これでよかったはなし

ちょうど女子高生生活が終わって、新生活を迎えたころに好きなバンドが解散した。


つい最近トイ・ストーリーホテルになった場所に昔は東京BAY NKホールという大きいホールがあった。解散ライブが行われるそこは都内在住とはいえ自宅からはかなり距離があった。


会場がある舞浜あたりは終電も早く、ふと、いつもやる都心の会場とは違うし、みんな終わったらどういう路線で帰るんだろう?終演後はあまりゆっくりできずにみんなと別れてしまうな…でも案外あっさりと終わっちゃった!楽しかった!と友人たちと遅い夕飯を食べてバイバイするのかも?などと少し考えたけれど、終わった後の話なんて友人たちとのメールのやりとりにはほぼ出てこなかった。
結局当日まで終演後どうするか具体的な予定も一切立てなかったので、好きなバンドの最後の勇姿を見届けるという事に頭がいっぱいになってたのではないかな、と思う。


ライブ自体はみんなが楽しめる選曲、いつも明るいけど最後なのもありいつもと少し違う、笑って終わろうと話すメンバーのMC、最後まで楽しもうとしているファンを目に焼き付けようとするような彼らの真っ直ぐな表情が印象的な最高のライブで、私はオープニングの映像からゲラゲラ笑ってたし、ちょっとだけ途中で感極まるメンバーを見て泣いたけど、でもずっと笑ってたライブだった。


終演後はメモリアル的な要素で衣装展示やサイン入り等身大パネルなどが会場に設置されており、それを使い捨てカメラに収めたり、一緒に行動してる友人たちと共通の、いわゆる「ライブ友達」を探して最後になるのかな?とか思いながら、楽しかったねと挨拶をしていた。


なんだかんだ今日の感想を言いながら、舞浜駅に着いた時刻はもう覚えていないけど、私たちは終電を逃した。
帰る方向は最終的には違う路線になるけれど、みんなもう手遅れだった。



一緒にいた友人たちが自分の路線の終電を調べた上でこの日に臨んでいたかは知らないのだけど、私は調べてなかった。かといって終電逃してもいいや思っていたかというのも少し違ったし、うちは割とライブに行くことや帰りが遅くなることには寛容な家だったけれどあらかじめ言ってある外泊とは違う、日を跨ぐ帰宅はこの時が初めてだった。
さすがに怒られるかなぁと家に電話をかけたら母が出て、終電を逃したこと、今舞浜にいること、友人2人と一緒にいること、一人は幼馴染で、一人はうちに泊まりにきて母が浴衣の着付けをしたあの子だということを伝えたら、あっさりと変な人にはついていかないこと、警察のお世話になるようなことはしないこと、と言って了承してくれたのを覚えている。今となっては、それなりに心配だったとは思うけど、怒るでもなく、んも~と言いながら了承してくれて感謝している。
多分、ひどく怒られてたらそれなりにこの思い出に翳りが残って、今こうやって書きとめようと思うことはなかったはずなので。


さて、どうしようかと、ここにいてもしょうがないけど、じゃあどこに行けばいいか、居酒屋は年齢的に無理、とにかく周辺のお店がすべて閉まってしまうここよりも、朝まで開いてるファミレスとかに行こう。
でもガラケー文化の当時はどこにそのお店があるかわからないし、地図検索も小さいあの画面ではあまり役に立たない。パケ代こわい。多分電池も残り少なかったはず。
とにかく、深夜は本当に真っ暗になってしまうここよりも明るい地域を目指して、とりあえず歩こうと。




最初は大きい道路沿いを歩いていたけれど、だんだん住宅街に街並みが変わった。住宅街を歩く頃には深夜になったこともあり、家の明かりは消えて街頭のみの薄暗い道を3人で横に並んだり、2人の前を歩いたり後ろを歩いたり不規則に位置を変えながらダラダラと歩いていた。


今となっては何時間歩いたか覚えていない。でもその間各々の新しい環境の話とかプライベートな話はたいして出なかったと思う。
今日のライブの曲や演出のことや、この時はああだった、あの曲はああだった、泣いてたね、きれいだったね。楽しかった、泣いちゃった、めっちゃ笑った。めっちゃ泣いた。あの人に会えた。名刺もらった。かわいい。この写真かっこいい。たしかそんなことをずっと、デニーズが見つかるまで話した。



ライブの感想を友達と話すだけなら、この日以前にもやっていたことだった。でも、家から遠く広い会場での3時間弱のライブ・終演後の展示で色々歩き回り酷使した足で夜道を歩きながら、街頭の明かりだけのおかげでメイクが落ちた顔も、逃した終電の影響で時間も気にすることもなく、素直にあーだこーだ話してたこの時間は、若かった私には全部ちょうど良かった。
このぐらいじゃないと、解散ライブという特性上余計な事まで考えて勝手に感傷に浸って純粋に本当に楽しかったライブに違う感想まで入り込んでいたんじゃないかなって思う。ひとりになると素直さが私にはなくなりがちで、この時は若くてまだまだひねくれてたから。多分、電車に乗れていたらそうなってた。


一緒にライブに行く一番と二番に古い友人と、初めて好きになり見に行ったバンドの最後のライブのあとに、偶然とはいえこうなってよかったと今では思ってる。私にとってとても大きな出来事になった。


デニーズでは友人のひとりは明日もアルバイトということでとにかく休んでもらった。逆に私ともう一人の友人は、女子3人の深夜ファミレスということで全員うっかり落ちて何かあっては困ると思ったのもあり、深夜テンションというバフを使いファミレスの紙ナプキンに「ヴィジュアル系バンドマン人相ポジショニングマップ」を顔イラストで配置しながらゲラゲラ笑ってた。あれ持って帰ってきてたら思い出の現像写真と一緒にしといたのに惜しいことをしました。


また数年後にこの3人で会ったし、先月はこの3人でまたライブの感想を言い合うことができた。もう終電は逃さないけど、居酒屋を出た後、某駅に向かいながら前を歩く2人を見て思わず動画を撮ったし、歳はとったけどあの時と何にも変わってないと思った。


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