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特別な虫けら


アルコール依存症者と長く関わった経験から導き出された気づきにとらわれて、以下のように考えを整理した。「アルコール依存症者の問題は、「自分は一匹の虫にすぎない」と考えてしまうことではなく、『自分が本当に特別の存在だ』と思ってしまうことでもない。問題は「自分は虫けらとはいっても特別な虫けらだ」という考えを膨らませていくことだ」というように。近代とは何かを論じた研究を読むと、ここでの「アルコール依存症者」という語を「現代人」と置き換えてもよいのでは、という思いにかられる。

「アルコホーリクス・アノニマスの歴史p367」アーネスト・カーツ著

 ギャンブルの止められなかった虫けらは同じような虫けらが集まっているグループにたどり着き、自分が虫けらだと知りました。
 虫けら同士集まって分かち合いしていると、不思議とギャンブルは止まりました。でも、仕事で苦しくなるとギャンブルに逃げていた虫けらは、分かち合いだけではもたなくなり、ギャンブルが再発してしまいました。

 虫けらは12ステッププログラムというのをやれば、この苦しみから解放されてキラキラした明るい街灯のような世界がまっていると思いました。「特別な」虫けらになれるかも・・・と思いました。

 虫けらは、経験のある先輩の虫けら(失礼)に12ステッププログラムを教えてもらいましたが、優秀で「特別な」虫けらでありたいと思っていたので、ビックブックの内容は理解したような気でいましたが、先輩にその時悩んでいることを正直に話せませんでした。そしてまた再発しました。

 その後、田舎から東京の回復施設に行きました。たくさんの大物虫けらに出会いました。霊的体験をしてるという虫けらにも会いました。施設で12ステップをやりなおし、今度こそ優秀な「特別な」虫けらになったと思って田舎に帰りました。凱旋のような気分でした。

 2年くらい経つと、また苦しくなり仕事を休職しました。自分が優秀でも特別でもないただの虫けらだとやっとわかりました。キラキラした世界はありませんでした。

 でも虫けらは「虫けらを超えた大きな力」を恨むことはありませんでした。なぜならそれまでの経験で「問題は虫けらの側にある」ことを教えてもらったからです。「虫けらを超えた大きな力」を信じてやり直そうと決めました。それから虫けらはなんとか再発せずに生きています。

 時が経ち、虫けらは他の苦しんでいる虫けらを助けようとしました。でも、うまくいきません。「俺が教えているのだから良くなるに違いない。」「俺がグループの中心にいるのだから、みんなが12ステップをやって回復していくはず。」

 また「特別な」虫けら魂に火がついてしまっていたのです。

 そんな経験を繰り返し、虫けらは自分が本当にただの虫けらだと思い知りました。そして最近やっと、ただの虫けらであることに満足してきました。
「ただの虫けらでいい。自分にできると思うことをやろう。」

「虫けらを超えた大きな力」を信じて。


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