生まれた瞬間から格の違いを見せつけるアンパンマン


アンパンマンが生まれた直後に「ぼくアンパンマンでちゅ」と名乗ったというエピソードはあまりにも有名です。この言葉には「他の有象無象のパンとは違い、生まれてすぐに言葉を話せるぼくって凄いでしょ」という主張と「ジャムおじさんが変な名前を付けないように自ら名乗っておこう」という牽制が含まれています。ジャムおじさんは何でも起用にこなすために「万能の天才」と一部の好事家からは言われているものの、ネーミングセンスはありません。なので、アンパンマンが自ら名乗らなければ「非常食」などの無慈悲な名前を付けていたでしょう。アンパンマンの最大の功績は、自らの名前を死守したことです。

また、アンパンマンは、生まれたときは丸裸ではありせんでした。生パン(なんかいやらしい)状態ではなかったのです。アンパンマンは、ベビー服と小さなマントを着用した状態で生まれました。 おそらく、生まれる直前までベビー用品の担当者と入念な打ち合わせを行っていたのでしょう。「国民的アニメの主人公であるこのぼくが誕生する瞬間にベビー服を身に着けていたら、どれほどの宣伝効果になるかわかるでちゅか?そこのところをよく考えてギャラを計算してくだちゃいね」という穏やかなネゴシエーションが行われたであろうことは想像に難くありません。さすがは頭の中が真っ黒なだけのことはありますね。ゲンキンマンと陰口を叩かれても気にしません。

アンパンマンといえば「我が物顔で滑空している姿」をイメージする人も多いでしょう。ビーデルのように孫悟飯から舞空術のレクチャーを受けずとも、アンパンマンは幼い頃から空を飛ぶことができたのです。ですが「空を飛べること」と「空を自由自在に飛び回れること」は違います。「英語を話せる=英語を使いこなせる」ではないのと同じです。アンパンマンは、高い飛行能力を有しながらも、自由自在に飛ぶことができない己の不甲斐なさを噛みしめていたのです。言うなれば、人生初の挫折ですね。人間も人面パンも、挫折こそが人生の滋味になるのです。

そんな悩めるアンパンマンに手を差し伸べたのがジャムおじさんです。おそらく、パンが焼き上がるまで手持ち無沙汰だったのでしょう。ジャムおじさんはアンパンマンに対して「自分の力だけではなく、風と仲良くするように飛ぶことが大事だ」という極めて抽象的なアドバイスをしています。彼が教習所の教官だったら、1日でクビになるでしょう。まぁクビになったとしても、彼にはパン工場があるので食うには困りませんけどね。持つべきものは工場であり、塗るべきものはジャムです。

アンパンマンは、ジャムおじさんのアドバイスを上手く消化して、自由自在に飛べるようになりました。まぁ彼のポテンシャルがあれば、ジャムおじさんのアドバイスがなかったとしても、自力でなんとかしていたでしょう。アンパンマンが自由自在に飛び回る姿をほくほく顔で見ながら「わしのアドバイスのおかけじゃ」と悦に入っているジャムおじさんに対して、アンパンマンは何も言いません。ジャムおじさんの笑顔こそがアンパンマンの生命の源なのです。



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