悪魔由来の化粧品


「悪魔由来の成分を含んだ化粧品を肌に塗ると、みるみるうちに肌が爛れ落ちるらしい」
私が小さい頃、こんな噂があった。大人になった今の私は「そんな馬鹿なことがあるわけない」と一笑に付すことができる。だが、子供の頃の私には、そのように簡単に処理することはできなかった。紛れもない恐怖だったのである。「人生を縛る縄」は無数に存在するが、私にとっては、この噂は紛れもなくそれに属していた。

そもそもの話、悪魔のビジュアルとメイクは親和性が非常に高い。悪魔の顔といえば、アイシャドウを塗りたくったような目元や、ルージュをふんだんに使ったような口元を想起する人は多いだろう。悪魔の顔のパブリックイメージが「フルメイク顔」なのである。ただ、悪魔にしても、いついかなる時もメイクをバッチリと施しているわけではないだろう。仲間達と共に過ごしている時などは、ノーメイクに違いない。もちろん、眉毛なんて描かない。眉毛のない悪魔の顔の恐ろしさよ。

おそらく悪魔は、人間と相対するときにだけメイクをするのだろう。それも渾身の気合を込めて、ガッツリとメイクを施すのだろう。悪魔にとって、人間というのは文字通り「異形の存在」である。自分とは明らかに異なる存在と差し向かう際、「まるっきりの丸腰の状態」を選択する人はあまりいないだろう。多くの場合、その相手との間に「緩衝材」を設けるはずである。悪魔にとってのメイクは、人間に対する緩衝材に他ならない。メイクというワンクッションを間に挟むことによって、その後の展開をスムーズなものにしようと目論んでいるのである。なかなかやるじゃないか悪魔め。

よく、メイクをすることや化粧を施すことを「化ける」と表現するが、私にはどうもしっくりこない。しっくりこない理由はわからないのだが、私の心が「その表現方法はどうも違うのではないだろうか」と穏やかに拒絶しているのだ。「だったらお前はどういう表現方法を用いるのだ」と言われると困るのだが、あえて私なりの表現をするのであれば、化けるという言葉よりも「パテる」という言葉を選ぶだろう。その理由を今から説明するので慌てなさんな。

パテるというのは「パテを塗る」という意味である。パテというのは、傷やひび割れを補修する際に使う材料である。木材の木目を消して、滑らかな面を作ることに適している。また、パテには可使時間というものがあるので、手早く塗らなければ綺麗に仕上がらない。うまく塗ることができれば、パテを研ぐのも楽になるし、なによりも時間の節約になる。まさにメイクそのものではないか。パテを塗るという行為の中には、メイクに関する諸要素がふんだんに詰まっているのである。


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