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シマウマの島


その島は「シマウマの島」と呼ばれています。シマウマの島では、たくさんのシマウマが協力し合って暮らしています。一匹では難しいことでも、二匹いれば難しさは半分になり、四匹いれば難しさは四分の一になります。お互いに助け合うことで、それぞれの暮らしを少しずつ楽なものにしているのです。助け合うということは、支え合うということです。シマウマの島では「命の支え合い」をそこかしこで見ることができます。その光景は、手のひらにそっと閉じ込めておきたくなるような綺麗で輝かしいものです。
 
シマウマの主食は草です。シマウマの島には、たくさんの種類の草が大量に生えています。そのため、それぞれのシマウマが、それぞれに好きな種類の草を食べることができます。シマウマたちが草をめぐって争うことはありません。争うどころか、譲り合うのが当たり前になっています。シマウマの島が広いからこそ、それぞれのシマウマはのびのびと振る舞うことができるのです。もしもシマウマの島が狭かったら、あちこちで争いごとが起こってしまいます。ある程度の広さがなければ、お互いに譲り合うことはできません。島の広さと心の広さはつながっているのです。
 
なぜシマウマの身体がシマシマなのかというと「敵に見つかりにくくするため」です。身体がシマシマであれば、草むらに隠れやすくなります。もしもシマウマの身体がピンク色だったら、たちまちのうちに敵に見つかってしまいます。ただ、身体がピンク色だったらおいしくなさそうなので、敵に見つかっても食べられずに済むかもしれません。「敵にみつかりにくいけど、おいしそうな色」と「敵にみつかりやすいけど、おいしくなさそうな色」では、どちらの方が得なのでしょうか。シマウマに訊いてみたいところですが、残念なことに言葉が通じないので諦めるしかありません。人は人、ウマはウマです。
 
シマウマの鳴き声は、犬に似ています。シマウマは、他のウマのように「ヒヒーン」とは鳴かずに「ワンワン」と鳴きます。本当です。おそらく、シマウマはとても目立ちたがり屋なのでしょう。「オレは他のウマとは違うんだぞ」ということを鳴き声で示しているのです。でも、ワンワンと鳴いたら、犬と間違われてしまうかもしれません。その点については、シマウマはどのように思っているのでしょうか。「他のウマと一緒にされるぐらいならば、犬と間違われた方がマシだ」 と思っているのでしょうか。シマウマに訊いてみたいところですが、これまた言葉が通じないので諦めるしかありません。ウマはウマ、犬は犬です。
 
シマウマの島では、守らなければならないルールはありません。そもそもルールというのは「ルールがなければ、まともに暮らすことができない状況」においてのみ必要なものです。なので「ルールがなくても、のんびりと暮らしていける状況」においては、ルールは必要ありません。それぞれのシマウマがそれぞれの暮らしを尊重すれば、ルールなどいらないのです。しかしながら、ルールがないということは「一から十まで、全て自分だけで判断しなければならない」ということです。ルールがないということは、何をやっても良いということではありません。「何をやるかは自分で考えて、それをやったことで生じた責任は全て自分が引き受ける」という覚悟がなければ、自由を獲得することはできないのです。
 
そもそも自由というのは、「空中にポッカリと浮いていて、誰もが好き勝手に扱えるもの」ではありません。むしろその反対です。覚悟を持って地面を踏みしめた者にしか、自由は与えられないのです。シマウマたちは、そのことをよくわかっています。よくわかっているからこそ、慎重に慎重を重ねて行動するのです。人間のように、パッと頭に浮かんだことをサッと行動に移すようなことはしません。シマウマたちは、じっくりと考えてから、ゆっくりと行動に移します。シマウマたちの行動には、並々ならぬ覚悟が秘められているのです。
 


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