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「おっぱい」の「い」を「お」にしたらどうなる?

小学生の頃のある夏。クラスメイトが僕に聞いてきた。

───「おっぱい」の「い」を「お」にしたらどうなる?

僕は唖然とした。そのノリを「おっぱい」からスタートする奴いるのか。それ、「いっぱい」で始める奴だろ。そして「おっぱい」って言わせるノリじゃないのか。どうしたらいい。「おっぱい」から始まったぞ。なんなんだ。「おっぱお」と言えばいいのか。「おっぱお」でいいのか。

まあ、もしかしたら、言い間違いかもしれない。相手は「いっぱい」で出題したかったものを、誤って「おっぱい」と言ってしまったのかもしれない。

その場合、相手のミスには目をつぶって、「おっぱい」と返すのがノリとして正しい。「はい、エロい〜!おっぱおでした〜」とか言ってもらえる。それでこのノリは終わる。こういうのは負けてあげるのが礼儀だったりする。そもそもロクなノリじゃないんだから、早く終わらせて次の会話にいきたい。ささっと「おっぱい」と答えてしまおうかな、と思った。

しかし、同時に頭によぎる。もし、質問文が言い間違いではなかったらどうしよう。もし本当にそういう出題だったなら?

───「おっぱい」の「い」を「お」にしたらどうなる?
───「おっぱい」

こういう会話になってしまう。こうなると、だんだん僕がヤバい。「ただおっぱいと言いたい奴」あるいは「五十音のうち二音を区別してない奴」になってしまう。会話が通じない奴だと思われたくない。

すると、結局「おっぱお」と答えるのが安全であるような気がした。考えてみればそうだ。質問文が意図通りのものであれ、言い間違いを含むものであれ、「おっぱお」と答えておけば、ひとまず「問題への正解」にはなりそうだ。それが一番安全だ。どうかこのノリが終わりますようにと祈りながら、僕は口を開き、絶対大丈夫な四文字を口にする。

───「おっぱお」

一安心する僕に向かって、クラスメイトが苦笑いを浮かべながら言う。

───「なんだ、引っかからなかったか」

ドキッとした。一体どこからどこまでが引っ掛けだったんだ。ものすごく高度な心理戦だった可能性がある。心当たりがある。だとしたらつい引っかかって、「おっぱい」と答えるところだった。寸前までは行っていた。本当に危なかった。

とはいえ、ひとまず「おっぱお」と答えられてよかったみたいだ。安堵する僕。悔しそうな顔をするクラスメイト。数秒の後、彼がまた口を開く。

───俺にも出してみて?

何をどう聞けばいいのか、僕にはわからなかった。


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