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やる気のない自販機とパンク・ロックの国立

先月、まだ夏も盛りの頃、かなりやる気のない自販機を見た。それはなんというのだろう、「やる気のない自販機」としか言いようのない自販機だった。

それはコカ・コーラ社の自販機だった。コカ・コーラ社、押しも押されもせぬ最王手飲料メーカーである。コカ・コーラ本社様にやる気がないなんて、そんなわけはない。どんな会社よりやる気があるに決まっている。でも、その自販機に関して言えば、明らかにやる気のない自販機だった。

あまりにも、不気味なまでに主張のないラインナップだったために、ついつい写真に残してしまった。

とんでもない自販機

これはちょっと、とんでもなくないか。さすがにじゃないか。スタメンを文字に起こしてみる。

一列目。
コカ・コーラ、コカ・コーラ、コカ・コーラ、コカ・コーラ、コカ・コーラ、コカ・コーラ、ファンタグレープ、ファンタグレープ、ドクターペッパー、ドクターペッパー。

二列目。
綾鷹、綾鷹、綾鷹、いろはす、いろはす、いろはす、綾鷹、綾鷹、綾鷹、綾鷹。

三列目。
コーヒー、コーヒー、コーヒー、コーヒー、コーヒー、コーヒー、コーヒー、コーヒー、コーヒー、コーヒー。

二度見するほど単調だ。気が狂うほど消極的だ。今までに見てきたどんな自販機よりも、極端にディストピア感がある。さすがに、いくらなんでもだ。お前、そんな自販機でいいのか。

お前には、「この街の皆さんに、新しい飲み物を紹介しよう」みたいな気持ちはないのか。それは例えば、自販機限定のちょっと高い果汁100%のジュースであったり、振るタイプのゼリーであったり、コーンポタージュやおしるこであったり、やや押し付けがましいほどにアピールしてくる、あいつらを並べないのか。

別に俺はそれらを買わないよ。買わない。買うことはほとんどありえない。別にいつだって綾鷹を買う。でも、俺はそいつらのことも見たいんだよ。顔はチェックしておきたいんだよ。何回も見かけていたら、そのうち買うかも知れないだろう。自販機って、広告みたいな役割もあるんじゃないのか。ちょっとは「こういう飲み物もあるんですよ」と消費者に紹介する気はないのか。この街に新しい息吹を届けようとは思わないのか。

自販機に含まれるノイジーな要素、「これ誰が買うんだろうな」って思わせるようなちょっと変わった飲み物って、生活において必要な豊かさだと思う。別に自分が選ぶことはない、だけど選択肢としては眺めておきたい、ひょっとするとたまに選ぶかもしれない、蛇足みたいなメニュー。自販機には必要だろ。あった方がいいだろ。

なんなんだよ、綾鷹が7って。そんなに売りたいのかよ。綾鷹はお前が7本も売らなくても別に売れるよ。その並びすぎた綾鷹のうち2〜3枠を抜いて、変なアロエの入ったジュースとか、トクホだか機能性表示食品だかなんだかわからん乳酸菌飲料だとかを売るんだよ。同じお茶でも、フルーツティーとか、候補はいっぱいあるだろう。綾鷹7は、なんかもう、未来を放棄した奴のすることだろ。想像することを諦めた人間の所業だろ。嫌なことがあったのか。だからってそれを自販機のラインナップに八つ当たるなよ。それで何が満たされるんだよ。

コーヒー10も異常なんだよ。右端2つはリアルゴールドの居場所だろ。そんなにコーヒーを敷き詰めなくていいんだよ。大丈夫だよ。リアルゴールドにしても同じぐらい売れるよ。それもなんだ、似たようなコーヒーばっか並べやがって。たまにある「バリスタのどうのこうの」とかを置けよ。あの、ちょっとだけ高いやつな。別に僕は買わないよ。買わないけどそこにあることが大事なんじゃないのか。

コカ・コーラ6もさ。何やってんだよ。不安だったのか。コカ・コーラの自販機として見てもらえるか、心配だったのか。大丈夫だよ。全然大丈夫だよ。そもそもお前、本体にコカ・コーラの自販機って書いてあるんだよ。それが全てだろ。別にそんな中身でアピールしなくても大丈夫だよ。こっちは何も疑ってないよ。だいたい、6ロットも置けるなら、2ロットはコカ・コーラZEROでいいだろ。最近の健康ブームが脳から吹き飛んでんのか。

ファンタグレープ2にしてもだ。なんでその位置で缶なんだ。ペットボトルでくれよ。缶の方がおいしいけれど、ペットボトルの方が使い勝手がいいだろ。そういう意味では、どっちかだけ置くならペットボトルを優先してほしいに決まってる。だいたい、2つもグレープである必要はないだろ。片方をオレンジにしてもよかっただろ。お前にレモンとかは求めないよ。だけどグレープとオレンジを揃えることはできただろ。グレープとオレンジ、それが飛車と角、右脳と左脳、感情と論理、ピッチャーとキャッチャー、対を成して物事を構成するんだろ。片方だけ2つにするなよ。なんなんだよ。キャッチャーとキャッチャーで何をするんだよ。

取ってつけたようにドクターペッパーを置いてるのも、断固嫌だね。「ベタが嫌な人はドクペにしてね」じゃないんだよ。ドクターペッパーも別にベタだからな。サブカルのベタはベタなんだよ。

ああ、どうかもっともっともっと、この自販機に意味不明なものが並んでほしい。どうかたまたま夏季限定のラインナップがこうだっただけであってほしい。冬にはココアやらコーンポタージュやら紅茶花伝のホットやらが並んでいてほしい。そんなふうに願ってしまった。

でも、一呼吸置いた後に思う。もしかすると、「多少の違和感を散らしている、ベタとサブカルの塩梅がちょうどいい自販機」こそが、無機質でやる気のない自販機なのではないか。

そういうちょうどいい自販機こそが、紋形をなぞっているだけなのではないか。ちょうどいい自販機こそが、メッセージのない自販機なんじゃないか。

目の前にある、この無機質でやる気のない、何も伝えてこない自販機は、かえって鮮烈なメッセージを放っているのではないか。

自販機なんて、こんなもんでいいんだよ!
どうだ!飲みたいもん揃ってるだろ!よかったな!
どうせ綾鷹かコーラかコーヒーなんだろ!いっぱいあるぜ!

この投げやりさは、もしかしたら、消費への欲望で膨れ上がった僕らへのパンク・ロックなんじゃないか。

そうだ、きっとそうだ。僕たちの生活は、ちょうどよく調律されたものに囲まれている。そして僕はそれに飽き飽きしている。そんな僕が、調律されきっていない、ノイジーなものとの出会いを求めるならば、この自販機のことを、むしろ受け入れねばならないのではないか。

そう考えると、この自販機が急に愛おしい反骨精神に溢れた、強い主体に思えてくる。ありがとう、こんなにも意味だらけの、整いだらけの世界で、適当でいてくれて。ありがとう、こんなにもメッセージが飛び交い続けるくだらない世界で、何も発さないでくれて。ゆえにメッセージを発してくれて。ありがとう。ありがとう。

そんなふうに考えながら、しんみりと綾鷹を飲んだ。いつもの綾鷹より、気持ち、苦い。僕の頭の中で、セックス・ピストルズが流れた気がした。


この自販機を見れるライブ

ちなみに、この自販機は国立市の「ひらくスペース」という本屋さんの目の前にある。僕がたまにライブ会場として借りている場所である。この自販機を見れる、2つのライブの告知を挟んでおこうと思う。果たして秋になって、ラインナップはどうなっているのかしら。

10/11(水)「平日・国立の本屋さんでコント40本ライブ」
時間:18:00‐22:00
場所:国立市 ひらくスペース
料金:1000円 どうしてもという人は500円
内容:240分、コント40本
備考:九月以外出入り自由
予約:以下サイトから。

ふだん土日にライブをすることの多い九月が、「平日にもライブをしてほしい」というリクエストに応えるべく計画したライブである。お客さんの入り具合によっては、今後も継続的に開催する可能性がある。

10/28(土)「昼の本屋さん/夜の本屋さん2」
時間:13:00‐29:00(翌朝5:00)
場所:国立市 ひらくスペース
料金:入場1000円 応援入場2000円
内容:16時間、コント150本
備考:九月以外出入り自由。
予約:不要

たまに九月が行う耐久型のライブである。16時間もコントをすれば、どんなに調子が悪くても、どんなにアイディアが降りてこなくても、何かはひねり出せるはずである。コントをやり続けることで、ハイになっちまいたい。

グミがいっぱいあるフライヤー
マスカット味もあるよ

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