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日本の医療システム、ご存じでしょか!と「医療崩壊」ってもう起こってると思うという話(医者の立場から)と「医者の働き方『改悪』について」その2。


続きモノです。
前回はこちら↓


〇よく言われる「医学部定員増やしたじゃん」問題について

定員が増えても「医者」増えてないと思います。体感的というか・・・実感として。理由はめちゃくちゃたくさんあります。

理由1:そもそも管轄が違う話。
医学部とかの「大学」の管轄は「文部科学省」であることに対して、「医師国家試験」とか「医師」を管轄しているのは「厚生労働省」であること。
管轄が違うんですよね。違う官僚の人たちが担当していることがまず一つ問題点として挙げられます。医学部定員増やしても、医者になれる国家試験の定員人数は違うし・・・。

裏口入学とか、あっても多分国家試験に合格できないからお金しぼるだけ絞られて落ちると思う。


理由2:「国家試験」の定員問題 よく90%合格率(笑)とか言われる奴
基本いまの時代、各大学も「医師国家試験合格率」を100%にしたく躍起になってます。なんでかって言うと・・・合格率が悪いと(確かうろ覚えでソースはあいまいですけど・・・)国からの「補助金」がカットされる可能性があるかもしれないっぽいからです。だからどこの大学も必死に進級きつくしたり6年生の時に「卒業試験」やったりするんですよね。卒試突破組は大学側から「コイツならまあ国家試験受かるだろうな」と太鼓判をおされた存在みたいなものです。そういった現役勢と、国家試験浪人組(国浪組)が毎年合わせて・・・1万人とちょっと受けていたと思います。

★医師国家試験は「絶対評価」じゃなくって、「相対評価」です。

1万人ちょっと受ける受験人口に対して・・・合格となるパイの数は9千人ちょっとしかありません。パイの奪い合いになるわけですよ。各大学から「コイツは大丈夫」って太鼓判押された連中がこぞってパイを奪い合うわけです。そうなれば・・・、熾烈な争いになるんですよね。そして1万人ちょいの受験層に対して合格数が9千人ちょいだったらそりゃあ「合格率90%」になりますよね。そういう「ロジック」があるため、合格率が「一見」高くなるのです。めちゃんこ難しい試験なんですよ・・・。そしてさらに問題になっているのは、例年拍車をかけるように「合格点」が増加する事。医師国家試験というものは、「必修」と「一般臨床(通称パンリン)」の二つの問題に分けることができます。必修問題は、8割以上正答しなければ問答無用で「落ちます」。絶対評価の部分になりますね。年によって難易度はばらけてるっぽくて、「必修落ち」ってワードがよく聞く年とかもあるっぽいです。
問題は「パンリン」の方で。相対評価になるため、合格ラインは年々増加の一途をたどっていて。多くの学生が勉強する教材の質が向上したのもあり、年々合格最低点が上昇する異常状態となっています。基本落ちるとすれば、「パンリン落ち」が多いのでないかなあって思います。
※よく「禁忌」踏むと落ちるよって話は割と一般の方でも浸透してたりしますよね。こういった「禁忌肢」は必修とかパンリンに関係なく地雷のようにちりばめられてて、数問選ぶと「落ち」ます。只・・・「禁忌落ち」って殆どいないって聞いたことがあるような・・・気がします。

閑話:夏は特に、白衣は着ないっす。スクラブでOK。暑いし、裾がジャマ・・・。ジャケットタイプの白衣はイキってる感じがするって評判悪いし・・・。悩みどころ!


★理由3:まずそもそも医師免許取ってから医師ガッツリやらない人が増加してる
医者として国家試験通った直後は、割と「制限」されてるんですよね。2年間の「初期研修」を終えることでその「縛り」が解除されます。大体ほとんどの人は初期研修終わらせますね。そこからいわゆる「ベンチャー系」の企業をしたり、他職種の職業に就く人が昔に比べると増えてるよなーって感じですね。
「医師免許」って応用が利くもんで、他職種でもいろいろと使い道があったりするんですよね、あとハクがある。だからまず「医者」として「医療に従事しない」人も出てきているよってのもあります。

親友がキーエンス上がりで転職しましたが、転職先の社長は医師免許持ってるみたいでした。ベンチャー。


★理由4:自由診療へ流れる(これがガチで問題)
日本って「2025年問題」というものがあります。いわゆる「団塊世代」の人たちが後期高齢者に一斉に突入する・・・という問題なのです。これを境に一気に医療の需要はさらに上昇するだろうと考えられており、現状のリソースと人員でカバーできるの?って危惧されている問題なのです。
それに加え・・・「診療報酬」が激減しています。「診療報酬」を簡単に言うと・・・「治療のお代」のことです。基本的に国民皆保険制度によって我々が負担する治療費は「3割」がデフォルトですよね。だからそれに合わせて「レセプト」というものを国に提出して残った7割の額を国のお金から病院はいただくわけです。ちなみに「勤務医」は沢山の患者を診たからと言って「歩合制」のように給料がマシマシになったりすることはありません・・・。そして「診療報酬」が国から減額されてしまうと、「病院」の経営が悪化します。今って「でかめ」の病院殆ど赤字だと思うんですよね。だからこそ?固定給が少ない・・・わけで。その割にドブラックな労働環境であるがゆえに、時給換算でコンビニアルバイト以下になっちゃったり病んでしまったり過労死だったり自殺が度々起こるわけです。そういった事が常態化している現代医療において、待ち望まれていた2024年度からの「医師の働き方改革」が結局「名ばかり」であるどころか「改悪」であったことも踏まえ、若手医師(研修上がり)のドクターがいわゆる保険がきかない美容診療や植毛などのAGA医療に3年目から流れることが「急増」しています。また・・・中堅~上級医も「もうある程度スキルあるし家族養ってくためにも」医局を退局して、訪問診療や慢性期病院の常勤医や「自由診療」に流れて行ったりしています。この人材の流出、年々加速していっているような気がします。
だって・・・中年くらいになって・・・熟して一人前だねって状況で激務である日突然死んだら・・・家族も路頭に迷いますし・・・仕方のない事なのかなあって思うのです。

過労死。問題だと思います。あとはバーンアウトとか・・・鬱。結構医療従事者、多いですよ。医者も含めて。世話になったドクターがうつ病なって休職になったりすると、ちょっと悲しいなって思うのです。世話になってあんなにいい先生がまさか・・・と思いつつ、他人ごとじゃないなって。


だから・・・医者の定員数を増やそうとしても、出てく人の方が多ければ減りますよね・・・。
つまりそういう事なのです。この問題は最もやばくて・・・国も危惧している様子がありますね。でも締め付けるにもそこまでもう締め付けると「人権侵害」では?と思うレベルで・・・。「見合う給料」とか「見合う待遇」「守ってくれる環境」があれば普通に残ると思うんですけど・・・なかなかそうは上手くいかないですよね・・・ってのが実情なんだろうと思います。


〇後医は名医?と司法

これはマジで問題だと思っていることなのです。医療クラスタをフォローしているアカウントでXを見ていると日々「訴訟」で敗訴した話を聞きますね。

「どうなのよ?」って思う気がします。

以前にも別記事で書いたかもしれませんが・・・「後医は名医」ということわざがあります。ファーストタッチ(初療)で見たドクターよりも後から見たドクターの方が正確に診断だったり治療方法を決められる、といったちょっと蔑称というか・・・「そりゃそうだよね」って言う意味合いが込められた言葉です。
その通りなんですよ。患者さんはいわゆる「症状」を訴えて病院に来ます。救急搬送でも同様です。頭痛・腹痛・胸痛・背部痛・痺れ・失神・めまい、切創・外傷等・・・。その「症状」から問診や身体診察、血液検査(L/D)や画像検査(Xp、CT、場合によってはMRI←殆どしないというかやりたくないが・・・)などを医師が「必要だな」って思った項目をチョイスして調べて「~~~疾患」の疑いをつけるのです。実際患者さんのおでこに「私の病気は~~です。」って表示されることはない。つまり探りにいかないといけないわけです。頭の中でフローチャート動かしながら・・・疾患を狙うんですよね。そして例えば夜間の救急外来であれば・・・、限られた人員リソースしかありません。当直医1人+夜勤救外看護師2人とかしかいなかったり、夜間に血液検査の結果が出なかったり出たとしても出ない項目があったり。画像においても夜間であれば読影レポートは出ないでしょう。夜間のMRIは撮像できない場合もあるかもしれない。そして何より医師の当直の疲弊具合であったり、3列並列で患者を見ていたり等・・・その時の「現場の状況」は分かりません。ひっきりなしにやってくる救急車、救急車が外で待機列さえ作っている状況で・・・多くは一人の医師で、多くても数人でさばく。そんな状況で・・・「正常な判断をしうることができるか?」と言えば・・・「分かりません」。只言えるのは「To err is human.」であって、人は必ず「間違える」という事です。ましてやギリギリのリソースでギリギリの体力で回してるときはよりそのリスクが高まるでしょう。当直中・当直明けならなおさらです。
そしていざ結果が出たとき、「あの時ああしていれば」「あの時こうしていれば」「もっと良い治療になったはずだ、もっといい結果になったはずだ」その状況では出ていなかった採血検査の項目だったり、読影レポートを読んで「言う」わけです。

当たり前ですが、患者さんに対して「傷つけてやろう」なんて思う医者はいません。その現場でその状況での「最善」を考えて治療にあたっています。
その現場の限られた情報での「最善」を尽くしたが結果が思わしくない結果になった・・・時に、外野側が後になって分かった情報も含めて「あの時~~」とするのは、後出しじゃんけんだよね?って話で。それは我々も「ふとやってしまいがち」なのですが、「司法」が「結果のみをみて判断」し医療従事者側に「非」があるとして賠償命令を出す判例がコロナ禍以降急増している気がします。コロナによって作られた医療に対する不信感(ほんとにある?)のせいなのかもしれませんが・・・。
確かに「命」が失われたり、「重篤な障害が残る」ことは可能な限り避けたいことではあります。しかし医療のリソースが限られている中・・・、絶対に100%助けることは「できない」と思わなければならないと思うのですが・・・。

「100%助けられ、障害すら残らずきれいさっぱり元通りになる」という事が当たり前だ、と司法は誤認し「そういう望まれた結果」に行きつかなかったら医療従事者に非がある、という風な安直な判決をしているイメージがどうしても最近ぬぐい切れません。前記事にも書いたように・・・医師は当直だのなんだので32時間以上連続勤務等を日常茶飯事に行っています。そういう連続勤務で免許持ってるだけの医師という人間は「ミス」しないでしょうか・・・?

これであれば、もう「~~という症状の患者は当院では診ない」といった方針になってもおかしくないですよね。あとはそういう「救急対応」がない病院に医師が流れる。あるいは急性期病院からよけい離脱が進んでしまう。
益々医師の病院離れが加速していくと思います。思いますというか進んでいるとは思うんですがね・・・。必死になって頑張っている現場のドクターに対して「司法」でさえ不条理な判断を下すのだとすれば・・・医師はこれからも減っていくと思います。そして隠し切れなくなった医療崩壊がやってくるのだと思います。

そういった状況が、近いうちにやってくるのではないかと思うのです。

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