【祝!直木賞ノミネート】一穂ミチ著 犯罪小説集『ツミデミック』「違う羽の鳥」特別公開 #1
「違う羽の鳥」#1 夜の雑踏のただ中にいる時、死後の世界ってこういう感じかな、とぼんやり考える。朝では駄目だ。会社なり学校なり、人々の「目的」があまりにもはっきりと見えすぎて空想が働かない。
街灯やネオン看板に見下ろされながら人波に抗わずただ揉まれ、流されするうちに自分というものがどんどんなくなっていく気がする。見知らぬ誰かとすれ違い、ぶつかり、触れるたびかつお節のようにうっすら削られて記憶も自我も散り散りになる。
わずかずつの喪失には痛みも恐怖もなく、気づけば魂は小