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「時代の文体」について考えている

10年くらい前から「時代の文体」について考えている。


前史としての「テンポよく悩むキザ」文体

以降、僕のおおまかで雑で主観的な理解。あくまでも自分の近くにやってくる文章の文体の話であって、学術的な整理ではないことに注意。

まず、もともと文章の言葉は書き言葉がメインだった(はずな)わけで、そこからのずらしとして口語体での文章があった(はず)。

が、サリンジャー〜庄司薫〜村上春樹あたりの流行から、ちょっと流れが変わった。グッと口語体が流行った。あの辺のまんまの文体を使う人も増えたし、誰もが無関係ではいない感じがあった。なんというのだろう、乱暴に言えば「テンポよく悩むキザ」みたいな文体が1つのジャンルとなった。ちょっと表現が乱暴過ぎるか。でもそういう体感がある。

で、それらを下地にして「インターネットの文体」が登場した。いわゆるインターネット黎明期とか言われる頃。あの頃は「こいつ春樹が好きなんだろうな」って文体をなんとなくよく見た気がした。多くのブログの文章が「テンポよく悩むキザ」と形容すべきものだった。春樹読んでなさそうな奴までダンス・ダンス・ダンスみたいなことを言う踊ってばかりの国だった。

そこから匿名掲示板の爆発的流行がやってくる。結果、文字を書かれる場所も話題も増えたわけだけど、それらの文体も「テンポよく悩むキザ」の延長だったと思う。妙にやさぐれることも、自虐・自嘲することも、誹謗中傷も、結局は「キザ」の一形態だったのではないかしらと思う。みんな悩んではいたし、みんな他者と自分を区別しようとしていた。

また、あの頃は異なる年代・文化圏から「ケータイ小説」が流行した。見え方や文脈はまったく違っていたけれど、「テンポよく悩むキザ」へのケータイ世代からの応答、みたいな意味があったんじゃないかとぼんやり思う。

大口語時代の「テンポよくツッコむ審査員」文体

で、そこからニコニコ動画の「弾幕」文化、まとめサイトの登場、TwitterやInstagramなどのSNSによる「全員が発信する時代」の到来と時代が連なって進んでいく。この過程において、「文体の口語化」はどんどん進んでいる。

そして今の口語体は、かつての口語体と少し違う感じがする。「テンポよく悩むキザ」はだんだん「テンポよくツッコむ審査員」になっていった。対象との距離感がSNS的/YouTube的に変化して、あらゆるものへの言及が「審査化」「レビュー化」「コメント化」していく感じ。

褒めるにせよ、叩くにせよ、あたかも動画サイトやレビューサイトのコメントのような要領で、何かを評価していく感じ。自分について言及するときも、自慢なのか自虐なのか、結局は自己評価が明確化された形での言及が増えた。そういう文体は、僕らの日常にもとっくに溢れている。

こらからの自分の文体を考える

そういう時代の変化、文体の変化みたいなものを踏まえつつ、これからの自分の文体を考えたいなって思う。

とりあえず時代には即さねばならない。現在の流行である、「口語体をベースにしていて、テンポが良くて、対象に対してコメントをしていく作法」を踏まえてはいたい。

でも同時に、時代の文体が持っている問題点は乗り越えたい。時代に全乗っかりでも、時代を全部拒絶するのでも、だめだ。課題を見つけて乗り越えていかないことには自分のものが生まれない。

現代の文体について、乗り越えるべき問題はなんだろう。色々考える。たぶん「主体としての自分がただの審査員/コメンテーターになってしまわないようにすること」が根本問題だ。ただのそれ、になってはいけない。

そのために僕に何ができるか。「自分の身体性、土着性、主観的な感情をきちんと出すこと」「権威化されてしまう自分を常に解体し続けること」あたりが大事になりそうだ。

だったら、どんな言葉を使うのがふさわしいか。どんな一文の長さがふさわしいか。カタカナ語の割合はどれくらいがいいか。自分の話はどれくらいした方がいいか。メタ的な視点はどこまで入れていいか。そういうことを考えて、文体をつくる。

最近、小説を読んで思う

最近の小説、特に上下5〜10歳くらいの小説家の方の文章を読むと、なんとなく近いことを考えていそうな文体が多いなと思う。

たとえば『推し、燃ゆ』の宇佐美りんさんとか。どこか対象との距離感にコメント的な要素があって、それでいて主体が色を失わなくていいように調整された口語体、みたいな。伝統的な口語体小説の流れに乗っているように見えて、どこか現代的な感じがする。

あるいは最近読んだものだと、日々野コレコさんの「ビューティフルからビューティフルへ」なんかは、より急進的な口語体というのかしら。僕が考えていること以上に文体の変化を推し進めたものである感じがする。

どれくらい同じことを考えているのか、どれくらいそれを狙っているのか、僕よりもずっと遠くのことまで見えてそうしているのか、趣味・趣向が部分的に一致しているのか、なんなのかはわからない。

でも、「同じ作家に影響を受けたから似ている」とか、「その著者さんが好きだから真似したくなっちゃった」とかでは多分なく、「同じ時代を生きているから、文体についても似たようなことを考えている」みたいなことが起こっているんだろうかと思うと、ちょっとだけ嬉しくなる。

これからの文体がどっちへ動いていくのかは知らない。時代のも、自分のも。みんな適宜考えていくのだろうし、僕も適宜考えていく。


筆者・九月の直近の公演予定

ご予約フォームなどは以下。

6.1(土)「第169回単独公演 浮世の門」
時間:18:00‐19:30
場所:渋谷松濤BASE
料金:1500円+1drink
内容:新ネタを中心にした渋谷での定期コント公演。浮世の門を開くようなコント15本。最もスタンダードに九月が見れるのはここ。
https://tiget.net/events/321175

6.7(金)「第170回単独公演 名古屋公演 森は滝の1000倍#2」
時間:①18:00‐19:30②19:45‐21:30
場所:森の会議室
(名古屋市中区丸の内三丁目16−19 丸の内ニューネットビル9階)
料金:各2000円
内容:3ヶ月ぶりの名古屋遠征。名古屋のだいぶど真ん中にある「森」で行う90分のコント公演。絶叫してもいい会場なのでパワー系の内容になる予定。なお、1公演目と2公演目は別内容。
https://tiget.net/events/311746

6.8(土)「第171回単独公演 門戸公演 Vol.1」
時間:①13:00‐14:30②15:30‐17:00
場所:門戸寄席 J:SPACE
料金:各1500円、通し2000円
内容:兵庫県西宮市の会場、門戸寄席さまから招待して頂いての定期公演。この時点でめっちゃよくないですか。初めて九月を見たい皆さんや、いい加減に寄席小屋でも九月を見たい皆さんどうぞ。予約は門戸寄席の安田さま(jspace_event@yahoo.co.jp)まで。

6.8(土)「第172回単独公演 九月の『飲む』ラジオ WEST」
時間:19:00‐27:00
場所:兵庫県三田市 Child-Child
料金:1500円(+1drink)
内容:ボドゲバーChild‐Child主催イベント。九月を囲んでお酒を飲みながら、トークをしたり、コントを観たりする「読むラジ」のオフ会です。YouTubeの企画動画撮影、秘蔵動画の上映なども行います。会場にて宿泊が可能です。

6.9(日)「第173回単独公演 三田の15時間」
時間:14:00‐29:00(翌朝5時)
場所:兵庫県三田市 Child-Child
料金:入場1000円/応援入場2000円
内容:予約不要、開催期間中はいつでも入退場可能なデタラメのコントライブ。九月はずっと何かをやっています。僻地と思えますが意外にも梅田から40分。

6.13(木)「第174回単独公演 九月の話芸 自由形 #7」
時間:19:00‐20:30
場所:オフィスunbuilt
(東京都杉並区高円寺南2-22-6 2F)
料金:1000円
内容:90分、トーク
https://tiget.net/events/323128

6.15(土)「第175回単独公演 静岡県東部界隈」
時間:15:00‐29:00(翌朝5時)
場所:駄菓子カフェせせらぎ
(静岡県三島市芝本町7−6)
料金:入場1000円/応援入場2000円
内容:こちらも予約不要、開催期間中はいつでも入退場可能なコントライブ。九月はずっと何かをやっています。静岡県東部界隈の皆さんにお越し頂きたい。ちなみに東京・神奈川からもそんなに遠くなかったりする。一晩見れます。

6.22(土)「第176回単独公演 東京スケープゴートクラブ」
時間:18:00‐19:30
場所:渋谷松濤BASE
料金:1500円+1drink
内容:新ネタを中心にした渋谷での定期コント公演。東京でスケープゴートにされてしまった人たちのコント15本。
https://tiget.net/events/321176

6.28(金)「第177回単独公演 九月の生活ライブ」
時間:0:00‐24:00
場所:オフィスunbuilt
(東京都杉並区高円寺南2-22-6 2F)
料金:1000円
内容:人間の生活はどこまで生活なのでしょうか。見られても生活は成立するのでしょうか。疑問に思ったので行う、九月が生活するのを眺めるライブです。ご飯を食べたり、仕事をしたりします。話しかけられたら友達と話す感じで応答します。予約不要。開催期間中はいつでも入退場可です。

6.29−30(土)「第178回単独公演 高円寺九月展・初夏」
時間:各日12:00‐22:00
場所:高円寺BLUE MOON
(東京都杉並区高円寺南3−23−16 2F)
料金:入場1000円/応援入場2000円
内容:ギャラリーを舞台に、壁一面にコントタイトルを張り出し、まるで脳内に入り込んだかのような臨場感ある魔界演出のコントライブです。20時間かけて200本のコントを上演します。予約不要。開催期間中はいつでも入退場可です。

6.29(土)「第179回単独公演 九月の怪談 自由形」
時間:22:00‐23:00
場所:オフィスunbuilt
(東京都杉並区高円寺南2-22-6 2F)
料金:1000円(高円寺九月展に参加の方は無料です)
内容:九月による人生初の創作怪談ライブです。雰囲気のある和室で怪談を話します。九月の思う自由形の怪談を準備します。
https://tiget.net/events/323131

7.14(日)「第180回単独公演 生きている感」
時間:開場17:45/開演18:00/閉演19:30
場所:四谷シアターウィング
(〒160-0011 東京都新宿区若葉1丁目22−16 アスティー B1F)
料金:2000円
内容:「生きている感」全開で挑みたいコント15本。ものすごくパワフルな内容になる予定。珍しく小劇場での公演。
https://tiget.net/events/319238

エッセイ『走る道化、浮かぶ日常』はこちら。


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