『LOVE ALL SERVE ALL』 



すでにこの世に出ている作品を聴くのと、初めてこの世に産み落とされるものを聴くのとでは雲泥の差がある。新しい生命が産声を上げる瞬間に立ち会えたような感覚に似て、期待と希望がそこにはある。


「きらり」から彼の音楽を聴き始めたので、HEHNの誕生には立ち会えなかった。残念だと思わないし、もっと早く出会いたかったとも思わない。

然るべき時に出会ったのだ。早ければいいってものじゃない。出会う時も人も必然というジャストタイミングがある。

HEHNへの賛辞をレビューで見かける。稀に見る天才。アルバムは一生の宝物。聞くたびに背中がこそばゆいような複雑な気持ちになった。

これは一体だれの言葉?自分で感じた感情か、はたまた他人様の心境に振り回されてるのか。

もちろんHEHNは普遍の名盤。

でもそこまで自分の中に湧き上がる熱さがないのは
誕生の瞬間に立ち会ってないからなんだと、やっと理由に気づいた。



2ndアルバム
"LOVE ALL SERVE ALL”
“全てを愛し、全てに仕えよ”
このアルバムは僕にとって祝福のようにおめでたい作品であり、それと同時にもがきの記録のようなものでもあります。【藤井風コメントより】


アルバムを聴いた今でも、一体何をもがいたのか、苦しんだのか分からない。「分かります!」なんて言えない。寄り添ってあげたいなんてもっと言えない。立っている場所が違う。あまりにも遠い。近く感じさせてくれるのは彼の優しさだ。何もないところから何かを生み出す苦悩なんて、もう本人にしか分からない感覚なんだろう。

春の訪れを感じさせるパッケージ。優しく柔らかな表情。苦悩やネガティヴマインドを言葉やイメージに載せないスタイルが、さらにそれを感じ取る事を難しくさせる。

私は知りたいけど、あなたは知られたくないだろう。 
だから苦悩は隠しておいて。さらりと吹きとばして。最後にゃ笑いたい。




LASAを聴いてみる。
やば。で気持ちよくタイトルに裏切られ。ガーデンで天国を感じる。
damnでセルフラブに酔いしれて、ロンリーラプソディーでは…ああ、やっぱり今はムリだ。

チープな言葉で大切な作品を語る事になりそうだから。ムリだ。私はまだそこまでこの名盤に向き合えていない。

でも、それでは寂しいから、
少しだけおしゃべりさせて。

ガーデンをイヤホンで聴く。Bluetoothがポンっと音を拾って音が流れる瞬間に目の前に秘密の花園が広がる。
鳥のさえずりが心地よい。青い若葉がきらきら揺れ、色彩を放った美しい花々の香りに目を閉じ深呼吸する。

甘く柔らかな声が、長い指が、そっと耳を撫でて。
呼吸するように低く囁く、軽い眩暈みたいに。

「私のガーデン、果てるまで」


鼻の奥に覚えのある感覚が戻ってくる。涙が溢れる直前の子どもの頃を思い出させる瞬間だ。誰にも遠慮せずに、誰にも我慢せずに、解放されて彼の音楽に身を委ねる。


「私のガーデン、果てるまで」


love all serve all

fujii kaze official siteより。

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