見出し画像

旅して育むということ

うちは4歳長男も2歳次男も、今のところひとつも習い事をしていない。
お友達がバレエやスイミング、語学教室に通っていると聞くと、楽しそうだなあ、行ってみようかなあとも思ったりするけれど、その時間とお金があるなら今は1回でも多く旅行に行きたいと思っている。

旅育と言う言葉を知った。
旅行業界のプロモーションから生まれた言葉なのだろうと思っているけれど、わたしはこの言葉が気に入っている。
「可愛い子には旅をさせろ」なんて言ったって、一瞬だって目を離したら危ない時代、子供を1人で旅になんて行かせられない。
旅をするには時間もお金も体力もいる。
でも、旅が人の価値観を変えると言うのは本当だと思う。

わたしは21歳のとき、初めて1人で海外に行った。
行き先はイギリスのロンドン。学生ビザで1年間ちょっとの計画だった。
理由はいろいろあったけれど、当時働いていたデザイン事務所での大仕事がひと段落したとき、わたしはまだ20歳。いったん今の場所を離れて知らない世界に行ってみたいと思った。
外国語はどれもチンプンカンプンで、英語も「ジス イズ ア ペン」レベルだったものの、英語なら中高6年間は習ってきたわけだし何とかなるかな、と行き先を決めた。

はじめの数ヶ月は英語が分からない中での家探しやアルバイト探し、環境の変化で気持ちの落ち着かない日々を送っていた。
4ヶ月ほど経った頃かな、英語にも慣れてきて、体型も日本を出発した時+5キロくらいになって心身ともにロンドンに馴染んできた。
(口に合う食べ物はないのに、数ヶ月でここまで太るなんて!)
やっと「訪れている」ではなく「住んでいる」という感覚が出てきた。

落ち着いて、ロンドンで「暮らし」はじめてみると、将来どうしていこう、とか、お金はどうしよう、とか、それまでバタバタしていてすっかり忘れていたことを考え始める。
アルバイト先で出会った日本人の女の子とユニットを組んで、ストリートでのダンスパフォーマンスを始めた。
応援してくれる人も増え、自分たちも手応えを感じていたので、一時帰国を挟んでイギリス滞在を延長した。
イギリスで日本人が活動するには、兎にも角にもビザが必要。
わたしたちの活動をビジネスにしようと手助けしてくれる大人たちが奔走してくれたけれど、残念ながらそれ以上のビザは取れなかった。
わたしは本帰国することになった。
2年前に一口食べてもう無理、と捨てたカップ麺を、「この味なかなかイケるよ」と人に勧められるほどになっていた頃だった。

このイギリス滞在はわたしの人生で今のところ一番大きな「旅」。
これをやって、これを「学んだ」と胸を張って言えるようなことは何もしていなかったと思う。
それでもわたしはこの旅で自分の世界が広がったと感じたし、いろんな価値観を、いろんな自分を受け入れられるようになった。
これまで普通だと思っていたことは普通じゃなかった。日本とは違う文化、違う食生活、違う言語、人との関わり方。
ロンドンにいる間、2、3ヶ月に一度は近くの国へも旅行した。
同じヨーロッパでも国によってこんなに違うんだ、と思うこともあったし、意外と違うのは言葉だけで日本と変わらないな、と思うこともあった。
新しい場所に行くたびに、まず、切符の買い方が分からない。そもそも切符があるのかも分からない。人に聞こうと声をかける前に教えてくれる人がいる国もあれば、その国の言葉で話しかけないと応じてもらえないような雰囲気のところもある。常識が常識じゃなかった。
英語は元々勉強していなかったのと、現地でも特に意識して勉強しなかったせいで最後まであまり上達しなかったけれど、生活に支障はなかったし、言いたいことをどうにかして伝えるのが上手になった。
10年以上経った今も、あの時行って良かったと思うし、だからこそ子どもたちにもいろんな場所に行っていろんなものを見て、いろんな人に会って欲しいと思う。

旅をして、育つのは大人も子供も同じ。
「息抜きに温泉旅館へ行く」だけのつもりでも、出発前までに予約をして、荷造りをして、乗り換えを調べ、必要ならチケットを取る。
どんなに綿密に予定を立てても、実際、計画通りになんていかない。
人間だから体調だって崩すし、天候や事故など予期せぬトラブルも多い。
(旅行前日になって子供が熱を出したりして、キャンセルの連絡を入れるときの複雑で悔しい気持ちと言ったら!)
普段の暮らしは毎日ルーティーンをこなすだけでいっぱいいっぱいで、本当はもっと子供にこうしてあげたい、でもできない、の連続。
ダメって言わないとか、目を見て話すとか、いつもはできないけれど、旅行中だけだったらやってみようかなって気にもなる。
それでもし、旅行が終わってからもいい循環ができたらならラッキー。
旅行中だからって予定外のことが起きても余裕を持って受け入れられるような広い心はわたしにはまだないので、無事に行って帰ってこれたらそれで上出来。

こんなこと書いたって正直、子供に賢くなって欲しいと思って温泉旅館に行ってはいないし、水泳が上手になって欲しいと思いながらビーチでトロピカルドリンクを飲んだりはしないけれど。
子供が小さいと、旅行に行くだけで体力も気力も精神力も使い果たすくらいのパワーがいる。
のんびりしたいな、遊びたいな、って気持ちだけでは遂行できないことも多い。
トラブルや疲れで旅がめちゃくちゃになって、お金と時間と体力をドブに捨てたなって時もあるのよ、だからそういう時の言い訳として思う。
わたしは「旅」で、子どもたちと、自分と、家族を育くんでいるんだ、って。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?