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押しかけ女房としてのドキンちゃん


ドキンちゃんを形容する言葉として「押しかけ女房」よりも適切なものはありません。押しかけ女房とは、相手の合意を得ずに、女性が一方的に男性の家に押しかける様子を形容した言葉です。日本の民話では「鶴の恩返し」などが該当します。ドキンちゃんは、何の前触れもなく、ばいきんまんが住むバイキン城にやってきました。ばいきんまんはさぞ驚いたことでしょう。ドッキリちゃんですね。

押しかけ女房(と呼ばれる行為)の原因や形態は様々であるため、十把一絡げにして考えることはできません。余談ですが、私は数年前まで、十把一絡げ(じっぱひとからげ)という言葉の意味を「十羽の鶏を使って、一個の唐揚げを作ること」だと思っていました。なので、この言葉を見聞きする度に「贅沢だなぁ」と感じ入っていたのです。いやはや頭がrooster.

諸賢の中には「どうしてドキンちゃんはしょくぱんまんの家に押しかけなかったのだろうか」という疑問を抱く方もおられるでしょう。もっともな疑問です。しょくぱんまんという完璧なパンの家に訪れるのではなく、ばいきんまんというバイキンなマンの家に訪れているのです。この2つの間には、天と地、パンと菌ほどの隔たりがあります。

これは推測ですが「しょくぱんまん様の家にすぐにでも行きたいけど、いきなり行って断られたら立つ瀬がない。デキン(出禁)ちゃんになってしまうこと請け合いである。それだけはなんとしてでも避けなければならない。ばいきんまんの家に行って心の準備をしてから、しょくぱんまん様の家に堂々と乗り込もう」と考えたのでしょう。完全にビビっていますね。

ですが、ドキンちゃんの行為は道理にかなっています。ばいきんに囲まれて生活をすれば、様々な耐性を獲得することができるのです。言わずもがなですが、様々な耐性の中には「恋への耐性」も含まれています。ドキンちゃんは、自身の恋を成就させるために、劣悪な環境にあえて身を置くことにしたのです。このストイックさを見習いたい。ドキンちゃんのしょくぱんまんへの恋心は本物ですね。

「結局のところ、ドキンちゃんの恋はどうなるの?」という疑問を抱いている人も多いでしょう。いかにもいかにも。その疑問にはすでに答えが出ています。「ドキンちゃんとしょくぱんまんは結婚するの?」という疑問に対して、作者のやなせたかし氏は「(結婚は)しません。所詮はパンと菌ですから」という辛辣な答えを出しています。とても残念なことですね。

しかしながら、全ての道が絶たれたわけではありません。「酵母菌としてパン生地の中へ入り込む」という手もあります。酵母菌をパン生地に練り込めば、発酵作用が起こります。この発酵作用は「愛の膨張」に他なりません。しょくぱんまんの内部に強引に入り込んで共生するのです。たとえるならば、シンを内部から支配しようと目論むシーモアのようなものです。問答無用で異界送りしましょう。

上記の作戦を成功させるためには、転菌届をどこかに提出して、酵母菌に生まれ変わらなければなりません。ドキンちゃんは面倒くさがりなので、ばいきんまんに手続きを頼むと思います。ばいきんまんは手下のかびるんるんに頼み込んで、かびるんるんは・・・という具合にキリがありません。大手が利ザヤを稼ぐために、下請業者に丸投げするのと同じですね。人間界も菌界も性質は変わらないのです。


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