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サナ子、ハイ今笑って!

その3

サナ子は自動車免許を持っていない。バイクは大型まで持っているのにである。N市という特段に大きい都市でもないところに住んでいるが、車が運転できない事に困ったことは一度もない。むしろサナ子は車が苦手だった。

幼い頃を思い出しても車に関してはいい思い出があまりない。というより若干悪い思い出のほうが多いくらいだ。まず、サナ子は尋常じゃなく車に酔いやすかった。気のせいかな、と思ってもそう自分が自覚した瞬間にもうダメだった。夏なら窓を全開にして風を思いっきりあびる。冬なら親に言って暖房を消してもらって冷たい窓に顔をおしつける事でなんとかしのいでいた。

大人になってからは少しは改善したものの、やはり車は得意ではない。電車ならそんなことないのにって思うが、よくよく考えてみると自由に歩けるかどうかがサナ子にとっては重要なことだった。そういう事で、サナ子は車以外ではバスもだめだし飛行機もだめだった。そんなサナ子にとってバイクは本当に心許せて心ときめく存在だった。

サナ子が初めて購入したバイクはスズキのDR250だった。バイク雑誌を隅から隅まで読んでいたサナ子ではあったが、深い知識が身についたわけではなく、バイクに対する憧れだけがたまっていった。そんなサナ子がどうしてDR250を選んだのかというと、黄色い車体に一目ぼれしたからだ。何故ならサナ子は幸せの黄色いハンカチを見たばかりであり、黄色がとても好きになっていたのだ。加えて小さい頃メローイエローが好きだった事もあり、そのバイクを選んだのだった。

250ccなので車検がないのも大きかった。サナ子はこのバイクでいろんな場所にいった。それこそ、ツーリングともいえないようなじゃあ何と呼ぶのか分からないが、バイクに乗って行けるところはどこにでも行くという気持ちで生きていた。

ここのところ旅に出れていないな、サナ子は思った。体がウズウズする。バイクで風を感じたい。旅先でラーメンが食べたい。無性にそう思った。サナ子は今レブル500に乗っているがもう少しで1100が出るみたいなので思い切って乗り換えるつもりだった。そのためサナ子は本業に加えてお菓子屋でバイトをしている。

「お菓子屋ピッちゃん」でもサナ子より大きい女性はいなかった。

でもいいのだ、この身長のおかげですぐに覚えてもらえるし、そう思ってサナ子は自分が笑ったのをレブルから降りたときに思い出した。

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