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互酬文化

地域おこし協力隊として福井県南越前町にやってきて1年と半分ほど過ぎた。住んでいる地域は山間の土地で、やって来た人間にみんな優しい。

そういう田舎で欠かせないものが互酬文化だ。
モノをもらう。お返しする。そういった貸し借りのやり取り。
作った作物が多く取れれば、おすそ分けする。
誰かが家を訪ねてくれば、お土産を渡す。
もらったものがあったら、自分の持てるモノでお返しする。

私自身、ここに住んでから数えきれないくらい農作物を頂いてきた。この互酬文化の中では固辞し続けて、貰わないという選択肢は無い。「有り難く貰ってお返しする」が正解なのである。一人では食べきれないほどの量をくださるので、協力隊の中で分け合ったりしながらやってきた。そんな私も、最近では出荷できない廃棄野菜をもらいに行くくらいに図々しくなった。
ただ、一方的にもらい続ける関係というのは、互酬文化に反する。そのうち、地域の中で「あいつは貰うばっかりで…」と見られたかが変わって来る。しかし、よそからやって来た私におすそ分けできるほどの農作物もなく、実家に帰った際にお菓子など買って帰ったりしていた。互酬文化の中では貰ったモノに対して等価のお返しをしない。多めかちょっと少ないのが普通。その結果、またお互いにお返しを続ける。
言葉にすると、「面倒」と思われるかもしれない。都市部での個人で完結する暮らしの中では必要のないモノだ。
しかし、田舎での暮らしというのは個人では完結しない。何かにつけて協力していかないとやっていけない、それをみんなが知っているから関係が密になってくる。
普段からやり取りをしているから、「もしも」のときに「助けて」と言いやすくなる。困りごとを相談しやすくなる。互酬文化とは、そういうセーフティーネットのようなものだと思う。

私もその文化の中に入り込み、最近はそのお返しの方法を変えてみた。頂いた作物を「加工してお返しする」という方法だ。
キュウリをたくさんいただいたら、和え物にしておすそ分け。
さつまいもをたくさんいただいたら、スイートポテトにしておすそ分け。

料理上手な人間ではないので、大したものは作れないが、いつも同じような食べ方しかしていないおじいちゃんおばあちゃんには、「ちょっと変わったもの」に映るらしい。
もしかしたら「美味しかった!」はお世辞かもしれない。本当は口に合わなかったのかもしれない。けれど、それは出さずに、またもやお返しがやって来る。

この方法に変えてから、購入したお菓子を返していたころとは違う心の近さを感じるようになった。 「おいしかった」の後にレシピを聞かれたり、一緒にお菓子を作ったりするなど、地域の方との距離感が近くなった。横のつながりが強くなることで、集落内での分からないこと、困ったことに「どうしたらいい?」「助けて」と言いやすくなったように思う。

人に迷惑をかけず、自分でできることはやるのが当たり前。ただ、どうしようにもなくなったときに「助けて」と言えるネットワークがあるというのは、暮らしていく中での心の持ちようが違う。
その濃い人間関係が嫌になる人もいるかもしれない。けれど、私は悪くないと感じている。だからここにいれるんだろうな。

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