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即興コントの作り方を説明してみる②お題「滝」

即興コントの話をしよう

ライブのたびに即興コントの時間を設けている。お客さんからお題を受け取って、5秒ぐらいで始める。始めた時点で大筋が思いついていることもあるし、全く思いつかないままとりあえず喋り出していることもある。

ピン芸人で即興コントをめっちゃやっている人と言うのも少ないだろうし、誰かの興味にはかなうんじゃないかと思い、即興コントをしているときに自分が何を考えているかについて、試しに思い出しながら書いてみようと思う。数年後とかに自分が読み返しても楽しそうだし。

前回記事はこちら。

お題:滝「滝」

概要

2022年秋のライブから。このライブは地元八戸市で一日閉じ込められてコントをし続ける過酷なライブだった。めちゃくちゃ大変だった。楽しかったけどな。

お題から考えたこと

お題「滝」をもらった。まず、景色の綺麗さが浮かんだ。ただ、綺麗は綺麗でも無害な綺麗さではないなと思った。ちょっと怒っているような自然の怖さ。荘厳さ、美しさ、畏怖みたいなものを思い起こさせる神秘と恐怖をたたえた強い美しさ。

このライブをする少し前に、熊本の滝壺に行ってひたすら一発ギャグをしたりしていた。このときのイメージもあったのだと思う。滝は強い。強くてかっこいい。

滝は人の手の入らない山奥にあったりする。そして怖い。僕は滝側の人間ではなくて、滝へと踏み入った部外者でいこうと思った。適当に、軽い気持ちで、カメラなんかを携えて。

バラシ系のコントにしよう!

ここまで考えて、バラシ系のコントでいこうと思った。バラシ系というのはたぶん芸人の用語である。冒頭では設定の根幹が伏せられていて、それが明かされる一言をきっかけに駆動していくような仕組みのコントである。明確に仕掛けが一つあるコントといってもいい。

バラシ系のコントは、設定をバラすまでにある程度の時間を前フリとか設定の説明に費やす必要がある。だいたい1分くらい、長ければ2分とか3分ボケがない状態が続く。そのぶん物語性とか特殊なシチュエーションとかを扱えるし、色々な雰囲気を使えるのだけど、最初のバラシでちゃんと引き込まないといけないという特大リスクがある。外した時のリスクがデカいのが弱みだ。

そこそこ勇気がいる作りのコントなので、バラシ全振りのコントなんてやりたがらない人も多いと思う。でも僕は広くどんな話題でも扱える感じが好きで、形式としてかなり気に入っている。

そしてこの「滝」というものが持っている「得体の知れなさ」は、バラシ系のコントにぴったりだと思った。滝に何があるのだろう?と思いながらコントに入った。この時点では何も決めていなかったけれど、きっと不穏で恐ろしいコントになるような予感はしていた。だって滝なんだもん。怖そうなんだもん。

コントの実演

そういうわけで、とりあえず「滝のことを何も知らないけれど滝に来た人」でスタートした。キャラクターとしては、なるべくプレーンで、ちょっと世間知らずで、思慮がやや浅いくらいの一般人・野次馬感をイメージした。滝で起こる何かに巻き込まれる人間なのだから、それくらいがちょうどいい。

彼が滝に来た理由として、マルヤマさんという人に案内されたことにした。明言はしなかったけれど、山歩きの達人なのか、地元のガイドの人なのか、そういうポジションをイメージした。

マルヤマ、という名前は滝の荘厳なイメージに引きずられて出てきた名前だった。なんだろう、丸は図形として完全で侵しがたい強さを持っているし、山もまたそうだ。この強いイメージにだいぶ引っ張られた。

そういうわけで、ある程度の前フリに必要な情報が揃った。カメラで滝の写真を撮りに…恐らくは単に綺麗なものが撮れるとだけ思って滝に来た男。マルヤマなしには来れない、ガイドブックには載っていない穴場へやってきた。そこで起こることは…。

フリは完成している。条件としてはベストに近く、あとはバラシを思いつくだけだった。マルヤマさんはどうせ悪い奴に決まっている。敵だ。ヴィランだ。聖書の蛇だ。横にいるのがそんな奴だとも知らずに、僕は人里を離れた滝に来てしまった。たいへん孤独かつピンチにある。当然ながらそのことに気付いてすらいない。

となればもう、死だよ。死。本当にヤバい死が待っているに決まっている。滝の落ちるイメージが重なる。滝を撮りたいだけの軽薄な彼が連れて来られたのは、人が落ちる自殺の名所の滝だったのだ。バラシ系のコントとしての根幹、まさにバラシにあたる部分が定まった。この時点でホラー風味というかサスペンス風味というか、そういうコントになるんだろうなと思った。

出し方はちょっとだけ工夫した。こういうコントはきちんと不穏な空気を作ってからバラした方がいい。目線を何度か往復させてそこに何かがあることを示し、「上って車で行けるんですか?」みたいなセリフでトラブル感を出す。そして自殺の名所であることを明かした。

そこからはその場のドライブ感と僕の手癖で進めて行く。あんまり無理をしないことが大事だ。そこまででばらまいた情報をゆるやかに消化しつつ、無理のない範囲で地盤を固めて行くイメージ。

その滝は、なにせヴィランのマルヤマが連れてくるような自殺の名所なのだから、まず間違いなく単なる自殺の名所ではない。起こり続ける人の死が、そもそも自殺なのかも定かではない。集団ヒステリーなのか、恐ろしい異端の宗教者たちなのか、罪人たちに課せられた刑罰なのか、理由の明かされない人の落下が止まらない。

そしてそのことに彼が気付いたのちには、マルヤマが何かを答えることはない。なぜなら、マルヤマは既に役割を終えているからだ。マルヤマは彼を一人にして去り、そして滝から落ちる。そこでコントは終わる。短くまとめたけれど、ホラーっぽい構成のコントとしてはかなりよくまとまったように思う。

このコントを新たに作り直すなら

マルヤマのキャラクター補強

このコントを新たに作り直すなら、そうね、まずはマルヤマのキャラクターを補強したい。バラシより前のフリの部分に足せばいいのかな。優しい人なのか、やっぱりどこか怪しい人なのか、何パターンか描き方はありうる。あるいは、主人公と初対面ではないのかもしれない。山歩きが趣味の会社の先輩でもいいし、現地の滝のガイドさんでもいい。一番落差が不気味なチョイスを狙いたいところ。

そういったキャラクター補強ができたならば、同時にマルヤマの真意もまた少し鮮明になるかもしれない。観光客を驚かせたいだけなのか、誰かに見られて死にたかったのか、異教の存在をただ伝えたいSOSだったのか。

オチで写真を撮ればよかった

このコントはマルヤマが滝から落ちていくところで終わる。これはまあ即興コントとしては自然だしそれなりにまとまった終わり方だとは思う。

ただそうね、後悔があるとすれば滝から落ち行くマルヤマをカメラで撮影してもよかったのかなとは思う。主人公の偽善性というか、ある種の「滝を勝手に見に来た道楽の人」感を不気味さに反転させるチャンスだったかもしれない。そんなものも撮るのかよ、的な。主人公が持っているカメラ撮影へのモチベーションとか、情熱に関するセリフを入れていたならば、最後に落ちて行くマルヤマを撮影することで何かを表せたような気もする。

オチ後の展開

あるいは、このコントってこの後が気になるところな気もする。彼は一人で下山できるのか、何らかの理由で彼もまた滝から落ちたくなるのか、助けがやってくるのか、何なのか。

サスペンスめいているし、ちょっとフォーク・ホラー系の映画っぽい空気があるので、そういうところを掘り下げていくようなもうひと展開をつけられたはずだ。それは別にコントの中で見せなくてもよいのだけど、ちょっと匂わせるくらいでも結構ぞっとしていいんじゃないかと思う。

もちろん、「実は全部ドッキリでしたー」的な平和っぽい流れにもできる。いや、さすがに「ドッキリでしたー」は軽すぎるのだけど、何かしらアホっぽくて安全な終わり方に急カーブしても面白くなる可能性はあると思う。

あーでも難しいな。どういうのがあるかな。なんだろうね。「全部VRのアトラクションでした」だと嘘過ぎて冷めるし、ぴったりハマるのが何かはパッと出てこないけれど。アホっぽくて安全になって、そのうえでまた別の狂気が発覚する、とかでもいいな。10分尺とかになっちゃうかしら。

感想

今回も即興コントをやるときの頭の中のことを書けた。即興コントは台本を決めてやっているコントじゃないぶん、頭がパキパキになる楽しさがある。ふつうに台本のあるコントの台本の仕組みとか、テーマ性をバラすと萎えるとかもあるだろうけど(あと、そういうのはファンの方がやってくれるのが一番だとも思うし)、即興コントのことは別になんぼ言ってもいいような気がしてこれからもちょいちょい言うと思う。

本来、僕コントの話をするのが好きなのよ。人のネタの話をすると偉そうになっちゃうし、自分のネタの話をするのも皆様の楽しみ方的にどうなんだろうって思っちゃうけど、即興コントならなんかいい気がするし、ちょっといい逃げ道を見つけた感がある。お笑いの話したいときは自分の即興コントの話をしようっと。

九月のバラシ系コントの紹介

No.717 ガルシアさんと龍平

バラシ系。かなり手堅い作りになっていて、相当使っているし助かっているコント。

No.719 美大生の憂鬱

これもバラシ系。フリに2分ぐらい使う。

No.643 寿司屋アサシン 忠次郎

2分半くらい。もうほぼバラシしかないようなネタ。フリがあって、バラシて、そのあとはバラシの流れでダラダラ遊ぶだけのコント。九月のライブでは箸休め的にこういうタイプのコントが10本に1本入ります。

No.589 自転車日本一周

かなり綺麗にバラシ系のコント。かなり情報量が多い。バラシ系コント特有の「バラシ以降は前フリの情報を消化し続ける」みたいな展開になっている。


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