壊れた靴と。
凛とした女性に憧れて、だいぶ昔にヒールを買った。華奢な、綺麗な靴だった。
前夜からヒールを履くことだけは決めていて、爪にまっ赤なマニキュアを塗りながら楽しみにしていた。
翌日、家を出る前に鏡の前で合わせたときは、
嬉しさとちょっと小っ恥ずかしさも覚えつつ、今日という日が少しだけ華やかになるような気がした。
しかし、駅に着いて電車に乗ろうとした時、
厚い靴底が完全にめくれて壊れてしまったのである。
私は動けなかった。
目の前の電車はドアを閉めた。
呆然と立ちすくみ、何をすれば良いかわからなかった。
とにかく動き出さねばと思い、髪ゴムをつま先にくくって応急処置をしたが、なんせ歩くのにとても気を使った。
『綺麗な靴は、あなたを素敵な場所へ導く』
とはよく言うが、今まで私はこの言葉に実感を持ってはいなかった。
だが、『靴がなければ、私はどこにも行けない』ことは身をもって体感した。
今日の靴は、私を突き放した。
『あなたにヒールは似合わない』
と言われたのか、はたまた
『新しい靴を買って、
新しい出会いをしなさい』
ということなのか…。
『相手が疲れ果てるまで振り回す女は、嫌な女だよ』
という忠告かもしれない。
とりあえず、今日からマルコとマルオの7日間なので
靴でも買いに行こうかと思う。笑
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