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サナ子、ハイ今笑って!

その2

シェラカップになみなみと注いだ日本酒で乾杯した。

「あ、チン」 「あ、チン」

酒のつまみは先週にバイクで立ちよった海街の商店で買ったアジの干物だ。それをシングルバーナーにのっけた網の上に置いた。サナ子はこの瞬間が好きだった。シオもきっと同じ思いだろう。二人でこうしてお酒を飲む回数はもう10回を超えていると思う。最初こそいろんな話をしたけど今は会話が無くなっても平気になっていた。

「そういえば、ツーリングどうだった?」

シオが訪ねてきた。焼けた干物をあちちと言いながら頬張っていた。

「そうだね、海の匂いがね臭いけど良かったの。若いころは匂いなんか感じなかったのに、おかしいね。」

サナ子はそう答えて、カップに残った日本酒を飲み干した。駅のコインロッカーの一つをシオと二人でお金を出し合って借りている。そこに飲み用の道具一式が収まっているのだ。なので河川敷でアレする時のために、サナ子のクロスバイクには自作のケースを積んでいる。まるでバイクでツーリングする時用のパニアケースのような。

そのケースから新しい日本酒の4合瓶を取り出した。サナ子の好みは辛口ぬる燗である。シオは冷やが好きで、だから先に飲むのはシオである。シオはスマホで音楽をかけ始めた。はっぴいえんどだった。

「最近よく聞いてるんだ。なんかほっとするんだよね。モモンガー、モモンガー」

「なにそれ!おっかしい歌」

サナ子は笑った。酒を飲んでいる時は笑顔をキープできる気がする。隣には一緒に飲んでくれる友達もいる。でも満たされない気持ちになる事が多くなってきた。なんでだろ?特に心配なこともないはずなのに。

「サナ子、またさ眉間眉間、シワってるよ」

「あっいけない」

「サナ子笑って」

はいから〜、はいから〜ってはぴいえんどの歌が聞こえてきた。

確かに夏のはずだった。

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