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マーケティングに万能薬はない━━『売上の地図』著者・池田紀行さんが語る、noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション #noteとTwitter

noteとTwitterを組み合わせて使う際のTipsを語る「noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション」イベント。今回は、株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長の池田紀行さんにおこしいただきました。

池田さんは6月に書籍『売上の地図』を出版され、マーケティング業界で大きな話題になっています。この本では、ソーシャルメディアやオウンドメディアの売上への貢献の考え方についても詳細に説明しており、従来の企業の売上に関する書籍とは一線を画しています。

今回は、池田さんが本に書かれたマーケティングについてや、企業はnoteやTwitterをどのように「売上」につながるように活用していくべきかについて、じっくりおうかがいしました。

思考停止したインスタントの手法には
飛びつかないこと

━━池田さんの著書『売上の地図』は業界でも大きな話題になっています。なぜこの本を書こうと思われたのでしょうか。

池田さん 僕はマーケティングが大好きなので、すべてのマーケティングをずっと追いかけながら、実践・活用できるものは現場で使い続けてきたという自負があります。マーケティングの世界は環境変化とともに「何々はもう古い、これからはこれだ」みたいなものが次々と出てきます。

池田紀行さん
株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長

本来、マーケティングを志すすべてのひとが考えているのは「売上を上げたい」ということですが、その際、「どのようなインプットを施すことによって売上というアウトプットを増やすか」を考えてしまうんです。インプット、つまり何がしかの施策は、僕の言葉で言うと「お薬」。何のお薬を飲むと病気が治るのかということをやっているのとすごく近いと思っていて。

広告やマーケティングやPRの業界はさまざまな「お薬」がります。たとえば「バズマーケティング」というお薬が流行ると、どんな病気かに関わらずバズの薬を求めるようになる。「エンゲージメント」が流行れば、今度は「エンゲージメントの薬ください」ということになります。

自分が何の病気なのかがわからなければ、どの薬を飲むと一番効くのかがわからないはずなのに、なぜかみんな流行っている薬を飲みたがるんです。「この薬を飲みさえすれば、きっとありとあらゆる課題を解決して、あまり苦労せず小予算でも売上が上がるだろう」というふうに思考停止をしてしまう。だから僕は15年前から一貫して、お薬に目がくらんでインスタントの手法に飛びついてはダメですよと伝えています。

だれもが、「できる限り予算をかけずに、それでいてすぐに効果が出る、競合他社がやっていない先行的な事例をやりたい。でもリスクは取れない」と思っています。でも、そんな施策があったら競合がとっととやって成果を出しています。この世に魔法の杖なんてありません。成功している企業というものは、当たり前のことを狂人的なレベルでやり続けている、本当にただそれだけなんです。

売上に影響を与える要因は「シュート」だけではない

池田さん 多くの同業各社が持つ課題を解決する新しいお薬が登場したとき、競合他社がまだやっていないうちに自社が取り組みを開始し、それが成功したときに、競合を出し抜いて自社の売上が上がります。それが戦略優位です。逆に、競合がすでにやっていることをやっても勝つことはできなくなります。でも、やらないと負ける状態になる。そのうち、業界各社みんながやっていて、自社だけがやっていない状態になる。これが戦略不利です。これをずっと繰り返しているのがマーケティングの歴史だと思います。

より少ない予算で、多くの持続可能な売上を獲得をしていくためには、競合よりも早く、いままでのマーケティングではできなかった自社の課題解決につながる施策にチャレンジしていくことが必要です。それをやるのはリスクも大きいけれど、果実をとれる確率は上がります。

売上に影響を与える要因は「シュート」だけではなく、ありとあらゆる施策が構造的につながっています。敵からのシュートを止めるキーパーがいて、ディフェンダーがいて、パスをつなぐひとたちがいて、最後にフォワードにパスが渡って、フォワードがシュートを決める、それが売上獲得になるわけです。

にも関わらず、なぜかみんな、すべての施策はフォワードによるシュートだと思っているんです。売上に影響を与える要因は本当に数多くあって、シュートもあればパスもあればディフェンスもあるのに、「で、それやったらなんぼ売れんの?」と聞かれ、現場のひとたちは疲弊する。そこには「すべての施策はフォワードによるシュートである」という固定概念があります。この流れを変えたいというのがこの本の目的です。

noteはおいしいあんこをつくって置いておく場所

━━池田さんは、noteやTwitterをどのように「売上」につながるように活用していくべきだとお考えですか?

池田さん noteはプラットフォームなので、それをどの用途で使うかによって箱の場所が変わるという難しさがあるため、きちんと考えなければならないと思っています。

たとえば弊社では、BtoBマーケティングでnoteを更新しています。お役立ちの最新マーケティング事情みたいなものを投稿していますが、主な目的は「そのうち客」の育成です。

お客さんには「そのうち客」と「いますぐ客」の2種類がいます。「いますぐ客」は、いま困っているからいますぐ外部パートナーを探したいというひとたち。「そのうち客」は、そのうちそんなことがあったらどこかに相談しようかなと思っているひとたち。

noteの目的は「そのうち客」の育成なので、自社の商品の営業広告ではなく、とにかく役に立つコンテンツをひたすら投稿しています。それをずっと読んでいると、「トライバルはこの業界のこの情報に関してとても詳しい信頼のおける会社だ」と知覚品質が上がって会社のブランド価値が上がります。そして半年後、1年後にそのひとが困ったときに、「トライバルに相談してみようかな」と一番最初に思い出してもらえたら成功です。そのひとが「トライバル」で検索をしてうちのWebサイトにやってきたら、うちのサイトのコンテンツをほぼ素通りして、問い合わせボタンに直行してくれる。これがうちのコンテンツマーケティングの目的です。

逆に、「いますぐ客」の第一想起を取るためにはどうしたらいいかというと、いま困っているひとがGoogleで検索したら、コンテンツSEOによって、僕が昔書いたnoteの記事が上がってきたりします。こうして、いますぐ客は検索でストック型のコンテンツに触れて、そのままWebサイトから問い合わせにいたります。

このように、どこを目的にするかによっても違うとは思いますが、僕はnoteは「おいしいあんこをつくって置いておく場所」だと思っています。なのでやっぱり、いますぐ客ではなく、そのうち客の育成ですね。

ありとあらゆる消費行動にツッコミを入れる

━━企業でTwitterを担当している方は、上司に「Twitterはどのぐらい売上に貢献しているのか」と聞かれることもあると思いますが、数字では見えてこないことが多いです。そういう方が会社の理解を得るにはどうすればいいのでしょうか?

池田さん 共通言語で議論をするというプロセスを踏まない限り、同じ部署内や会社のなかでの集団合意形成は不可能だと思います。1人がまずTwitterによるマーケティングを理解し、それをチームなり部署なりに広げて共通言語で議論をしていくことが大切です。

みなさんにぜひやっていただきたいのは、1ヶ月の自分の消費行動を振り返り、「なぜこれを買ったのか」を突き止めていくワーク。みんなでそれぞれ1ヶ月の間に買ったものをバーッと並べてみるんです。野菜から食品から飲料から何から何まで、どうしてその商品を買うにいたったのかというプロセスを全部書き出してみたらおもしろいですよ。

たとえば、スーパーでこれとこれを買ったな、なぜ買ったんだろうと考えると、何も考えずに買っていたりする。これがいわゆる「習慣購買」ですね。思考停止をした状態で、いつも買っているものに特段不満がないから「これでいいや」と買い続けている。どういう状態になったら、習慣購買で何も考えないで買い続けるというプロセスに入っていくんだろうと考えるきっかけになります。

また、たとえば掃除機が壊れたとき、広告も何も見ずにスマホでGoogleを開いて「ダイソン」と打っていたとします。なぜ自分は「掃除機 おすすめ」で検索せずに、掃除機が壊れた瞬間にGoogleで「ダイソン」と打ったんだろう、と考えると、そこに鍵があることがわかります。

このように、ありとあらゆる消費行動にツッコミを入れていくんです。人間の営みを科学することがマーケティングなので、自分自身の消費行動を書き出して論理的に抽象化をしていくところに答えがあるはず。それを「地図」にしていくべきだと思うんです。そうすると、びっくりするぐらい長いパスがつながって、最後にフォワードがシュートを打って点数が決まっている、つまり売上を獲得できているように見えていることに気づくはずです。

━━会社で理解してくれない上司がいたら、その上司の消費のプロセスを一緒に検証してみるといいかもしれませんね。そうすればその上司も、「このパスがあったから最後の決めのシュートができたんだ」と実感すると思います。
本日はありがとうございました。

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登壇者プロフィール

池田紀行さん
株式会社トライバルメディアハウス 
代表取締役社長

1973年生まれ、神奈川県横浜市出身。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業のデジタルマーケティングやソーシャルメディア戦略を支援する。日本マーケティング協会マーケティングマスターコース、宣伝会議講師。『売上の地図』(日経BP)、『次世代共創マーケティング』(SBクリエイティブ)、『ソーシャルインフルエンス』『キズナのマーケティング』(アスキー新書)など著書・共著書多数。鎌倉稲村ケ崎在住。

interview by 徳力基彦 text by 渡邊敏恵
写真提供:トライバルメディアハウス株式会社

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