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『旅の空』ネパールの旅 憧憬のヒマラヤの向こうに 3

 カトマンズへ ~スタパさんとの別れーある日本人との出会い~

 翌朝のホテルの朝食は、思いのほか美味しいものだった。気をよくした スタパさんとぼくは、いよいよ新たな旅立ちのために、ドンムアン空港へと向かう。しかし、飛行機に搭乗するまでの2時間ほどを、ぼくはスタパさんのために走り回るハメになるのだ。

 まずそれは、ばかデカい荷物を受け取るところから始まった。ぼくの荷物は40Lのザック一つだけだ。他には何もない。スタパさんだって旅行用のスーツケースを持っていたから、「預けた荷物を受け取りに行くから手伝ってくれない?」と言われたときには不思議に思ったものだ。実際受け取りカウンターから運び出されたブツをみて、ぼくはしばし呆然とした。いったいこの人は何を運ぼうというのだ!? 普通の旅行用スーツケースの、実に10倍はある。その巨大なトランクは、さながら『舌切りすずめ』の大つづらっていう感じの装いなのだ。しかし、このおばさんタダ者ではない。その中には、インドの貧しい子どもたちへ贈る古着がぎっしりと詰め込まれていたのだ。だから、その「巨大つづら」を運ばされたって、スタパさんの所持金両替のために走り回ったって、全然苦じゃなかったのだ(昨日おごってもらったし)。いよいよ搭乗というときに、ぼくたちは、互いの旅の幸運を祈って、握手をして別れた。

 関空からバンコクまでの飛行機は、国際線とは言ってもやはり日本人が多い。実際、そのときにぼくの隣に座っていたのは、タイの観光地プーケットへ遊びに行く新婚夫婦だった。その夫婦には、「じゃあミャンマー楽しんできてね。」なんて言われたりして(ネパールだっつうの)。

 搭乗口前の待合いで荷物を下ろすと、そこには同じく一人旅の日本人がいた。ぼくらは目礼し、ちょっとだけ距離を置いて座る。ぼくはいつも旅先でいろいろな人と話をするのだが、その時は「同じ日本人だから」という理由で話しかけるのがなんだかためらわれて、離れて座ったりしたのだ。

 しかし、いよいよ搭乗時刻が迫ってくると、ぼくらは自然と言葉を交わしていた。彼は京都からきている大学院生で、ネパールは2回目だという。互いの旅の期間は1ヶ月くらいと、ほぼ一致していた。彼はカトマンズ周辺の田舎を歩き、ぼくはヒマラヤを歩く。これから始まるネパールの旅に思いを馳せながら、互いの名前さえ聞かず、それぞれの旅に向けてぼくらは歩き始めた。

 バンコクからカトマンズへ飛ぶこの飛行機は、正真正銘「国際線」だ。英語のアナウンスのあとに日本語が流れたりしない(ドキドキ)。ネパール上空にさしかかると、あのヒマラヤ山脈が窓の向こう遠くに見えてくる。乗客がみな山に見とれる。いよいよ旅が本編に入ってきた。

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