『闇の仕事人』
『闇の仕事人』【超短編小説 073】
「スーッ、スーッ、トン」
「ゴリッ、ゴリッ、ボキッ」
「グツグツッ、グツグツッ」
「ギュイーン、ギュイーン」
「ペチャ、ペチャ」
「早くしろ、そろそろ時間だ」
俺たちは闇の世界で生きる家族だ。
依頼があれば、どんなものでも解体して跡形も無くこの世から消すことができる。
俺たち家族は家族だが、お互いの素性は知らない。役割に因んだあだ名があるだけ。
肉切りの「スー」
骨折りの「ゴリ」
煮込みの「グツ」
肉挽きの「ギュイン」
団子作りの「ペチャ」
俺たちはただ、それぞれの仕事をこなしていくだけ。それが何なのか、何でこんな事になったのか、などは考えない。
いちいち考えていたら、仕事は出来ない。悲しむわけでもない、楽しむわけでもない、苦しむわけでもない。淡々と作業を進める。
「時間だ」
それぞれの道具を片付けて、大きなバッグにしまう。何の痕跡も残さないように後片付けをして、重くなった二つの一斗缶を持って外に出る。
外に止まっている黒のワンボックスに一斗缶を積んで、運転席の男から今回の報酬を受け取る。
封筒に入った報酬を無造作にカバンに投げ込んで、パーキングメーターに向かう。メーターの表示は「59分」を表していた。
「今回も間に合った。みんなご苦労様」
ヘルメットをかぶる、同時に家族は消える。次の仕事まで奴らは、俺の頭からは出てこない。
カバンを背負いバイクに乗ってエンジンをかける。ヴィンテージならではの排気ガスの匂いが、仕事中に体に付いた臭いを消してくれた。
視力に色が戻ってくる。あまりの明るさに嫌気がさす。はやく闇の中に戻りたい。俺は団子虫のように背を丸めてアクセルを踏んだ。
流れる景色と伸びるネオンの光。遮断された喧騒。狭まる視野。バイクを走らせているとまるでタイムマシンで過去に戻っているようだ。過去に戻ってまた同じ1日を繰り返す。なにも変わらない日々。
パーキングメーターにバイクを停めて、次の仕事場に向かう。俺の家族たちがアクビをしながらゾロゾロと現れる。
「さぁ仕事の始まりだ」
《最後まで読んで下さり有難うございます。》
僕の行動原理はネガティブなものが多く、だからアウトプットする物も暗いものが多いいです。それでも「いいね」やコメントを頂けるだけで幸せです。力になります。本当に有難うございます。