い。そして3話4話は更に濃い。
特に4話は「そんなことあっていいの!?!?!?」ってぐらい面白いので、絶対にどこかで感想を書きたい。

人の命は重いし、拷問は耐えられないぐらい痛そうなのに、そんな中で色んなものがガンガン削られていくから、残酷だけど美しくて熱がこもってて面白いんだと思う。
地動説がテーマって聞いた時は正直…そんなに期待してなかった…けども……。1話読んで期待しかなくなったし2話読んで期待越えてきたし3話4読んで一周回って期待終了した感すらある……どうあがいても面白いルートに突入した………


面白い漫画は評価されるべきだと思うので、私は「チ。」がこの調子で続く限り応援し続けます。

10月12日(月)発売の週刊ビッグコミックスピリッツ46号に掲載されている「チ。―地球の運動について―」の4話を読んでください。

この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?