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A.メネセス無伴奏チェロ・リサイタルに行きました!の巻

(写真)主催:ヒラサオフィス、2023年11月15日トッパンホールに於けるアントニオ・メネセス 無伴奏チェロリサイタル プログラムより

先日、トッパンホールで開催されたアントニオ・メネセスの無伴奏チェロ・リサイタルに行ってまいりました。

メネセスのことを知ったのは数ヶ月前。
フォローさせてもらっている先輩チェリストさんの記事からです。

記事を読んで、どうしても聴きたくなったメネセスのバッハ無伴奏チェロ組曲の最初の録音。

それは、カザルスの遺品となったゴフリラーを、夫人の承諾を得て使用し、日本のカザルスホールで録音したもの。

廃盤で配信にも出ていないところに、運良く中古CDを手に入れて聴いたが最後、しばらくその演奏の虜になりました。

私の先生とメネセスの縁、そして私とメネセスの遥か遠い縁??を記事にしたのがこちら。

そんなメネセスが日本で無伴奏リサイタルを開くことを知りまして、そのときチケット購入我慢宣言中だったにもかかわらず、中央前から2番目の席を押さえてこの日が来るのを待ち詫びておりました。

曲目は、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番、第3番、第6番と、長調の明るい曲群に加え、メネセス自身がブラジルの6人の作曲家に委嘱した6つの無伴奏曲から3曲を選択して、バッハの各曲の前に演奏する形式です。

これらの委嘱作品の中には、(バッハへのオマージュ)という副題がつけられ、バッハ無伴奏の一部を組み込んで作曲されたもの、バッハの影響を受けながらも現代曲の色合いの濃いものなどあり、バッハへの導入としてそれぞれ効果を発揮していました。

メネセスの演奏は、その明るいキャラクターを映し出すかのように伸びやかで、

「ああ、来て良かった!」

と思わせてくれましたが、拙いチェロの修業に日々勤しむこの身は、チェリストのリサイタルでは、その演奏者の一挙手一投足から、参考になることを一つとして逃すまいと、目を皿のようにして、音楽そのものを楽しむ姿勢が薄くなってしまうのですよね…。

その結果、何を得られたかと言うと、"いやいや上手いなあ"、と感心するばかり…(^^;; 。

あ、ひとつ新たな技を知りました。
これ、みんなやるのかな?

開放弦を弾く時、弓で弾くのはあたりまえですが、それに合わせて左手でピチカートのように開放弦を弾いてるのです。

ギターで言えば、「プリングオフ」をしながらピッキングするかのような。

チェロなので、左手指で軽くピチカートしながらボウイング。

こうすることで、開放弦の音がより強調されるのかもしれません。
現にそのように聴こえました。

演奏は、中盤、後半へとどんどん熱を帯びてゆくのですが、難曲6番ではたまにメネセス自身が顔を軽くしかめます。

けっしてミスではないけれど、ご本人には不本意なニュアンスになってしまったのだろうと感じたのが一度か二度。

思うに、舞台で弾いているチェロが、プログラムやCDのジャケットには出ていない、少し特徴的な色味とツヤの楽器でしたので、日本に来てから借りたチェロで、自分のものにしきれなかったのではないか?

そんな邪推をよそに、全体のパフォーマンスは私の期待を裏切らない素晴らしいもので、また日本に来てくれたら、私は必ずチケットを買うことでしょう。

アンコールは、やはり委嘱作品のうち、今日とりあげなかった作曲家の曲で、「the song of blind man」と紹介していたと思います。

余韻が残るいい曲でした。

終演後、ロビーでのCD購入者にはサイン会があるとのこと。

10種類ほどのCDが掲示されていて、私もせっかくだから買ってサインを頂こうと、選んでいたら…。

おっ、来日記念盤として最近発売されたらしい、バッハ無伴奏の3度目の録音がある!

今日の公演を聴いたら、これ一択でしょう!

サインの列に並びました。

メネセスさんがロビーに登場。
ニコニコして、その場が急に和みます。

30人くらい並んだでしょうか。
私の番になったので、
「私のチェロの先生が、あなたが学校に来てくれたと話してくれた」
とか、
「私はあなたと仲の良かったヤニグロ門下生〇〇先生の孫弟子の卵です(笑)」
とか、
せめて、
「今日の演奏、素晴らしかったです」
くらい話せたら良かった…

実際の私は、サインをもらいながら、係りの方に、
「写真は大丈夫ですか?」
と尋ねて、
「はい。皆様のサインが終わってからでよろしければ」
とのお答えに、密かに心の中で小躍りするだけの、昔ながらのシャイな日本人になるのみなのでした(~_~;)

しかし、自分もトシをとって無遠慮になったなあ、と思います。

自分からそういうことをお願いしてしまう太々しさ。

昔の自分じゃ考えられなかった。
いつからこうなったのかな…。

サインのお客さんが捌けて、先ほどの係りの方を探したら、何やら上司の方に「写真を、と言っているお客さんがいるのでかまわないか」と訊いているようで、話しかけられた上司の男性は私に一瞥くれて頷くのでした。

完全に迷惑な客(笑)。

そんなことは知らずに、メネセスさんは、私と私の後ろでやはり写真をお願いしたと思しきカップルに、
「Sign?」
(日本に何回も来ているので、"サイン"の方が意味が通じるとわかっているのですね)

私が「ぁぁ…フォトグラフ」と言うと、
「OK!」

スマホを出してカメラのレンズを反転しようとしたら、ご本人も「Selfy?」と察してくれて、スタッフの方も「撮りましょうか?」と、メネセスと私のツーショットを3枚程撮ってくれました。
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迷惑客に優しく接する出演者とスタッフの図

最後にお礼して握手して、メネセスさんは最後まで明るくフランクな方でした。

ブラジルはイメージ通り、明るい方が多いのでしょうかね。

人物も好印象で、公演自体が一生の思い出になりました。

そうそう、翌日早速CDを聴いたのですが、過去2作を上回る名演奏ではないか!と思います。

※【11/20補筆】旧盤を聴き直し、やはり重々しく、少し時代がかったあの旧盤の魅力には(自分の感性は)勝てないと思い直しました。
と言って、この新盤が劣るとも思いません。
今の時代の空気でメネセスが演奏するなら、当然こうだろうと強く感じるからです。

この2枚組をフルで何回も聴いて思ったのは、やはりメネセスさんのバッハは長調の曲が特に秀でている。

知ったようなことをほざきますが、音楽は人を表わします。

私がいい演奏ができるようになるには、最低限の技術を身につけるのはもちろんのこと、音楽に取り組む姿勢、自分という人間を磨くこと、その曲に何を込めるのか考えること、そういうことが大事なんだなあ、と思うこの頃なのです。

プログラムにもサインをもらいました。


それではまた!


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