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厄介なオタクになってしまった自覚が芽生えた推し卒業の武道館

曲はきっと聴き続けるけど、現地にはもう行けないだろうなと。曲を聴くことは簡単でも、この感情が生まれた以上は現地に行くことは残った推しに対してもグループに対しても失礼だと思った。




人気アイドルグループの話をするので、かなりの方が誰が誰か分かると思いますが、配慮の意味を込めて、卒業した推しを青子、その推しと同じくらい推している推しを赤子と呼びます。



先日、応援していたアイドルグループの推し、青子が武道館で卒業した。現地で推しが卒業する瞬間を大泣きしながら見ていた。

青子は正直歌が得意でないし、口が悪いし、清潔やら清純からイメージが離れすぎているし、アイドルらしいアイドルでは無かった。けれど、ファンにとってはあまりにも魅力的で素敵なアイドルだった。

アンコール前の曲が全て終わって、武道館の真ん中に立った青子が、みんなに手紙を書いてきました、暗記できないから手紙にしました、と手紙を読み始め、そうして語る言葉の全てがあまりにも青子らしくて、私はずっと泣いていた。


私はアイドルを本格的に好きになってまだ日が浅い。現地参戦を意気込んでいたところに、コロナが流行しだし、実際生でライブを見たのは今回がはじめてだった。

推しグループが強みとしていたのは、自分たちの生き様を見せることであり、それ故に私はリアルでライブを観ることを物凄く楽しみにしていた。耳で聴くだけの歌でもこんなに力強い歌を、生で聴くことが出来たらどんなに凄いのだろう、きっと圧倒されるのだろうな、と些か過度な期待をしてライブに挑んだが、その期待すらも確かに上回っていた。

好きになった時期のメンバーから二人抜け、二人新しいメンバーの入ったグループは、ぶれない歌唱力を持つひとりと、ダンスの表現力の凄まじいひとりと、アイドルグループとして強みは確実に得ていた。

実際、新メンバーたちを目の当たりにし、凄いな、グループが強化されたな、と感じたが、

引っかかってしまった。前いたメンバーのいないステージが。新メンバーが歌う旧メンバーのパートが。前のメンバーのうたう歌を生で聞いたことも無いくせに。

旧メンバーの欠けた要素を完璧に補ってみせた新メンバーを、違う!貴方じゃない!と、受け付けられない自分の心があった。


新メンバーは、可愛くて、技術も高くて、努力していただろうし、一ファンとして、歓迎しようと思っていた。それが出来なくても、卒業した推しと同じくらい応援している推し、赤子を応援するべく、前のメンバーのいたグループと今のグループを別物として応援すれば良い、と思っていた。

無理だった。辞めたメンバーがいなかろうと、青子がいなくなろうと、グループの歌として音楽は歌われ続ける。それでも、いやそれだからか、変化していくメンバーがその歌を歌うことが耐えられなかった。

今日青子が歌っていたあのパートは、オーディションに合格して加入する、きっと歌が上手くてきっと表現力の高い新メンバーが歌うのだろうな、と思うと、吐きそうだった。


単純に応援していく未来を描けなかった自分が憎い。悔しい。


赤子と青子は、おそらくメンバーの中でも交流の深い2人組であったが、そんな赤子は、青子がいなくなって初期メンバーが3人になってしまった舞台で、このグループにできるだけできるだけ長くいたい、頑張ります、これからも応援よろしくお願いします、とはっきりと語った。赤子は、ひとりのアイドルとして、ブレない輝きを放っていた。

これからもグループの一員として努力し続ける赤子を応援することが二人を推していた私にとって当たり前のことであるはずなのに、あまりにも赤子が実直でひたむきで、私が赤子を真っ直ぐ見れなくなってしまった。


彼女たちは、誰かひとりでも欠けたらグループとして成り立たない、なんて美しい言葉を吐けるアイドルでは無い。何人も辞めて、何人も新しく加入した。安定している時期なんて一瞬だった。

けれどグループなんてそんなもので、推しグループは、そんな脆さすらも歌として長所に変えるグループで、残ったメンバーは強かった。応援する私が弱かった。


グループはメジャーデビューした。知名度を上げ、グループを知らなかった人たちにも歌を届け、更に人気になっていくことだろう。

そんな彼女たちの進む先はきっと楽しいだろうし、ワクワクする未来だろうけど、私はファンとしてその道を一緒に歩むことは出来ないな、と思った。

そんなことを感じて、退場のアナウンスの流れる武道館で、ひとり泣いていた。

ライターになりたい未来