『七色の影』: 短編小説
私、山田太郎の人生は、あの朝から一変した。目覚めると、部屋に7人の半透明な姿が浮かんでいた。
「やあ、太郎くん。私たちは君の守護霊だよ」赤いオーラを纏った老人、一郎が話しかけてきた。
驚く間もなく、他の守護霊たちも自己紹介を始めた。それぞれが異なる色のオーラを持っていた。
オレンジの二子は「恋愛の守護よ」
黄色の三郎は「金運担当だ」
緑の四郎は「健康管理するぜ」
青の五郎は「知恵を授けよう」
藍色の六子は「人気運を上げるわ」
紫の七郎は「運命を導く」
最初は戸惑ったが、彼らの存在はすぐに私の日常となった。そして、驚くべき変化が起こり始めた。
二子のアドバイスで、憧れの同僚と自然な出会いがあり、付き合い始めた。
三郎の直感で、わずかな貯金を株に投資し、順調に資産が増えていった。
四郎の指導で、健康的な生活習慣が身につき、体調が劇的に改善した。
五郎の知恵で、仕事の効率が上がり、周囲から高い評価を得るようになった。
六子のおかげで、人間関係が円滑になり、職場でも人望を得た。
七郎はいつも黙って見守っているだけだったが、その存在が不思議と安心感を与えてくれた。
日々の生活は充実し、笑いが絶えなかった。
一郎「太郎くん、今日は上司に提案してみたらどうだ?」
私「えっ、でも自信がなくて…」
一郎「大丈夫、きっと上手くいくよ。君の能力を信じて」
七郎「今日、いつもと違う道を通ってみては?」
私「どうして?」
七郎「素敵な出会いがあるかもしれないね」
しかし、時が経つにつれ、違和感が募っていった。守護霊たちの行動が、少しずつ不気味さを増していったのだ。
二子が恋人との電話中、突然耳元で囁いた。「もっと愛してると言って。もっと」
三郎は寝ている間に、勝手に株取引の注文を入れていた。
四郎の「健康的」な指導が、次第に過激になっていった。「もっと走れ。眠る時間は無駄だ」
五郎は私の脳内に直接、大量の情報を流し込むようになった。
六子は私の行動を細かく指示するようになり、自由な時間が減っていった。
そして、守護霊たちの姿が、徐々に鮮明になっていった。最初は半透明だった彼らが、今では実体を持ちつつあるように見えた。
ある日、七郎が不敵な笑みを浮かべて言った。
「太郎、もっと素晴らしい人生を送りたくないか?僕たちに48時間を預けてみないか?」
他の守護霊たちも口々に言う。
「そうだ、太郎。たった2日よ」
「君の人生、もっと輝かせてあげる」
「損はさせないわ。約束するわ」
私は恐る恐る尋ねた。「48時間、どういうこと?」
すると七郎が答えた。「簡単さ。君は48時間眠り続ける。その間、僕たちが交代で君の未来を創り上げる。目覚めた時、君は想像もつかないほど素晴らしい人生を手に入れているはずさ」
私は迷った。彼らは決して私に不正なことをさせたわけではない。むしろ、私の人生を良い方向に導いてくれた。だが、この不気味な雰囲気は何だろう?
「わかった。でも、約束してほしい。不正なことは絶対にしないでくれ」
守護霊たちは笑顔で頷いた。その瞬間、私の意識が遠のいていく。
48時間後、私は目覚めた。部屋には誰もいない。鏡を見ると、自分の姿が少し変わっていた。若々しく、健康的で、自信に満ち溢れている。
携帯を見ると、昇進の知らせ、資産の増加、恋人からの愛の告白メッセージ…全てが完璧すぎた。
そして、部屋の隅に一枚の紙が置かれていた。
『太郎へ
私たちは約束を守った。不正なことは一切していない。
だが、人間の時間は私たちにとってあまりにも魅力的だった。
君の48時間で、私たちは何年分もの「生」を体験した。
もし、また会いたくなったら、鏡をのぞいてごらん。
私たちは、もう君の中にいるよ。
永遠に。』
私は震える手で鏡を見た。そこには私の姿と、7色のオーラが重なっていた。
これが、私の新しい人生の始まり。完璧で、でも何かが決定的に違う不気味な人生の幕開けだった。
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