ソーシャルメディアが人を孤独に追いやるということは無いという話

「こうして見ると、評論家たちが次にソーシャル・メディアに照準を合わせてきたのは当然の帰結だったのだろう。しかし〔図82]で示したように、アメリカの学生についていえば、あいにくソーシャル・メディアは孤独を感じるかどうかの推移に良くも悪くも影響していない。学生の孤独感は一九七八年から二〇〇九年にかけて低下しているが、フェイスブックが世間を席巻しはじめたのは二〇〇六年以降のことだからだ。また別の調査によると、大人もソーシャル・メディアのせいで孤独になったわけではない。むしろソーシャル・メディアの利用者は親しい友人を多くもち、他者を信頼し、周囲の支えを感じ、政治にも積極的に参加する傾向がある。
巷では、ソーシャル・メディアの利用者は、ネット上の偽りの友人が楽しげな活動をものすごい勢いでアップするので、それに遅れをとるまいとして、由々しき競争に巻き込まれているなどと噂されている。だが実際には、彼らは非利用者以上に大きなストレスを訴えているわけではない。それどころか、女性利用者のストレスは非利用者よりも小さいくらいだ。ただしこれには一つだけ例外があり、ソーシャル・メディアを通じて、誰か親しい人が病気や身内の不幸、ほかにも何かしらの試練で苦しんでいることを知ったときには、彼らの気持ちは動揺する。つまりソーシャル・メディアの利用者は他者への思いやりに欠けるのではなく、他者を思いやりすぎるということだろう。他人の成功を妬むのではなく、他者のつらさに共感しているのである。(21世紀の啓蒙,スティーブン・ピンカー,2019,下pp.99-93)

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