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サナ子、ハイ今笑って!

その1

サナ子は地方都市のN市でOLをしている。社員数はわずか20人足らずの小さな会社だ。家からさほど離れていないので自転車で通勤している。つい最近、クロスバイクを買ったので通勤が少し楽しくなった。

身長が170センチジャストのサナ子は周りの女子社員よりおでこ分以上は大きくて、よくロッカーの上とかの荷物を取ってと頼まれる。最初は嫌だな、と思いながらもこれをやることで社内での私の存在価値が認識できるんだと感じるようになった。

「サナ、おはよ!」

後ろから肩を叩いてきたのはシオだった。シオはサナ子の同僚で同期だ。会社に入った当初から何となく気があって遊ぶようになった。サナと同じくらい身長が高くて、小学校から高校までバスケをしていたと言っていた。サナ子もミニバスをしていたが身長だけでレギュラーになったのが見え見えだったのでいつしか練習に行くのも嫌になっていた。

「今日仕事終わったらアレ行かない?」

シオはそう言って笑った。アレとは、河川敷での女2人での酒飲みのことだ。サナ子とシオももう31才だった。それなりに恋愛もしてきたし、人生経験も積んできたつもりだった。若い頃は、と口から出てきた時は自分でも随分驚いたけど、今は普通にその言葉を使っている。

いろいろ遊んできたつもりで、二人ともお酒に強く、合コンに行っても男の子に酒で負けたことは一度もなく、逆に男の子達を酔いつぶして二人で肩を組んで帰るのが常だった。

「いいよ、私すっごい飲みたい気分。今、朝の8時だけど。」

そう答えて、ふっと商業ビルのウィンドーに写った自分の顔を見て、あ、いけない、と思った。また眉間にシワがよっている。3週間前に実家に帰った時に弟に言われたのだ。

「ねーちゃん。眉間にシワよっとるぞ。なんか顔がこわい。」

考え事をしてたわけでもなく、悩み事があったわけでもない。ということはその顔が常態化しているわけで、これはちょっとまずいなと思った。

「サナ、ハイ今笑って!」

心の中で自分に声をかけた。猫背に気づいた時と同じように背筋を伸ばし、眉間のシワも伸ばす。これでいいかな?そう考えて自然な笑顔を心がける。隣にはシオがいる。そして今夜はアレだ。そう思ったら楽しくなってきた。


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